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例えるなら空を翔ける七筋の弾道弾(そのままやーん)





「くっ……、なぜに、なぜに勇者がいるのだ。私に対する勇者は、すでにいないというのに……」


 燃え上がる炎の中、その男は考えていた。


 空戦魔戦艦「デミトリ・ドントコイ」は弾道ミサイルにより致命的なダメージを受け、すでに高度を保つことができていない。

 このまま地面に叩きつけられれば爆散して果てることになるだろう。

 だが、それだけのダメージを船に負ったとしても男は逃げられるはずだった。


 しかし結果は逃げることはできないでいた。


 受けたのは《勇者》スキルによる攻撃であったのだ。致命傷だった。


 なにより理不尽なのは勇者攻撃は魔王に対し攻撃力が10倍となるのである。

 しかし最近勇者になったのではレベルは低いだろう。低レベルの勇者のATK値など低いに決まっている。そんな勇者の攻撃であれば問題はなかったはずだ。だが相手は弾道ミサイルである。その攻撃力はどのような剣や槍であろうとも上回る、物理攻撃だった――


「そうか……。勇者はイージス艦を『使った』のだな……」


 そう、《勇者》スキルを使えば、どのような武器であろうと『使う』ことができる。それがこのゲーム世界である勇者と魔王世界のお約束なのだ。


 その言葉が結局、コミーデミュタント連邦最後の大統領であるその男の言葉になる――







………………………………………

………………………………

……………







 時は少し遡る。


 弾道ミサイル発射可能なイージス艦「あがごた」は帝国海軍が誇る戦闘艦である。

 帝国空軍が華々しい空中軽装駆逐艦「矛盾(ホコタテ)」を有するのに対して、帝国海軍はいささか劣勢であったが、その劣勢を挽回する日が今日、ここに来たのだ。


 劣勢を覆すその人物――それは、王族に名を連ねるスノー・サウスフィールドと、《勇者》村人Bであった。

 秘密結社セヤロカーの面々が考えた3つの施策。その最後の切り札。

 それが、村人Bを《勇者》にしてイージス艦を『使う』ことだったのだ。


 そもそも《勇者》スキルが発現するかというのも、一種の掛けであった。

・村人Bがたまたま取得するスキルに悩んで白スキルの《隠蔽》しか持っていなかったこと。

・アリス・ガーゼットが宣言による魔王に就任できたこと。

・アリスが魔王になった、村人Bが虹スキル《勇者》が発現したこと。

・出現した《勇者》スキルを他の人より先制して取得できたこと。

 そのすべてが綱渡りではあったが、その全てが良い方に転んだのだ。

 それはまるで、なろう小説のお約束展開であるかのようである。


 そして、成功したのであれば、作戦として利用するのは当然だ。


 勇者といえば魔王討伐、これはJRPG系の異世界ファンタジー業界絶対の真理である。


 その魔王討伐対象が(つい)となっているアリスではなく、その前の代の魔王であるという所が小説のエッセンスとなるのだろう。何事も同じでは面白くない。

 JRPG的な考えで行けば前代の魔王なんて、魔王を倒したあとに出てくる裏ボス的な役割であり、普通に冒険していれば沸いて出てくる障害の一つだろうと、村人Bは割り切った。


「スノーは心配しているのか? 『たたかう』ができないことを――」


「えぇ」


 その仲睦まじい様子を見守るのはイージス艦の乗組員たちだ。

 末席とはいえ王族である美少女と『勇者』の組み合わせである。

 JRPGのネタ的に、これで盛り上がらないハズがなかった。


 伝統歴な勇者の戦闘とはおよそ以下の4つで構成されている。


それは――

 「たたかう」

 「まほう」

 「どうぐ」

 「にげる」

   ――の4つである。


 勇者は基本的に全ての防具と武器を使いこなすことができ、「たたかう」を選ぶことができれば魔人/魔王に対して致命的なダメージを与えることができるのだ。

 しかし、魔人/魔王に致命的なダメージが出るとは知られていても、実際にイージス艦などという船に対して「たたかう」が使用できるかは未知数なところでもあった。


「もしも《勇者》スキルでイージス艦の攻撃を『たたかう』することができないとしたら……」


 不安げな表情のスノーは、周囲から見たらさぞかし物憂げな様子に見えただろう。


「大丈夫だ。もし作戦に失敗しても、その時は誰も居なくなっているから怒るやつはいない」


「それ一番ダメなやつ何ですってば!」


「もともと、《勇者》スキルなんてなくても、物理攻撃無効化を止めさえすれば、イージス艦の弾道ミサイルなどなくても良いからな。空中戦艦が2発目を撃てばいいんだから」


「それは、そうかも知れないですが……」


 しかし相手は魔王である。

 一抹の不安はぬぐい切れない。


「照準合わせました。いつでも発射できます――。勝利を!」


 管制官の一人が言葉を発した。

 艦長とおぼしき人が、村人Bに艦内タッチパネル上のボタンを指し示す。

 呼応するように村人Bはウィンドウシステムを立ち上げた。

 勇者スキルの術式「たたかう」はグレーアウトから白に変わっている。

 攻撃は――できるはずだ。


「後はアリスさんからの指示を待つだけだが――」


 その指示はすぐに来た。

 それはチャットメッセージであった。


アリス☆「『やれ! 勇者よ!』」


 勇者村人Bは迷わず「たたかう」を選択する。

 村人Bは目の前にある赤いボタンに拳を叩きつけ、タッチパネルを保護カバーごと粉砕するのだ。


「これが勝利のカギだ! 我が経験点の(ひかり)になれぇぇぇ! 承認!」


 ぽちっとな――



















 こうして、弾道ミサイルは全弾イージス艦から放たれていくのであった――



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― 新着の感想 ―
[良い点] ガオガイ○ーw
[一言] 村人Bは図らずともお付き合いにつり合いが取れてる立場になってしまったな
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