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シアワセ  作者: 真里貴飛
32/58

《31》

『お目覚め占いの時間だよ~☆』


テレビからテンションの高い声が聞こえてくる。現役時代、毎朝の日課であったお目覚めテレビの占いコーナー。キャスターの七尾優空(ななおゆうあ)が独特の調子でコーナー開始を宣言する。


決戦当日。自然と早起きとなってしまった俺は何気なくテレビをつけると、時間的にちょうどお目覚めテレビの占いコーナーがあることを思い出し、チャンネルを変えたところものの見事なタイミングだった。まだ起き抜けの頭は、自分の星座以外の情報はまったく入ってこなかった。そして、9番目の星座〝いて座〟の番を迎える。


『いて座のあなた!今日の運勢は可もなく不可もなく。物事がどう転ぶかはあなたの日頃の行いがモノを言うでしょう☆四字熟語で言うなら〝銀河横暴〟……じゃなかった、〝因果応報〟って言葉がしっくりくるかなぁ?まあ、気張りすぎは身体の毒なので、〝なるようになるさー〟〝なんくるないさー〟のお気楽極楽な精神で十分お釣りがくると思いまーす♪』


〝因果応報〟か……。


たかがテレビの占いとはいえ、このお目覚めテレビの占いは昔に限って言えばになるが、けっこうな確率で的を射ていることが多かった。俺の中である程度の信頼を勝ち取っている占いのため、この内容に関しては自分自身に自問自答せざるを得ない。


〝因果応報〟。広辞苑によれば、過去における善悪の業に応じて現在における幸不幸の果報を生じ、現在の業に応じて未来の果報を生じること、とある。

果たして俺は、今日の果報を得るために、これまで善い行いをしてきただろうか。


……。


……どうかな?


少なからず不安を覚える。別に、俺は善い人間ではない。文句を言えば不平だって垂れる、その辺にいる平平凡凡なひとりの人間だ。どちらかと言えば、人との付き合いは苦手な方だし、ボランティア精神に富んでいるわけでもない引きこもりタイプ。そう考えると、〝善い行い〟だなんてやってきた覚えがなさすぎる。


だけど、この試合に向けて、やれるだけのことはやってきた自負はある。それが=〝善い行い〟だったかどうかは分からない。下手をすると、余計なお節介だった可能性もあるわけで。だから、もう考えないことにする。あとは〝神のみぞ知る〟だろう。覚悟を決めた。


ちなみに、ラッキーアイテムは〝スポーツタオル〟だった。嵩張るものでもないし、持っていこうかな。俺は昔購入しておいた肩掛けバッグにスポーツタオルを入れた。


……そういえば、花澤って何座だったんだろう。


占いを鵜呑みにするわけではないが、今日の主役である智花の運勢も参考程度に知りたかったなと思った。〝藁にも縋る〟ではないが、この際、縋れるものには何にでも縋った方がいい。少しでも運気がアップすれば御の字だ。勝つための努力はし過ぎることはない。


『おぉ~っと!ここで、みんなに悲しいお知らせだよぉ』


占いコーナーが終わり芸能ニュースへと移行すると、涙を拭うような仕草を見せる七尾優空。何事かと思い、朝食を摂りながら再びテレビ画面へと集中する。


『兼ねてより噂となっていたことが現実のモノとなってしまいました!〝ロリコン〟でお馴染み、今人気絶頂のアイドルグルーブ〝ローリング・コンクエスト〟のメンバー花咲桃花さんの熱愛が発覚してしまいました~!!』


何だ、そんなことかよ……。


俺は思わず脱力する。構えて聞くことではまったく無かった。よくよく考えてみれば、〝芸能ニュース〟だ。俺にとって関係ある話なわけがない。


『―〝ローリング・コンクエスト〟は〝会いに行けるアイドル〟をコンセプトとした働くアイドルグループで、メンバーは花咲さんを含めた5人で活動をしています☆最近人気の下降気味の元祖会いに行ける、スキャンダルが売りのアイドルグループ〝SDLスキャンダラス)48〟を凌ぐ勢いで台頭していただけに、この報道がどのような影響を及ぼすのか、今後の彼女たちの動向に注目が集まりそうですっ!ファンの皆さんの気持ちはイタぁイ程分かりますが、元気出してね!〝GO for it〟ですよっ!そいじゃ、次のニュースいってみよう~!』


七尾優空の怒涛のハイテンションでニュースは進行していく。俺は朝の天気予報を聞き終えたところで、テレビを消して身支度を整えに入った。





「遅いな……」


体育館の入り口にて、壁に身体を預けて向かいの通りを凝視していた俺はぽつりと呟いた。俺の呟きにメンバー一同も心配気味に言葉を漏らす。


「そうですね……」


「どうしたのかな……」


「敵前逃亡?」


「そんなワケあるわけないよ!花ちゃんが逃げるわけないだろ!?」


そう、唯一姿が見えないのは他ならぬ智花だった。集合時間を5分経過したくらいで『遅い』というのはいささか言い過ぎかもしれないが、あの真面目な智花に限って言えば、それもさもありなんと言えるだろう。時間に遅れるなんてこと、あの智花から想像出来ない。


……まさか、何らかの事故に巻き込まれて……!?


