27N2 + O2 -> 2Au↓
錬金術の最終形――、それはもちろん「錬金術」である。
かつてヒトは空気から金を得ることを望んだ。
それが錬金術の始まりだ。
そして試行錯誤したその成果が化学という学問に変わり、独自に進化をしていったのだ。
それが「空気からパンを作る」である。
N2+3H2 -> 2NH3
現代化学工業における窒素化合物合成の基本製法であり、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュが1906年にドイツで開発したハーバー・ボッシュ法は、こうしてできたアンモニアの肥料化などさまざまな化学分野へと応用されていった。
そのことを踏まえ、錬金術はどう進化したのか?
それが錬金術の最終系「空気を練って金を作る」である。
27N2 +O2->2Au↓
近代錬金術における最終的な錬金製法であり、クリント・イーストウッドが1971年にアメリカで開発したハード・ボイルド法は、いまもなお黄金の輝きをもって後世に影響を与えている。
その、およそ質量保存の法則しか守られていない、化学記号が変わってしまうような示性式で行われるのはそう――核融合に他ならない。
原子のチカラ 核融合!
アリスが言う青い稲妻の正体とは、光すら超える速さで伝達するチェレンコフ光のいななきだ。
「ばかな! 錬金によって猛烈な勢いで圧縮された空気が! 分裂した核物質の全てを巻き込み元に戻ろうとしている!」
その男は叫んだ。その目が血走った。
青い光の色が徐々に変わり、漂い輝くその粒子の色は、その名の通りまさしく黄金へと輝きを変化させていく――
そんな金色の世界を抜けると、そこは牢獄であった。
空中軽装駆逐艦「矛盾」の上空に、突然にして10個の細長い牢獄が現れたのである。
何も術式を使用していたのはアリスだけではない。
ダンジョンマスターであるロダンもまた、スキルを同時使用していたのだ。
テレッテーテテテテレレレテレれててー
軽快な数多のヒトを狂わせるBGMが流れる。
アップテンポで気分の高揚を加速させるその音楽、それは、それこそがロダンが持つスキル《アイテムホルダー》の術式「ガチャ」の囁きであった。
あらゆる人を魅了し、そして挫折に追いやった最悪のバッドエンド――それが「ガチャ」なのだ!
ガチャは10連同時に使用するとランダムで10個アイテムが排出され、そのうちの1個は必ず金クラスのアイテムとなる。
そのアイテム類のチカラはジュエルを消費するだけに強力だ。
ロダンは、そのアイテムのチカラで敵を滅ぼそうというのである。
「るー(開け! 地獄の牢獄よ!)」
錬金術ではまだ質量保存の法則だけは固辞していたが、ガチャではその程度のものは障壁にはならないのである。ただ異世界にアイテムが出現する。まさに異世界の禁忌にふれるものであった。あ、これ言っちゃダメな奴だと――
カチャン! カチャン! カチャン!
大きな音を立てて牢獄がつぎつぎと開けられていく。
チャン!
1.麻婆豆腐!
2.麻婆豆腐!
3.麻婆豆腐!
4.麻婆豆腐!
5.麻婆豆腐!
6.麻婆豆腐!
7.麻婆豆腐!
8.麻婆豆腐!
9.麻婆豆腐!
キラン! 切なくも懐かしい効果音とともに、白色の牢獄の扉が金へと変わる―――
そして、それがさらに虹へと変わった!
10. 超絶激辛! 麻婆豆腐ぅぅぅ!
「なんじゃ。いつもの通りなのじゃ」
アリスの呟きを無視し、ロダンは素早く追加でウィンドウシステムを操作した。
そう、ガチャに秘められた秘密――それは、200連すると天井というシステムによって好きなアイテムを貰うことができるのである!
そのためにロダンはあらかじめ潤沢なジュエルで190連までしておくという、2段構えの戦術を用意しておいたのだ。
「るー(本当はロケットパンチが良かったんだがな―。物理がだめだし)」
テッテレッテレーテーテー!
天井により、最強のアイテムがいま、解き放たれる――
「るー(さぁ見せるがよい! 天壌の景色を――」
ロダンは一つのアイテムを召喚する。
それは――、魔法無効化のマジックアイテムであった――
「いや、それなら最初に使ってから主砲撃たせろよ!」
空中軽装駆逐艦「矛盾」の乗組員はそうツッコミを入れずにはいられなかった――
ま、畜生だしな。