《23》
凄すぎるだろ。率直にそう思った。5年以上も競技から離れていた子が、決勝戦の正真正銘ラストプレーで、逆転のシュートを決めてみせるだなんて。普通に考えて、とんでもないぞ。勝負強さ、度胸、才能……その他諸々ひっくるめて凄すぎる。
「その球技大会をきっかけに、真由たちとバスケをするようになったんです。6人でバスケサークル〝シューティング・スターズ〟を作って、みんなでバスケをしていました。最初は、やっぱり気が進まなかったんですけど、あの球技大会のシュートが私の抑えていた気持ちを呼び起こしてしまったみたいで。みんなの懇願もあって、ひよりの約束を蔑ろにしてこれまでずっと続けてきてしまったんです」
「そういうことだったのか……。あれ?じゃあ、あと1人のメンバーは?」
「今、仕事の関係で海外にいまして」
なるほど、それじゃあ参加は無理な話だよな。
「すみません、とても長い話をしてしまって。退屈でしたよね、私なんかの話なんて」
申し訳なさそうに言う智花に俺は首を振った。
「ううん、全然。聞けて良かったよ。花澤の過去に何があったのか、花形さんとのことや井口さんとの出会い……おかげで色々すっきりした」
想像を遥かに超える智花の過去だった。俺なんかと比べるまでもない最悪な不運が襲い、大好きだったバスケと親友を失い、その理不尽な約束を律儀に5年も守った。もう十分だろう。これ以上、その約束に囚われる必要はないと思う。この重たすぎる枷を外して、自由に飛び続けてもいいだろう。仲間もバスケも、この子からもう1度失わせてはいけない。
「花澤は……今でも、花形さんとの約束を気にしてる?」
「そうですね……気にしてない、と言ったら嘘になります。やっぱり、大事な約束でしたから。正直、それを破ってしまった後ろめたさはあります。少なからず、ずっと感じてはいました」
伏し目がちに智花は言う。
……ったく、なんて真面目なんだよ。悪態をつきたくなる。
「そっか……。なあ、花澤。花澤が今してくれた話を聞いて、俺が感じたことを言ってもいい?もちろん、聞き流してくれて構わない」
「はい!遠慮なく仰ってください!ぜひお訊きしたいです!」
智花は真摯な態度で俺に顔を向けてくる。背筋をピンと伸ばして、まるでど偉い教授の講義でも聞こうとする一学生のような体勢。
……そんな大した話は出来ないけど。
「正直、花形さんとの出来事は不運だったとしか言い様がない。花澤が試合に出れなかったのも、花形さんのお母さんが亡くなってしまったのも最悪なタイミングだった。花澤だって、好きで事故に遭ったわけじゃないのにあんなこと言われて辛かったと思う。本当に。……よく守ったよ、5年間も。やりたかっただろ、バスケ。よく頑張った」
「……先輩……」
智花の瞳にうっすらと涙が溜まっていく。俺は続けた。
「もういいよ、そんな後ろめたさを感じなくたって。俺は、本当は花形さんだって分かってると思うんだ。あの出来事が花澤のせいなんかじゃないってことは。上手くは言えないけど、ただ……引っ込みがつかなくなってるんじゃないかな?……俺の想像でしかないけど、本当は花形さんだって心の底じゃあ花澤と仲直りしたいと思ってると思う」
「そう、でしょうか……?」
「うん。だって、でなきゃ『もう1度試合』だなんて言わないんじゃないかな?」
話を聞く限り、ひよりはプライドの高い女の子だ。すれ違った後、元通りになる術を持ち合わせていなかったのではないだろうか。この2人には元に戻るためのきっかけが必要だったのだ。この申し出は、智花にとって願ってもない好機だ。
……花形さんにとっても、かもしれない。だから、あとは―。
「花澤」
力を込めて言う。ここしかない、という意思も込めて。
「来週の試合、絶対に勝とうな」
「……はい!」
コートのベンチの上で、俺は智花と強い誓いを込めて各々の拳を合わせたのだった。




