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シアワセ  作者: 真里貴飛
25/58

《24》

【……やっぱり俺、バスケがしたいです】


【全国NO.1を超えてやる!】


【やっと掴み取ったチャンスなんだ……!】


【日本一のプレイヤーになる。今日ここであんたを倒して】


【根性見せてみろや!流れってぇのは自分たちで掴み取るもんだろーが!】


【できたよ。断固たる決意ってやつが】


……やっぱ、熱いな。


「って、違うわ!」


智花と別れた俺は、家に帰るなり高校時代に集めていたバスケ漫画を引っ張り出して読み漁っていた。

気がつけば夜もいい時間帯になっていて、窓の外の明るさと腹の減り具合からもうすぐ晩ご飯時だろうということを察する。


「いや、違わないけど、そもそもの目的が違うんだよな」


バスケ漫画を読んでいた理由は何も智花の話を聞いてバスケに感化されてしまったからではない。他ならぬ来週の試合に向けて、少しでも何か勝つための策がないか模索するためだった。別に、遊んでいるわけなんかでは決してないのだ。


……まあ、夢中になって読んでいたのは否定出来ないが。


「とはいえ、漫画に頼るというのも心許ないよな」


全31巻を読破し、幾つかの戦術やフォーメーションなどを得ることは出来たが、実際の試合でいきなり実践出来るのかという疑問は残る。


……そもそも、花澤たちはこの漫画だって読んでそうだし。


智花に訊いたところ、智花を除いたメンバーで学校の部活動でバスケをしていた経験者は陽飛と愛の2人だった。真由と比奈子はあの球技大会がきっかけとなって本格的にバスケを始めたのだという。


けど……花澤の話だと、井口さんって球技大会でチームの得点源だったんだよな?

そりゃあ、球技大会の出場を決めて数日練習くらいしただろうけど、それでゴールを量産するだなんて恐ろしい才能じゃないか?


よくよく考えると、真由も凄い才能の持ち主だと思う。


「みんなキャリアは違えど経験者なんだよな。俺なんてバスケは専門外だし、力になれることは何もないか……」


ただ、このまま試合の日を迎え、もし智花たちが負けてしまったら。


……花澤、自殺するかもしれない。


普通この手の展開なら、試合に見事勝利し、親友との仲も元通りとなり、無事ハッピーエンド……というのがベタだと思うけど、そうそう現実は甘くないもの。最悪な結末だって十二分にあり得る。


ただ……。


「気掛かりなのは、あの視線の主だが……」


こんな急展開になり、とんと忘れてしまっていたが、元々の話の発端は『誰かに見られている気がする』という智花の相談だった。てっきり、その視線の主が〝砂時計〟の原因かと思ったが、今のところ初日に俺が感じた以外、今日まで何ら異変はなさそうだった。


……あれに関しては花澤の勘違いだったのかな。


「まあ、時期的に言っても試合の日がそのXデーっぽいし、これを乗り切ることを最優先に考えた方がいいはずだ」


……と言ったところで、俺には何も名案が浮かばない。

結局、花澤たちが頑張ってくれるのを指をくわえて見ていることしか出来ないのか……。

これがまだテニスであれば何かしらのアドバイスが出来たのだが。


―ピンポーン。


そんなことをうだうだ考えていると、思考を遮るようにしてインターホンの音が鳴り響いた。


誰だ、こんな時間に……。


訪問者など滅多に来ない俺の家にインターホンが鳴ったことに珍しいと思いつつ、俺は玄関のドアを開けた。


「やっほ、タカ兄」


「由季か」


ドアの外にはこれまた珍しい来訪者―神凪由季(かんなぎゆき)の姿があった。


「何そのがっかりしたような言い方ー?」


「あ、いや、別に他意はないって。訪問客なんて滅多にないから誰かなって思っただけで」


やんわり非難してくる由季に俺は苦笑混じりに弁解する。由季は俺の親戚。俺がこっちで就職するまでは定期的に(それでも数ヵ月単位だが)交流はあったが、最近は1年に1回会うか会わないかの所謂〝織姫と彦星〟状態。


……そんなロマンチックな関係では露ほどもないが。


だいたい1年振りの由季だが変わってはいなそうだ。円らな瞳、肩に少しかかる程度のショートヘアー、いつも〝元気一杯〟を地でいく女の子は陽だまりのような笑顔を浮かべている。俺が唯一気兼ねなく話せる女の子。身内の贔屓目を差し引いても、かなり可愛い部類に入ると思う。


……少し、大人っぽくなったかな。


由季はジャージ姿にスポーツバッグを肩に掛けていた。


「久し振りだな。元気にしてたか?」


まあ入れよ、と部屋へと促しながら形式ばった挨拶。


「うん、元気だよ。タカ兄も元気そうだね?仕事頑張ってる?」


「まあ、ぼちぼち。えっと……大学、今何年なんだっけ?」


「3年だよ。もう少ししたら就活始まっちゃう。ちょっとだけ憂鬱かなー」


部屋の適当なところに由季を座らせ、冷蔵庫からペットボトルのお茶を手渡す。


「ありがとう」


「どういたしまして。つーか、マジか。もう3年なのか」


言いながらベッドに腰を下ろした。


「早いな。ついこの間、大学に入ったんだと思ったばかりな気がする」


「時が経つのは早いものなんですよー。タカ兄も油断してると、あっという間におじいちゃんになっちゃうかも」


「おいおい、せめてそこはおじさんにしてくれよ……」


「う~ん、どうだろ?」


俺の反応に由季は楽しそうに笑う。独り暮らしの部屋が一気に明るくなる。

やっぱり、誰かがいるって違うよな。由季のもたらす明るさにそう思わずにはいられなくなる。


……別に、寂しいとか思ってないけど。


言い訳じみた誤魔化しを振り払って俺は話題を変える。


「そういや、どうしたんだよ?急に俺ん家に来たりして」


「えー、何か理由がなきゃ来ちゃいけないの?」


「い、いや、そういうわけじゃないけどさ」


「ふふっ、タカ兄慌てすぎ。冗談だよ。合宿でこっちに来ててね。タカ兄、ちゃんと生きてるかなぁって思って」


「心配してくれてありがとよ……。そっか、大学生はまだ夏休みなんだっけ。合宿っていうと野球部の?」


確か、由季は高校時代に野球部のマネージャーをやっていたはず。これに関しては記憶に自信がある。

何せ、由季の学校は甲子園に初出場してベスト4まで勝ち進む快進撃をやってのけたのだ。優勝には惜しくも届かなかったが、その秋のドラフト会議にまで引っ張られる選手が数人いたほどで印象が強かった。


けれど、由季の口から意外な言葉が飛び出した。

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