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side:村人B:佐藤湊



 佐藤(さとう)(みなと)は高校二年生の男子である。


 異世界転生してからは帝国を頼り、奨学金と給付金でなんとか生きてきた。異世界転生することになっても、(みなと)としては転生後の一人暮らしはあまり苦になってはいない。高校受験ではそれなりに優秀な高校に入学できたため、しかしその高校は実家からは遠く、一人暮らしを既にしていたからだ。これが親元を離れていなければ危なかっただろう。


 発生したのは、中央線と山手線が衝突するという大事故であり、その様子も鮮明に覚えている(みなと)としては、死ななかったという点では喜ばしいものであったが、この理不尽な異世界転生に不満がないわけではなかった。




 というか、その転生後の環境そのものが不満であった。





 なぜに、科学が発達しているのか?

 なぜに、日本語が一般言語として普通に会話ができるのか?

 なぜに、日本のお金が普通に貨幣として流通しているのか?




 もちろん、サウスフィールド王家など、国家の体制が微妙に異なるなど違うところもある。しかしあまりにも現代日本に近づきすぎなのではないだろうか?


 もしもこの世界を構築した作者がいたのなら、これをハイファンタジーと言い張る面の皮の厚さに昇〇拳を叩きつけたいくらいである。




 そりゃぁ異世界なのだから、かつての先人は科学チートがしたかったのだろう。文明チートだって同様意気込んでしたいに決まっている。


 そんなチートがしたい先人がたくさん集まれば、世界が変遷するのも当然だろう。



 だからといって、これはない。



 聞けばモンスターはとっくに狩りつくされ、ダンジョンは全て破壊され尽くされたという。老〇どもめ、やってくれる。


 実は下野動物園とかいうところに種付け用モンスターがいるらしいが、そんなものは上級国民のさらに一部でしか使えないもの、ということらしい。


 要は異世界なのに一般ぴーぷるではモンスターを狩れない。

 モンスターを狩れないから経験点を得ることができない。


 いまではこのエセ大日本帝国の能力者はほぼレベル5までが限度で、レベル6までいくとほぼ最強とまでいわれるらしい。ちなみにレベルキャップの最大値はレベル120だ。絶望的である。

 訓練しだいで錬金術を覚えることもできるらしいが、レベルに頼らないのであれば最低でも10年は掛かるという。さすがにそこまで掛けたくはない。



 考えても見てほしい。



 モンスターをハントすることがメインテーマのゲームで、もしもモンスターが絶滅して狩ることができない世界とか。



 そんなゲーム売れるか? さすがに売れないだろう。

 制作会議をやれば部長は笑いながらプレゼン資料をゴミ箱に捨てるに違いない。



 そうなればもはや「ステータス」と叫んで出てくるウィンドウシステムは無用の長物といっても過言ではないだろう。初めに「ステータス」と叫んでウィンドウが出た時は感動したものだが。奨学金と給付金で生きるぶんには不自由をしていないが、しかしそれだけだ、自由はない。


 だが(みなと)は見てしまった。

 ウィンドウシステムに《アプリ》の存在があることを。


 普通の大人たちはウィンドウシステムに目もくれず生活しているが、(みなと)は異世界転生したての学生だ。ウィンドウシステムの状態くらいは当然にして見る。


 そこには、どこかで見たような掲示板があったのだ。切なくも懐かしいその姿に戦慄を覚える。まるで(みなと)の身体に電流が走ったかのような体験であった。


 その掲示板は最近できたらしく書き込みはほとんどない。


 それは裏を返せば、利用者が少なくて目立ちやすいということだ。

 なにか書き込んで動いておけば先駆者として一歩リードできるに違いない。


 そうして(みなと)は他の掲示板を見つけた面々がROM(リードオンリーメッセンジャー:読むだけで書き込まないこと)をしているなか、テキトーな書き込みをして、テキトーに生きている。


 そう、気が付くと机の引き出しに小さな異変が起きる程度にはテキトーだ。

 その机の異変に気づき、(みなと)が引き出しのを開けると、そこには虹色の空間が広がっていた。異次元にでも通じているのだろうか? ちゃんとしたマシンがあればタイムを超越することだってできるかもしれない。


「やあ。なのじゃ!」


 そしてそこから、酸化コバルトを思わせる桃色のブロンド髪の少女がにょきりと顔を見せていた。


 その赤い、まぬけそうな瞳と目があう。


「あはは――」


「なんじゃ。村人Bや。人のことをそんなに笑って――」


 可愛らしい声は、どこか艶めかしい感じがする。

 後でそれは魔人の魔力であることを(みなと)は知った。

















「いやね。この異世界も案外面白いのじゃないかって思ったんだよ……」


 その日、(みなと)の顔から笑みが消えることはなかった――


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