あの映像に映っていた美人さんじゃろ? 何が不満なのじゃ
昼休み――
窮地に陥った村人Bこと佐藤湊は、異世界転生学園の屋上で一人、支援要請をするのであった。
村人B☆「助けて! メンヘラが! メンヘラが転校してまでして迫ってきた!」
アリス☆「何事じゃ!」
村人B☆「うちの学校に痴女が来たのだ。助けてくれ!」
アリス☆「あの映像に映っていた美人さんじゃろ? 何が不満なのじゃ、押し倒せば良いのじゃ」
村人B☆「あー、もうアリスさんじゃ埒があかん! 運営Aはいないのか?」
アリス☆「こんな昼の時間じゃ。仕事に決まっておるじゃろう」
村人B☆「……。アリスさんはいいのか?」
アリス☆「ワシは自宅警備が仕事じゃ。常日頃からモニターを監視しておって何が悪いのじゃ? いまも3窓じゃ!」
村人B☆「いい仕事していますねー。じゃなくて! 僕は今ここにある危機を何とかしたいのだが」
アリス☆「ぶっちゃけ、ワシには関係ない話じゃしのぉ」
村人B☆「関係はあるだろう? アリスの話とか――ダンジョンの話とか知られたら大変なことになってしまう」
アリス☆「そうなったら、それこそ押し倒してでも黙らせるしかないのじゃ。犯人は――お前じゃ」
村人B☆「相手はスノー・サウスフィールド。どこからどうみても名前から王族なのだが良いのか?」
アリス☆「ワシはガチャ産のモンスターだからそういう政治系は詳しくないのじゃが……。そもそも王族とはなんじゃ?」
村人B☆「そこから? えーっと。ヒト族版の魔王の側近みたいなものなのではないのかな?」
アリス☆「それは大したことがないのじゃ。魔王本人ならともかく。要は、悪の秘密結社セヤロカーの四天王みたいなものなのじゃろ?」
村人B☆「とにかくヤバいヒトなの。下手をすればエセ大日本帝国全体が敵になるかもしれないのに」
アリス☆「それは……。やばいのじゃ。侵攻されたらひとたまりのないのじゃ」
村人B☆「だろう? どうすれば良いのだろうかアリスさんも考えてよっ!」
アリス☆「こうなったらワシの錬金術で怪しげな媚薬を作って村人Bにメロメロにさせるしかないのじゃ。確かタダラフィルだったか……。ニトロ系の薬剤を混ぜ合わせるのじゃ」
村人B☆「ダメだ。アリスさんはマジで役に立たねぇ! 速くなんとかしないと」
アリス☆「ならばやはり〇るしか。有機リン系とか弗化系とか? 砒素なんかもどう? でも痕跡が残らないようにできるのは相当に難しいのじゃ。匂いの強いハヤシライスとかに混入しても一発で捕まるじゃろうし……」
村人B☆「やめれ。頼むから! アリスさんはその《錬金》脳から離れてくれたまえ」
アリス☆「く……、まさか錬金術が敗北する日が来ようとは思わなかったのじゃ」
村人B☆「こうなれば夜になって運営Aと話をするしかないのか……」
アリス☆「うーん。我が陣営の中で運営Aだけじゃろ。独り身なのは。惚気られてもやさぐれるだけなのじゃ?」
村人B☆「僕も独り身なんだが」
アリス☆「だが風前のともしびなのであろう? お祝いには彼女も呼んで盛大にするべきなのじゃ? こういう時は――、赤飯じゃ!」
村人B☆「やめろ! くそっ。昼休みの終わりも近いな……。なら、一点だけ確認させてくれ。どこまで話して良い? 僕はレベルすら話したくはないけれど、ある程度レベルについてはバレているだろうし、あの女装で脅されたらある程度はゲロせざるを得ないとして――、ではどこまでゲロって良いものか」
アリス☆「んー。ではこういうのはどうじゃろう……」
◆ ◆ ◆
そうこうしているうちに昼休みは終わってしまう。
そうそうに教室に戻り、村人Bは授業を受ける。
さすがに授業中にウィンドウシステムを立ち上げてチャットをするような不真面目なことはできなかった。
そして放課後――
「あの、湊さん……。一緒に帰りませんか……」
教室中のみんなが注目するなか、上目遣いでもじもじし、頬を赤くして消え入るような声で話かけてくるスノーに対し、湊の抵抗は無意味であった――