速度を販売するファーストフード店、ミクロナルド
ミクロナルドは商標権に配慮した、ワールドワイドのファストフード店だ。その特長といえば、Wのマークをアイコンとしているあたり、笑顔はゼロ円とメニューに書いてあるあたりだろうか。
・速度を販売するファストフード店。
・量感を販売スーパーマーケット。
・便利を販売するコンビニエンスストア。
・ゆったりと落ち着いた雰囲気でくつろぎの空間、最高の感動経験を提供する喫茶店。
それらは代表的な『モノを売らない店舗』の一つである。
というか、異世界ナイズされた店は大抵、モノ売りは二の次である。
ただ単にモノだけ売っている小売りは淘汰される宿命にあった。
そんなミクロナルドをスノーと湊の2人が訪れたのは、ひとえに話をするためである。
スノーはお嬢様らしくこの手のファストフード店に入ったことはないらしい……。一体どこまでお嬢様なのだろうか。
本当はルノ〇ールのようなこじゃれた雰囲気の喫茶店の方が良いのだろうが、そういう店は湊にとってアウェーなのでパスである。
「それで……、いたいけな少年を弄んで何が目的だね? スノー・サウスフィールドさん?」
湊たち購入したのはお揃いの黄色いなんとかスムージーだ。正式名称は分からない。
そもそも論として、正式名称を書いたら商標的に良くないと思われた。
さらにいえば味自体が分からない。湊にとって分からないことだらけだ。
それはそうだろう。こんな美少女を目の前にしては味など些細なことが吹き飛ぶのは当然ではないだろうか。痴女ではあったがそれだけは湊も理解できる。
「では――単刀直入に。湊さん。私に経験点を恵んではいただけないでしょうか?」
「え?! どうやって?」
単純な疑問だ。恵む?
こんな美少女をスライムプールに落としちゃって、良いのか?
あのスライムプールは一切合切の身に纏っているものを溶解するのだ。下着とかを考慮せず、そのすべてだ。
湊は黄色いなんとかスムージーとともに、唾がごくりと喉を通っていくのを感じる。その味は分からないが、匂いからおそらくマンゴーのようなものであるような気がした。
「ちなみにですが、湊さんのレベルを伺っても?」
「そ、そ、それはさすがに……」
この異世界では女性の年齢を聞くのと同じくらいヒトのスキル構成やレベルを聞くというのはマナー違反といわれている。それこそ、親族か、恋人か、役人くらいだ。
現在のエセ大日本帝国では大抵のニンゲンの平均レベルは低い。
というかほぼレベル0である。
であるからして、もしも聞いた結果――、聞かれた本人のレベルが低かったら辱めを与えているようなものである。
なお、国家錬金術師になる場合など、レベルを誇りたい、誇示したい場合などは自分から高らかに宣言するものなので、やはり聞かれていうようなものではない。
「私は――レベル0です。末席の王族とはいえ、さすがに私のレベル低すぎだとは思いませんか?」
彼女はレベル0らしいが「うわっ……私の年収、低すぎ……?」ネタでも知っているのだろうか。そんなネタを湊の頭によぎったが、それは湊の精神がいっぱい、いっぱいであるからだろうか。
「?? えーっと……。高校をご卒業されれば、『貴族の特権』でレベルアップができるのではないので、でしたでしょうか?」
湊は最大限敬語を使おうとしたが、とてもうまくいっているようには見えない。すでに諦めつつあった。
ともかく湊の知識では、『貴族の特権』を使用し、下野動物園で繁殖させているゴブリンなどのモンスターを使って経験点を稼ぐことができるということは、一般常識として知っていた。
ただ同時に、大量養殖レベルまでには発展しておらず、その数には限りがあり、その特権を使えるのは相当な金額――それも1千万円を超過するような多額の――を支払うか、それとも上級国民と呼ばれるような特殊なニンゲンでない限りは無理であると聞いていた。
ほらいるじゃない。何でもかんでも1時間とか規制したがる政治家とか、「人をいっぱい轢いちゃった」とか言って悪びれないような官僚とか。
異世界転生した直後は、なんだそりゃ、と憤りを感じるを得ない湊であった。しかし世の中どうしようもないことに嘆くとしたら、そもそも論として、この異世界転生自体に嘆くべきであろう。
「確かに『貴族の特権』でレベルはあげられると思います。でも――あのようなことは……、嫌なのです」
『貴族の特権』を使うに当たってはスノーにとって嫌なことがあるらしい、というのは、とにかく深刻そうな表情から湊にも理解できた。その内容はさっぱり分からないが。
しかし大丈夫である。スノー・サウスフィールドもその内容は分かっていない。
「それで? そこから何で僕に話が来るのか? そこが分からない訳だが……」
「だって湊さん……
あなた村人Bでしょ?」