人類はダンジョンに勝利した
日本銀行券が流通するこの異世界は、ゲームとインターネット上に構築されていると言われている。
なにしろ「ステータス」と唱えるだけで、ニュートリノで形成されたウィンドウシステムを参照できるのだ。これは、どこからどうみても異世界転生系ファンタジーものの特徴だった。
だがその「ステータス」というシステムは、その活躍した当時と比較して現代ではまったくの役に立っていない。
せいぜいが体力を測ってスポーツのトレーニングで活用されるくらいだろうか。
なぜか?
なぜなら経験点を増やすことができないからだ。
世界からモンスターが狩られつくしてしまったのだから。
かつて調子に乗った日本人たちは世界中のモンスターを倒すという正義感に酔いしれ、自らのレベルをアップするというガチ勢たちの欲望を満たすため、モンスターたちを、ダンジョンを、次々と破壊していったのだ。
いぇーぃ。調子に乗ってるかーぃ!
するとまぁなんというこでしょう。狩られたモンスターたちはいなくなりました。わーぃ。
――もちろん、絶滅しないように努力はしたよ。
具体的には、絶滅の危機に瀕している世界のモンスターのリストを作って狩ることを禁止したりもした。
しかしである。
異世界に、条約なんてないんだよ?
この異世界ではついに今ではモンスターは動物園にいるものとなってしまった。そのモンスターもゴブリンといった繁殖力の強いオスばかりで、メスはいない。
もちろん経験点が得られなければレベルは上げられない。当然だろう。
アイテムボックスと呼ばれる、――まるで未来の世界の有機ネコ型生物演算装置が持っていたような、アイテムを入れると時間を止めた5次元の空間に保存することができるシステム――ですら、レベル1以上でないと使えないのである。レベル0とは哀れなNPCと同じである。
そうして起こるのは激しいレベル差による差別である。
それは日本人間でもさまざまな論争が沸き起こってしまっていた。
その差別も意外なことで収束する。
それは――、寿命であった。
そう、レベルなんて亡くなってしまえば皆平しくレベル0に戻るのさ。
それから100年もすれば、亡霊のようにモンスター化した人外以外は大抵死ぬのだ。
そしてモンスター化した亡霊は大抵、ヒトビトによって験値点へと強制的に変えさせられるのである。