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必殺! ギガツインドリル ブレイク――



 朝9:25――


 少し早めに待ち合わせ場所である喫茶店に到着したスノー・サウスフィールドは、黒のタイツに黒のワンピース、さらには黒のレースの長いアームカバーと、自身の漆黒のロングヘアと合わせ、黒ずくめの恰好でいた。童貞ならば絶対殺すことができそうな服装である。



 完全に余所行きの姿である。

 外から見れば完全に気合の入ったデートではないかと思われて仕方がないだろう。


 しかしスノー・サウスフィールドは真剣であった。なにせ悪の秘密結社セヤロカーとしての初めての活動なのだ。しかも幹部である。

 そして今日この日、総帥のアリスと逢うのである。そこからの連想により『悪だから黒なのかな?』などという良く分からない発想で今日着る服装は決定されていた。



 そしてなにより今日、念願の経験点が貰えるのだ。緊張しない理由がない。

 経験点を得れば母親と同じ《神聖魔法》が使えるようになる――



(あぁッ、なんということでしょう。スノーおねぇさまはあんな完全にキマった恰好で、一体だれと逢うつもりなのでしょうか……)



 そんな気合の入った恰好をするスノーの背後には、茶色の趣味の悪いハンチング帽に、このご時世のため大きな白いマスクで変装し、サングラスでその碧眼を隠しつつ、しかし金髪ツイン縦ロールヘアで変装の全てを台無しにした、聖サウスフィールド女学院でスノーの友人であるキャロル・ルイーズが佇んでいるのを、スノーは知る由もなかった。


 しかしなぁ、キャロルのCVはだれが良いだろうか? 変態チックにおねぇさまぁ呼びが映える声優が相応しいだろうなぁきっと。



(スノーおねぇさまが学園に帰ってきたのは嬉しかったけれど、転校――体験学習だったかしら?――から帰って来てからも、おねぇさまはどうにも上の空で要領を得ないし、体験入学したときの話もしてくれない――、そうだわ! きっとスノーおねぇさまは、わたくしたちに知られたくない事情を抱えているに違いないのだわ! スノーおねぇさまを悪の手先から助けないと!)



 あの体験学習から帰ってきた最初の週末。

 探偵がごとく調査を開始したキャロルは、ようやくスノーの尾行を成功させたのである。


「あ! (みなと)くん!」


 その可愛らしいスノーの声にキャロルはびっくりする。

 いままで聞いたことのないような高い声だ。それはまるで――恋する乙女のようではないか! なんということだ!


 そんなキャロルの前でスノーは立ち上がり、手を振ってだれかを呼んだ。

 思わずキャロルは身を伏せるが、そんなキャロルは見た! その少年を!


(まさかの本当にデートなの! スノーおねぇさまが? バカな! 信じられない!)


 その(みなと)くんと言われた少年は、スノーとは違い、ラフな恰好である。スノーとはとても似合いそうでない。不釣り合いだ。

 (みなと)――村人Bは入り口で会計を済ませるとアイスコーヒーを片手にスノーのいるテーブルの対面に座った。

 なお、この喫茶店は入り口で会計をしてパレットを持って自由な席に座るタイプの一般的なお店である。スタ〇形式とでも呼ぶのだろうか?


「もう、すぐ出るというのに飲み物なんて頼んで……」


「さすがにこういう店に入るのに何も頼まない訳にはいかないだろう?」


「そうでしょうけど……」


 親し気なスノーと(みなと)の会話に、キャロルの頭は怒りで沸騰しそうである。


(もう! わたくしだけのおねぇさまなのに! こんな悪い虫野郎が付いているだなんて、許せないわ!)


 完全な嫉妬である。


「しっかしー、今日はえらく気合の入った恰好だなぁ。スノーさんは」


「えぇ、だって今日は(経験点が得られるかもしれない)特別な日でしょう?」


「ははは。『殿方の家』にいくのがそんなに特別なのか?」


「もう! (みなと)くん違うってばぁ……」





(なに? なんなのこの会話??! 『特別な日』? 『殿方の家』? そのココロは?)



