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シアワセ  作者: 真里貴飛
28/58

《27》

「……」


「……大丈夫?タカ兄」


由季は心配そうに俺のことを見やってくる。俺は頬杖をつきながら小さく「う~ん」と唸ってみせた。


「もしかして、あんまり頼んじゃマズかったかな?タカ兄、お財布大丈夫だった……?」


「ああ、心配すんな。全然足りる。付き合ってもらってるお礼だしな」


食え食え、と由季を促す。テーブルには所狭しと並んだ料理の数々。そのほとんどが由季のオーダーした物ばかりで、これに加えて食後にはチョコレートパフェが待っているのだから恐れ入る。何でも、バスケを再開してからというもの食欲が増したらしい。今はサークルの役員も務めているようで、忙しい毎日を送っているとのこと。


こうやって、自分の合宿を抜け出してまで付き合ってもらっているのだから、多少なりとも誠意を見せなければ男が廃る。


……後で下ろしてきた来た方がいいかもな。


「強かったね、〝ムーン・ドリップス〟」


にんにく増し増しのラーメンの汁を飲み干して空になった器を置きながら由季が言った。


「正直、あそこまでレベルが高いとは思わなかったかなー。ひとりひとりの技術の高さもだけど、チームとして洗練されているというか」


「ああ……」


つい20分前、目にした光景を思い浮かべる。

〝ムーン・ドリップス〟内での試合は、圧倒的な差をつけてレギュラー組が勝利した。6番の歳内莉央を起点として、5番の宮田かなえがインサイドを制圧し、8番の島村亜姫がアウトサイドからミドルシュートでゴールを奪う。ディフェンスはオーソドックスなマンツーマンらしく、7番の田畑琴子がゴール下の要として君臨し続けた。シュートのこぼれ球―リバウンドはほぼ彼女が獲り続け、相手にセカンドチャンスを与えない。


そして、極めつけは4番の花形ひより。どんな状況下からでも得点できる爆発力は宮田・島村の比ではなかった。インサイドへのカットインから相手のファウルを物ともせずに押し込むパワープレイ、アウトサイドからのミドルシュートも異常なまでの成功率の高さを誇った。〝絶対的エース〟の言葉は彼女のためにあると言っても過言ではないほど。


チームとして、選手個人の役割分担が明確にされており、それだけに〝強い〟と思った。

智花たちもレベルは低くはないと思うけど、この〝ムーン・ドリップス〟と比べたら……。


「タカ兄、そんな暗い顔しない」


そんな俺の考えを見通してか、由季は窘めるように言った。


「タカ兄が沈んでたら、みんなに伝わっちゃうよ。タカ兄なら分かってるでしょ?」


「あ、ああ、そうだな。ごめん」


「レベルは高いけど、オフェンスもディフェンスもあくまでオーソドックスだった。対策は十分に立てられると思うよ。まあ、花澤さんたちのレベルに因るけど」


「そうだよな」


結局のところ、由季の言う通り、どんなに完璧な対策を打ち出してみたところで、実践する選手の力量が鍵を握る。〝豚に真珠〟、〝猫に小判〟、〝馬の耳に念仏〟。今日のこの時間が血となり、肉となるのかは未知数だ。


「練習会は水曜日だったよね?〝ムーン・ドリップス〟対策の練習メニューをちゃんと組んでくるから。安心してよ」


「うん、ありがとう」


にこりと微笑む由季に俺も力なく笑みを向ける。

由季の惜しみのない協力には本当に頭が下がる。由季が作ってくれる練習メニューがあれば、文字通り付け焼刃であったとしても〝ムーン・ドリップス〟に勝利する確率は数%程度上がるだろう。


でも……それでいいのか?


何かが引っ掛かる。俺は何かを忘れている気がする。警鐘が頭に鳴り響いていた。このまま、由季と別れて練習会の水曜日を迎えてしまっていいのか。俺の中に得も言われぬ不安感が渦巻く。


何なんだ、この感覚は……。


分からない。……分からないけど、このままではきっと失敗するような気がする。しかも、高確率で。


これは……俺の勘、か?


昔、曲がりなりにも戦いの場にいたスポーツ選手として培ってきた勝負勘。裏打ちはされていないが、それでもこの感覚はたぶん、俺のそれ。信じていいはずだ。


何だ、何が俺をこうも急き立てる……?


……。


意識を自分の内面へと沈み込ませる。思い出せ。この数日の間にあったこと。その中に答えはきっとあるはず。


……。


〝ムーン・ドリップス〟……花形ひよりさん。

土曜日の試合。負けたら、花澤がバスケを辞める。勝ったら、花澤はバスケを続けられる。

花澤の過去。井口さんたちとの出会い。花形さんと花澤の約束。


……。


不安感の正体……それは、花澤との会話か……?



『ただ、私たちの場合、実戦経験がほとんどないんです』



……そうだ。思い出した。確か、智花はそんなことを言っていた。

実戦経験……それは幾ら練習に時間を費やしたからといって、経験値を上げることは出来ない。試合をすることで得られていくものなのだから。こればっかりはどうしようもないじゃないか。今更言っても始まらない。これに関しては……。


……。


1度目を閉じ、軽く深呼吸してから、目を開けた。


「……なあ、由季」


「んー?なぁに?」


由季は小首を傾げる。俺は意を決して口を開いた。


「頼みがあるんだけど」

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