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楽しい! EXPアッパーの作り方は見せられないよ!




『こんにちはー。

 秘密結社セヤロカ―ちゃんねるなのじゃー。


 ワシは世界最強の錬金術師!

 青き稲妻にして秘密結社セヤロカーの総帥!

 アリス・ガーゼットなのじゃ!


 はい。


 みんなワシを崇めるのじゃ


 Yes! High! Dark!!』


もものき「せやろか?」

どこかの誰か「せやろか?」

………


『う。

 誰か一人でも Yes! High! Dark!!

 と言ってくれるヒトはおらんのじゃ?

 誰もおらんのじゃな。


 ワシ、悲しくなってくるのじゃ。およよ』



村人Bすぱな「はいはい。 Yes! High! Dark!!」

カオル「Yes! High! Dark!!」

……



『今日はちょっと趣向を変えて技術論じゃな。

 マシュマ〇も多数来てた。


 名づけて! EXPアッパーの作り方じゃ!


 ということで、みんなでワシが作った動画を一緒に視聴してもらうのじゃ』


村人Bすぱな「あれは辛かった――」

カオル「おー。見たいです!」

…………

……


 アリスが画面を操作すると配信画面内の左上側に画面の2/3ほどのウィンドウが表示され、右下側にアリスの上半身だけが表示されるような画面に切り替わる。

 そのウィンドウはあらかじめ収録された動画用らしく、配信中に流すつもりのようだった。


『今日ももちろんワシの相棒であるルーミートの魔人ロダンくんも一緒じゃぞ。一緒に見よう!


 ほーれ、挨拶するのじゃ』


『ロダン「るぅー(もう好きにして―)」』




いけじょ「きゃー。ロダンくんかわぃー」

英検2級「抱いて―!」

…………

……





 ロダンくんは相変わらずマスコット的に雑な扱いをされていたが、なぜか女性に人気が出ていた。彼女たちはかなり肉食のようだが、気にせずアリスは話を進めていく。



『まずEXPアッパーを作るには錬金術師が必要だ。


 つまりはワシのことじゃな。ワシは世界最強だが、《錬金術》Lv.5に達しておれば誰でも構わん。


 そいつが、被検体に対し、《錬金術:『初心者特典ポーション作成』》を掛けるわけじゃ。


 するとどうじゃろう。被検体に錬金術が掛かり、モンスターを倒した経験点の約半分だけ『初心者特典ポーション』、つまり、EXPアッパーができあがる、という寸法なのじゃ』


 ――渋谷カオルもそこまでは理解できた。


 問題はそのモンスターをどこから調達するかだ。

 そしてそのモンスターをどうやって繁殖するのかも問題であった。


 その答えはすぐに分かる。


 そこで動画内の視点は少年に切り替わる。

 その少年の顔をうかがい知ることはできない。


 なぜなら『見せられないよ!』という看板を持った小さな少年のアイコンが、その少年――村人Bの顔を覆って見せないようにしているからである。


 さらにその下はモザイクになっており、ものすごい念の入れようである。

 村人Bの強い要請によりそれは実現していた。


『そして、この被検体を目の前にあるスライムプールへと落とすのじゃ』


 映像がパン(移動)する。


 そこには、広々としたプールが広がっていた。

 そして波打つクラゲのような塊――


(あれはまさか! かの伝説に唄われるスライム! でも金属(メタル)製のスライムを除き、スライムの経験点はコンマ以下のはず! ミドリムシのように繁殖はしやすいでしょうけど、そんなもので一体……)


 その瞬間だった。

 アリスは問答無用で『見せられないよ!』が顔に張り付いた村人Bの膝裏にケリを入れたのである。


 発生する水柱に落ちる村人Bの姿。


 動画であるが故なのか、大阪のおばちゃんによる笑い声のエフェクトがそこに挿入される。そういえば虎柄の服に紫のメッシュを髪にいれた大阪のおばちゃんたちは、いまもまだ生息しているのだろうか。


 がばごぼがばばばー


 『見せられないよ!』が顔に張り付いた村人Bが何かをいっているが、いまいち良くわからない。


『ここにいるスライムは攻撃力こそないが……


 生物以外を全て溶かすというエキストラ能力を持っているのじゃ。


 その凶悪さゆえに、なんと一匹当たりおどろきの経験点1を有しているのじゃ』


 パン! パン! パン!


 プールから高い音が発生する。

 おそらく村人Bが素手でスライムを倒しているのだろう。


(それにしても、なぜこの少年は武器を持たないのだろう?)


 渋谷カオルは疑問に思ったが、その問もすぐにアリスによって解消された。


「なぜこの少年は素手なのか?