 そのとき、キャロルの身体に電流が走る。

 キャロルの頭は走馬灯のようにめくるめく桃色のシーンに埋めつくされた。

 頭を抱え、目の焦点が合わずぐるぐるしてしまう。



「それで……、そのでかいバッグが?」



 それは中心に「レ」というカタカナのロゴがあしらわれた大きなスポーツバッグだった。

 さすがにバックまで黒には統一できなかったようで、赤色である。


「えぇ。各種の制服を用意したわ。ほとんどが私のお古だけれど……」


「下着も古い?」


「なにを言っているのよ。さすがに下着は新しいものを買ったわ」




(一体全体この虫野郎! おねぇさまにどんなプレイをさせる気なのよ!)




 スノーは基本的に気弱で騙されやすい性格だとキャロルは思っている。

 それゆえに考えたのだ。


 スノーおねぇさまは絶対にこの男に騙されているのだと。



「はぁ? おねぇさまに一体何をさせるつもり? この下種野郎!」


 それが思わず口に出てしまった。


(はっ。しまった……)


 キャロルはうまく潜伏していたつもりだったが、2人に見つめられることでそれが失敗に終わったと悟ってしまう。


 このままでは、「お前は何をやっているんだ」とか、「ナニこの出歯亀やろう」とか、「ヒトの恋路を邪魔する奴は馬に轢かれて死んでしまえ」とか言われるに違いない。


 ――むろん、受けてたつ所存であった。武士に二言はない。



「――で、この女はだれだ?」


「さすがにここまでくれば、わたくしでも分かりましてよ。キャロルさん」


 そうでなければ、スノーも会話を合わせようとはしなかっただろう。

 始めのうちはキャロルの存在を気づいていなかったスノーだが、村人Bがアイコンタクトでキャロルの存在を示せば、さすがに分かるというものだ。というか、キャロルのあまりの怪しさにガン見をされていれば嫌でも気づく。



「――で? ねぇ、キャロル・ルイーズさん。あなたはどうして、こんな早い時間にこんな場所にいるのかしら?」


 そんな落ち着いた様子のスノーにキャロルは愕然とする。


(そんな、おねぇさまってば、この男に私の名前を売るだなんて……)


 むろんスノーにそんな気はまったくない。


「それで、彼女は何者なんだ?」


 ジト目でキャロルを眺めるのは、もちろん村人Bである。


「キャロルさんは――」


 キャロルはスノーが答える前に被せ気味に喋り始めた。


「あなたこそ! スノーおねぇさまのなんなのよ!? わたくしは――スノーおねぇさまの大切なヒトなの! この泥棒猫めっ」


「おまえなぁ。なにを言っているんだ。泥棒猫だったら大出世だぞ? それでいいのか?」


「いいのかって、なによそれ?」


「例えばそうだなぁ。河川敷のキャンプで川遊びしているときに、塩を振った鮎の塩焼きを加えたドラ猫の俺に、川に素足で涼んでいたブラウス姿のスノーが陽気に駆けてきて、それをみてみんなが笑っているとかどうだ? いかにも今日もいい天気とか言いそうな雰囲気で。最高かもしれない。」

「そんなことあるわけないじゃない!」

「それなら、僕がスノーを本当に泥棒ネコするとか言いたいのか? ――それこそ最高じゃないか。僕こそが泥棒ネコだ!」


 そんな妄想に耽る湊にキャロルはさらに絡んでいく。


「そんなわけあるわけないじゃない。じゃぁ泥棒猫でなかったら何なのよ! さっきのいかがわしい会話の数々は!」


「いつ僕がスノーさんといかがわしい会話をした!」


「全部よ、全部! 存在自体が汚らわしいわ」


「ちょっと! やめなさい!」


「「!?」」


 珍しいスノーの怒りの声に村人Bとキャロルの身体が固まる。

 そして声のトーンがひそやかなものに変わる。


「とにかく! 一旦ここを出ましょう! 周囲の人が注目しているじゃないの」









 そう、この痴話げんかは喫茶店内の衆目を浴びていたのである――





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