アイリスの恐ろしさ
「森の方から来るニャ」
レリムが指差す方からドタバタした音が聴こえてくる。
1体ではない、複数の音からして何体かいる。
「「「オオオォォォ」」」
勘は当たり、オークよりも背の高い筋肉隆々な緑の鬼が3体、森から出てきた。
俺達を逃さないように挟み、獰猛な顔で睨んでくる。
「オーガにゃ! ちょっとは楽しめるニャ!!!」
これがオーガか! めちゃくちゃ強そうだ。
恐ろしさのあまり足がすくむ。
普段は雑魚ばかりで空き空きしていたレリムが、今日はいつになくヤル気を出している。
オーガと呼ばれるモンスターは、今まで俺があった中で1番強い敵なのだろう殺気がハンパじゃない!
・・・嫌だ!!! 逃げたい。
「お……お兄様は私が守ります……」
アイリスだって怖いはずなのに、俺を庇い前に出る。
ここまでの戦闘で疲れているはずなのに……俺は何もできないのか……
いや、あるじゃないか!
スキルで通販を開き、素早くジュースを購入する。
さらにアイテムボックスから自作のポーションを取り出す。
《マタタビジュース》¥100
獣人に飲ませると滋養強壮が高まり、戦闘意欲が湧く!
さらにパワー、スピード、ディフェンス、スタミナを強化する。
人間は滋養強壮だけ高まる。
《エナジーポーション》
ポーションよりも回復量が増強されている。
傷がすぐに治り、滋養強壮が高まる。 疲労回復効果あり。
部位欠損、毒と病気には効果なし!
マタタビジュースを飲ませる事で、アイリスの恐怖を払拭し、戦闘意欲を高めステータスを一時的に強化する。
戦闘で疲れた身体を回復させるためにエナジーポーションも飲ませる。
「ごくごく……美味しいォォオオン……」
「ガオォォン!!! 怖くないです! かかってこいォン!」
銀狼獣人の咆哮を聞いてオーガが襲いかかってくる。
レリムは超スピードで動きオーガ2体を瞬殺してしまう。
「面白くない……もうちょっと頑張ってニャ」
オーガでも最強猫獣人には手も足も出ないようだ。
素手なのに、どんだけ強いんだよ、ひょっとしてドラゴンも武器無しで勝てるんじゃないか……
「わぉん……負けないォン!」
アイリスはオーガの攻撃を交わして、少しづつ斬りつけている。
あまりダメージは与えれていないが、いい勝負だ。
「他にも敵がいるニャ! ちょっと相手してくるニャ!」
そう言って森の中へと入ろうとする。
1人で行くのは心配になるが、アイリスのサポートをした方が無難だろう。
念のためにレリムにもポーションを渡しておく。
「頼んだレリム!」
「ニャニャ! 心配ないにゃん……任せるニャ!」
森の中へと消えたレリムから、視線をオーガに移すとアイリスが追い込まれていた。
「痛ぃですォンン……躓いてしまいました……」
どうやら地面に躓いて倒れてしまったみたいだ。
チャンスとばかりに、丸太ぐらい太い腕を振りかぶるオーガ。
まずいピンチだ! このままじゃアイリスが……
怖いとか言ってる場合じゃない、家族を助けないと!
俺は走りだしオーガにタックルを決めるが、まったく微動だにしない。
筋肉の塊みたいなモンスターに、俺のようなヒョロヒョロでは太刀打ちできないか。
「オオオォォォ」
標的を変えて片手で俺をつかみ投げ飛ばす。
地面に叩きつけられ、肺が圧迫されて息ができない。
くっ……苦しいぃぃ……はやくポーションを飲まないと……
「ぐふぅ……はっ……ぅぅ」
この窮地から逃れるためにポーションを手に持つが、目の前に緑色のバカでかい足が視界に入ってきた。
見上げると……オーガが拳を構えている。
「っやべ! くっ…………えっ!?」
突如シャキンという音が鳴り、目の前にオーガの腕が落ちてきた。
敵も何が起きたか分からず唖然としている。
「ガルル! てめぇこの野郎! 脳天がブチギレたぜ!!!」
そこには鬼の様な形相でオーガを睨むアイリスがいた。
どうやら敵の腕を切り落としたのは彼女みたいだ。
「よくもお兄様を! 地獄に落としてやる……ガルル」
優しくて言葉が綺麗な彼女が、汚い言葉を吐いていることに驚いてしまう。
「ガォウ! 死んで詫びろ……我狼剣一ノ牙……《瞬》」
一瞬だけアイリスの姿が消え、鋭い音が響きオーガの首が中に舞い、残った胴体が倒れる。
危ないところだったが俺達の勝ちだ!