 スライムの凶悪度を上げて経験点をより高くするためじゃ。


 先ほどスライムには生物以外を全て溶かすというエキストラ能力(スキル)を持たせたといったじゃろう?


 つまり武器まで溶けてしまうのじゃ。


 であれば、わざわざ武器を持ち込んで毎回壊すのはタワケのすることじゃ!」



 パン! パン! パン!


 プールから高い音が発生する。

 モンスターをそれは倒す音のようであった。


 その姿からは一切の装備が失われており、腰の周りには2体目の『見せられないよ!』アイコンが居座っていた。



 要するに、彼は全裸になっていたのだ。


 そして安心して欲しい。

 モザイクは下半身にも完備されており対策はばっちりである。



『さて、説明はこのくらいにして質問タイムと行こうじゃないか』


 その間も村人Bはごぼがぼとプールで喘いでいた。

 全裸待機とはこういうときに使うのであろうか。


 質問は次々とチャット欄に押し寄せてきた。


カオル「あのぉ、生物以外を全て溶かすのであればスライムプールを取り囲んでいる壁も溶けるのではないでしょうか?」

…………

……





 危険物を取り扱う者においては当然の疑問である。


 薬剤に対して容器が正しくないと容器自体が溶け落ちるのだ。

 そうなれば流出事故に繋がりかねない。下手をすると爆発するのである。

 具体的には、金属を腐食するためガラス容器などの金属以外の容器に貯蔵するヒドロキシルアミン塩類、ガラス、陶磁器のような珪酸を含む物質を激しく腐食するためプラスチックなどの容器に貯蔵する弗化水素などがその代表だ。



『ふふふ。良い質問じゃ。


 このスライムプールの壁は、ななんと! 天然総ひのきの棒(トレント)でできておるのじゃ。


 では次!』



 まさかの国宝クラスであった。


 ひのきの棒とは、勇者が魔王を倒すときに国王から渡される、由緒正しき伝説のアイテムとして知られていた。



ひなた「それで、スライムの養殖をするときはどうするのだ? それに品種改造は?」

………………

…………



『養殖は特殊なスキルで行うのじゃ。


 ヒントはジュエルを消費する、ということじゃな。貰ったジュエルは役にたっておるぞ。

 いろいろスキルの代用は効くと思うので試してみるのじゃ。


 それからスライムの品種改造じゃな。


 これは地道な努力が必要だ。(ロダンくん)がガンバったのじゃ。』


『るー!』



 さすがに詳しいことは教えてくれなかったが、それだけでもなんとなく理解をすることはできた。

 鑑定所では経験点を大きくするため、養殖するモンスターの大型化を進めていた。ゴブリンのようなモンスターの養殖をオークやオーガーのような大型モンスターに置換しようという試みだ。敵が強くなればなるほど、敵が凶悪になればなるほど、得られる経験点は大きくなるからである。

 しかし、逆にスライムのように小さくするが数を増やすという戦略は想像の埒外であり、まるで目から鱗が落ちるような思いであった。養殖で数が増やせるのであれば多少の効率など無視できるのだろう。小さければ飼育も簡単だ。そして腐食などの状態異常を付与することで経験点の取得不足を補う方式も斬新な発想で、思わず声を挙げざるを得ない。


(うまく考えたわね……)


 渋谷カオルは感心しきりである。


 ちなみに、なぜロダンがこのようにガンバってスライムの品種改良を進めたのかはご想像にお任せする。


(さぁ、やることが増えたわね。特殊なスキルというのは何なのか? ちょうどお誂え向きにレベル3に到達するヒトは多い。その中から珍しいスキル保有者を掻き集めればその特殊スキルにたどり着くなんてことはあるかもしれない。そして品種改良は――難易度は高いし時間も掛かるだろうけど、既存の錬金術の応用でかなりできる可能性が見えている。すでに候補もある。放射線を当てるとかで異常生体種(バイオハザード)を産みだせば――、錬金術師が複数集まれば時間短縮も見込めるであろうし……)


 渋谷カオルがそんな風に大阪万博のいのちの輝きくんのスライム化みたいな考えをめぐらしているうちに、配信はあっという間に終わってしまった。

 得るものは大きかった。


(『初心者特典ポーション作成』、スライムプール、天然総ひのきの棒(トレント)、スライム養殖と改良、一つ一つは理解できるが、それら技術が複合してEXPアッパーは出来上がっているわけか――、さすがにリーディングカンパニー、奥が深い――)





 渋谷カオルはこの度し難き難問に不敵な笑顔を浮かべ、その闘志を高めるのであった。





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