人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり
レベルが上がった人々は贅沢の限りを尽くした。
海にいけばウニやウナギを食し、小鮒を釣って川で塩焼にし、おいしいウサギを山で養殖、砂糖を大規模に栽培していく。人の世において生け簀を作り、不埒な味覚三昧とはまさにこのことだろう。
彼らはレベルにおごり、有り余った体力をもてあましながら暴飲暴食、不健康な生活を続けた。
そんな彼らはどうだろうなってしまうのか?
ある人は痛風となり、ある人は糖尿となってしまうではないか。
いくら異世界で治癒術式が発達していたとしても、生活習慣病に立ち向かうことはできなかった。
具体的には体重100kgの方に治癒術式を掛けたとしてもその体重は減らないし、同様に尿酸値が10mg/dL、糖質値が200mg/dLくらいの人に治癒術式を掛けていたとしても尿酸値や糖質値の数値自体は変わらないのである。たとえ術式で痛みを治したとしてもすぐに病むのではどうしようもない。
寿命というものも同様だ。
人は、年を取るとおっさんまたはおばはんになって死ぬ。
人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。
だれかが言った言葉だが、その詠み人は謎に包まれている。
織田信長? 本当だろうか。
モンスターがほとんどいなくなった世界で、50年どころか100年も経てばどうなるか?
「ウィンドウシステム」だけが残り、後は銃とかミサイルとか物騒なものがオーパーツとして残るだけの世界の完成である。
そして人々が集まって、モンスターがいなくなって起きるのは、――戦争だった。
ここに来てようやく動き出したのが、異世界の住人たる土着民と呼ばれる人たちである。
その土着の人々に異世界転生した日本人がつき、各陣営に分かれ戦いあう。
平和を愛する日本人ではあるが、九条信者が支配する国は次々と侵略されていなくなっている。
現在ではその勢力はおよそ6つに分かれていた。
・エセ大日本帝国
・灰殿魔王国
・ゴーストラリア魔王国
・カクガンジー王国
・コミーデミュタント連邦
・イタリアンパスタ国
なお、大日本帝国に接頭語として『エセ』がついているのは、本物の人物や団体と区別するためのお約束だ。この小説はフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ないのである。もしもエセがついていなかったらそれは誤字だ。作者は見つけ次第修正することだろう(というか指摘お願いします)。
さて、物語の中心となるエセ大日本帝国は、かつてサウスフィールドと呼ばれていた異世界土着の王国を、日本人が乗っ取った立憲君主国家である。
エセ大日本帝国は、君主――その土地の土着国家であったサウスフィールド家国王――を頂点とした国家であり、建付けとしては国王の持ち物である王国の運営を平時には国民をエセ内閣総理大臣、戦争などの非常時にはエセ征夷大将軍に任命して任せる、という形を取っている。
当時の占有権も守らねばいけない。少なくとも守った風に見せなければならない。そうでなければ国としての正当性が保てないからだ。ともかく、そんな風にうまく入り込んだ異世界人は世界に民主主義という風を導入し、そして乗っ取ったのだった。
つまり帝国を名乗っているのはその残滓であるのだ。
王国ではなくわざわざ帝国なのは、日本人のノリでカッコよさを追及したからである。調子に乗った日本人のやることなので、こればかりはしかたがないことだろう。海域を含めれば現日本の数倍の領土があり、かつてサウスフィールドは幾つかの国を攻め滅ぼした実績もあるので、お笑いネタとして日本人が帝国だと言いたい気持ちも分かる。
ちなみに、ここで現実の天皇陛下とはむろん関係はない。
話がややこしくなる。だから絶対に関係ないのであった。
さて、その他、エセ大日本帝国と日本の違いとしてはサウスフィールド王国の貴族として一部が残り、参議院の代わりに上院として貴族院を形成しているところだろうか。貴族院の名称は明治23年から昭和22年に掛けて存在していた日本の貴族院から取っているので、日本を踏襲している面もある。そして首都の名前はエドだ。これほど分かりやすい名前もないだろう。
貴族たちはかつて貴族たちが所有していた土地の権利などのほとんどが政府に渡ることになってしまったが、その代わりに貴族院の議員となることにしたのだ。貴族たちは見た目では民主主義の理想のもと、権力の多くを奪われた格好になっており、国民からは同情や後ろめたさを誘っている。しかし実際は上級国民として、下野動物園で飼育しているモンスターを使って僅かながらの経験点を稼ぐなどしており、その優位性はいまだ保持しているのである。それは貴族の老獪さゆえだろうか。そしていまだ王家の人気は絶大であった。
最終的に、かつてサウスフィールドが使っていた硬貨などは見向きもされず、エセ大日本帝国が召喚した日本銀行券が流通し、設立されたリビングフレンド銀号がATMを開設するという不思議な世界となってしまったのである。
こうして異世界転生者たちは基本的に何不自由のない、まるで日本のような生活をすることができるようになっていたのだ。
そんな世界で、その事件は起こった――