バス博でバスがガス爆発
その日、エセ大日本帝国のエセ外務省は緊張に包まれていた。
なぜなら、突然にしてゴーストラリア魔王国の全権大使がエセ外務省に面会に来たからである。
それに伴って運ばれる大きなトレーラーが一台来ている。
車体に黄色いキリンの絵が描かれているそのトレーラーの中には、坊主が上手に絵を描いたと思われる屏風が2つ、収められていた。
「我らが魔王であるラララ首相からの直々の勅命である。傾聴したまえ――」
何事かと騒然とする外務官たちに、高圧的なゴーストラリア魔王国の全権大使は言い放つ。
全身黒いスーツを身に纏った魔人である彼にすれば特に気負ったところはないのかもしれないが、がたいも大きなその容姿からしてヒトが受ける圧としては強いものがあった。
「ゴーストラリア全権大使殿。これは一体……」
「このたび運び込んだトレーラーには高尚な坊主が描いたと言われる屏風が入れてある。目録はこれだ。ラララ首相が言うには友好のためのプレゼンであるそうだ」
ここでようやく、外交官たちはそっと胸をなでおろす。
つまりは親善ということなのだろう。
いただけるものであれば頂く方が良い。
そしてどうせならイベントとして派手にやる方が良い。いきなりの訪問であったため報道各社には通知をしていなかったが、失敗であったか――
「高尚な坊主に、レベル12のモンスター、コックローチ『イノセントG』を描いていただいた。上手であろう?」
サンプルの写真を外交官に渡す。
それはどう見ても――虫であった。
なんだろう、何かいやがらせのつもりなのだろうか?
ゴーストラリア魔王国の全権大使は魔人である。
その表情は外交をする魔人としていまいち表情が分からない。
おそらくは――老獪なのだろう。
その意図が、さっぱり分からなかった。
「うむ――。いやがらせではないぞ。ラララ首相としてはあまり低レベルなモンスターであれば倒してもろくな経験点にはならないし、強いモンスターであれば討伐できないだろうとのことだ」
「倒せるので?」
「もちろん。報道でも集めて親善として盛大に討伐大会でもヤるがいい。正しく屏風から出すことができればだがな」
それは何かのとんちなのだろうか。
屏風に描かれたモンスターを出すとか本当にできるのだろうか?
ともかく、礼は言うべきだろう。
「ここまでしていただいてありがたいが、その……、(裏に)何かかあるのでしょうか?」
これまで、ゴーストラリア魔王国は他の国とほとんど交流がなく、沈黙を貫いていることが多かった。過去にはダンジョン開放を行い、各国を楽しませることをしていたゴーストラリア魔王国であったが、世界中のダンジョン討伐イベントでその好意を無駄につぶすようなことがあってからは特に沈黙することが多くなっていた。
そしてダンジョンをいつでも開放できるという事実から、ゴーストラリア魔王国を侵攻するという話もほぼなくなっている。前回の――といっても100年前だが――開かれたダンジョンは小さい規模であったが、高レベルダンジョンを大量に発生させられるのであれば簡単に各都市/各国を滅ぼすことができるだろうからだ。
最近になってようやく周辺4か国で地域経済圏を構築し、ゴーストコリア魔王国からは主に石炭や牛肉を輸出、帝国からは自動車などの重機を輸入するようになってはいるが、それだけだ。
しかし、それだけに今回の動きは不気味だ。
「うむ。実はな――」
外交官たちは息を飲む。一体何をさせようと言うのか?
「実は、そちらにいるという『村人B』なる人物に、もう一つあるこの屏風を手渡して欲しいとのことだ」
新たな写真を外交官にカードのように手渡す。
これが一緒に来たトレーラーに入っているのだろう。
それは見事な、坊主が屏風に上手に描いた白虎のイラストである。
背景には複雑な封印の魔法陣が描かれ、屏風は幻獣だけに鉄の鎖で厳重にとめられている。
それはレベル60モンスター、ホワイトタイガー『マジックビーン』であった。
猛々しい白いその姿は、いまにも織田の鉄砲隊に討たれるかのような悲壮感を漂わせている。
「その『村人B』とは一体……」
「分からぬ――。どうも最近できたアプリとかいうもので知り合ったらしくてな……。住所も知らぬらしい。虫の屏風は言ってみれば村人Bを探す手間賃として考えてもらって良い」
アプリ?
外交官たちは思い当たる節があった。
エセ産業省の連中が何か騒いでいたはずだ。
「ともかく渡したからな。特に村人Bに渡す時期は指定されていないから、適当に報道でもして探すのが良かろう」
最近ウィンドウシステム内に構築された《アプリ》なる新システムだ。
そこで魔王ラララと村人Bなる人物が謎の交流でもしたに違いない。
だから住所も本名も知らないと……
外交官たちはそう言い放って去っていく全権大使を呆然と見つめていた――
どうすんだこれ?