可能性がないとは言い切れない。現に、智花は中学時代、決勝戦前日に交通事故に遭ってしまった前科がある。『まさか、またしても』と思わずにはいられない。そんな不運が続くとか信じたくはない。だけど、運命は時に残酷だ。努力する人を嘲笑うかのように神様は残酷な仕打ちをすることもままある。


……おい、それは幾ら何でも酷過ぎるだろ。


俺は激しく後悔する。油断していた。昨日、無事に送り届けたからといって、今日無事に会場に辿り着けるかどうかなんて分からなかった。〝砂時計〟のことを忘れたわけではない。

でも、それが今朝起こってしまうとか、どう考えてもあんまりだろう。せめて、今日の試合ぐらい、参加させてあげなければ無慈悲すぎる。例え、それが負けてしまったとしても、その舞台に立てないまま終わってしまうなんてあんまりだ。


……約束、したじゃないか。これで終わりだなんて、あり得ないよな……?


絶望が脳裏を過る。意図せず涙が零れそうになって、咄嗟に俺は顔を覆ってしまう。


せめて、花澤に試合をさせてやってくれ……。


心からの懇願だった。


「あ!」


「キター!!」


「うん!」


「真打ち登場」


陽飛、真由、愛、比奈子の口から声が上がる。俺はばっと顔を向ける。智花が小さな汗を飛ばしながら小走りで駆けて来た。俺はほっと安堵の息を漏らした。


「す、すみません!寝坊、して、しまいました」


はぁ、はぁ、と息を切らしながら、智花はみんなに頭を下げた。


「寝坊?真由ならともかく、智花にしては珍しいわね」


「目覚まし時計の電池が切れちゃってたみたいで……」


「コラーっ、なにがあたしならともかくだ!」


「ま、真由ちゃん、落ち着いて」


「ねむねむねぼすけ」


「うん、ごめんね、みんな。心配掛けちゃって」


呼吸を整えた智花は再度みんなに謝った。


「ううん、大丈夫よ」


「智花ちゃんのこと信じてるもん」


「そうともさ!気にすることなんてゼンゼンないかんね!あとは、試合に勝つだけだ!」


「絶対勝利」


「……ありがとう、みんな」


満面の笑顔で迎え入れてくる4人に、智花は嬉しそうに微笑んだ。機を見て俺が口を開く。


「よし、みんな揃ったね。行こうか」


これ以上、他に俺が言うべきことはない。みんなが代弁してくれたから。前へ進む言葉だけで十分だ。


「「「はい!」」」


気合いを入れ、5人+俺の6人で体育館の入り口を潜った。





【試合形式は10分を1クォーターの4クォーター制。クォーター間の休憩は2分、第2クォーターと第3クォーター間の休憩は10分。タイムアウトは1分で第1・第2クォーターに1回、第3・第4クォーターに1回とする。選手交代はなし。5ファウルで退場の代わりにフリースロー2本を相手に与える。以降ファウル1つを重ねる度に相手にフリースロー2本を与える】


コートに集合し、ひよりと陽飛が今日の試合のルールを確認する。変則ルールではあるが、〝シューティング・スターズ〟に代えの選手はいないため、良心的なルールの取り決めだと思う。〝5ファウルで退場〟となったら、4人VS5人の構図が成り立って試合にはならなくなる。さすがに、相手もそこまで鬼ではなかった。


アップを終え、両チーム各々のベンチへと集合する。


「おーし!遂にケッセンの刻!思いっきりバクハツしてやるぜ!」


「うん!頑張ろうね!」


「勝つ以外ない」


「……あれ?」


「どうしたの、智花?」


ベンチにて水分補給をしつつ、目前に迫った試合に向けて各々意気込みを口にしていると、智花がバッグの中に手を入れながら戸惑った声を上げた。気づいた陽飛が声を掛ける。


「あ、うん、タオル忘れちゃったみたい。たぶん、朝慌てて出てきたから」


「それは困ったわね。私も今日は1枚しか持ってきてないし」


……え、タオル?


「花澤、タオルないのか?」


「は、はい、うっかり忘れてしまったみたいで」


「これで良ければ使って」


俺はもう1度確認してから持ってきていたタオルを差し出した。智花が驚きの声を上げた。


「えぇっ!?どうして、先輩がタオルを……?」


「いや、その、何となく?まあ、ちゃんと洗濯してあるから、安心して使ってよ」


「あぅ……その、えっと」


「はい!ありがたく使わせて頂きます!」


戸惑っていた智花を尻目に、陽飛が代わりに受け取った。陽飛は意味深な笑みを智花に向けてタオルを智花に手渡す。


「良かったじゃない、智花。高梨さんもそう言って下さっていることだし、遠慮なく使わせてもらいましょ」


「は、陽飛……。すみません、先輩。ありがたく使わせて頂きます!」


「ああ」


何だか逆に智花を困らせてしまったかと思ったが、一応ラッキーアイテムとして持ってきて良かったかもしれない。汗が拭えず、汗で滑ってプレーに支障が出るのを防ぐために少なからず役に立つことだろう。

準備万端整った5人。対する〝ムーン・ドリップス〟について簡単に確認し、運命を別つ決戦のコートへと並び立った。

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