敵を倒した彼女が近づいてきて、俺の手からポーションを奪い飲ませてくれた。
「はぁっ……ごくごく……ふぅ〜助かったアイリス!」
呼吸が楽になり身体の痛みが無くなった、これで動けるな。
先程のアイリスの豹変はなんだったのだろうか……
「えっと……違うんです。 いつもは、あんな乱暴なことする女じゃないですォン。 好きな人には尽くすタイプです……わぉん」
なんか知らんが、いいわけしてるぞ。
乱暴な女とは思っていないが、正直すごい怖かったです!
確実にオーガよりヤバい殺気を放っていた。
「……よく頑張ったなアイリス!
オーガに圧勝するなんて思わなかった」
「お兄様がくれた飲み物のお陰ですォン!
あと……気づいたら怒ってました! すごく怒ってましたォン!」
なぜ2回言った! 絶対にアイリスを怒らせてはいけないな!
普通の状態ならゴブリンを倒せる程度だが、ブチギレたらオーガも倒せるぐらい強いのか。
あの必殺技みたいのは何だったのか聞いてみる。
「銀狼獣人が使う秘伝の拳法ですォン!
本当は剣ではなく、拳でやる技ですが私にはできません。それから……」
……我狼拳とは猫獣人が使う猫斗獣王拳みたいなもので、幼い時から父親に習っていたみたいだ。
型はしっかり身につけたが、センスがなく格闘スキルを得るには至らなかった。
本来は拳でやる技を、武器を使ってやってみせたアイリスは意外に天才肌ではないだろうか。
そうこうしているとレリムが戻ってきた。
「ニャニャ! みんな無事でよかったニャ!
倒したオーガの回収手伝ってニャ。」
オーガの回収を終えた。
全部で20体もいて驚いてしまった、レリム1人でオーガ19体を相手したことになる。
それにオーガって、こんなにいっぺんに出てくるものなのか……
「おかしいニャ! こんなにオーガと出くわしたこと無いニャ」
やっぱりそうだよな!
俺だけでなく彼女も疑問に思ったようだ。
前にレーガの町で森に入った時もそうだったが……オークに追いかけられるゴブリンに遭遇した。
もしかしたらオーガも自分より強い相手に追いかけられていたのではないだろうか。
そうだったとしたら相手はいったい……
「とりあえず、ご褒美ほしいニャ! ウチもマタタビジュース飲みたいのニャ」
人が真剣に考えているのに、お前はマイペースすぎる。
アイリスにだけ渡したのを根に持っているのか、1人だけ渡さないのは不平等だと思い、彼女にもジュースを購入した。
「これニャ! これニャ! 仕事おわりの、この1杯がたまらないニャ!!!」
お前は仕事帰りのビール呑みほすオッサンか!
幼くて可愛いのだから、女の子らしく飲んでほしいものだ。
「もう一本つけてニャ!」
お酒頼む時みたいな言い方しないでほしい、ただのジュースだから……飲ませすぎると、どうなるか分からないので、1日一本までだと言い聞かせる!
「ケチにゃ……王様になりたいなら、そんなケチなこと言っちゃダメにゃ!」
いや王様になりたくないです!
なんで元ニートの俺が王様なんて忙しそうな職に就くんだよ。
まず絶対に成れないし……うん? そういえばアイリスも王様がどうとか言ってたよな……
「はい! お兄様は獣人王になるお方ですォン」
「2代目獣人王様ニャ!」
ナニなに? どういうこと……何で獣人の王様なわけ? 人間の王様じゃないのか……
「獣約聖書に書かれているニャ! だからご主人様は獣人王になるニャ!」
「旧約聖書のことか?」
「それは人間の聖書ニャ! 獣約聖書は初代獣人王ガルバロス・ウルフリック様について書かれてるニャ! 獣人なら、ウチみたいな子供でも知ってるニャ」




