人類が到達できる最上位の通信術式、その第7位階層術式の名は?
某所、エセ大日本帝国、エセ経済産業省の会議室ではプロジェクターによって大きくその掲示板が映しだされていた。
「見てください。総理。これがあの『ウィンドウシステム』で創られた――掲示板です」
「ほう? これはー、どうなのだろうな?」
突如ウィンドウシステムに創られた「アプリケーション」。
そこに創られた某掲示板。
あの某日本最大級の電子掲示板サイトをぱくったとしか思えないようなインタフェースは、切なくも懐かしい、誰もが親しみのあるものだ。
これが神が作ったものならばまだ納得できるだろう。
だが制作者は「運営A」なる人物のようだ。
書き込んだアリスという人物の特定はようとして知れないが、もしこのようなものが創れるのであれば相当有望なスキルなのだろう。
もしその人物を抱え込むことができれば――
相当有力なメディアとして世界を席巻できることだろう。
まともに書き込んでいるのは二人くらいだが、世界の人に認知され、使い始められたら大変な技術革新が起きるに違いない。
英知の結晶として技術開発はさらに加速するだろう。
しかし――
「しかし、すでにエセ大日本帝国内ではすでにエセインターネット網を整備しております。いまさら掲示板などが新しくできたとして、はたして使われるものでしょうか?」
技術者の一人が疑問を呈した。
「使われるだろう。それは。今はこんなちんけな〇ちゃんねるもどきのようなものしか作れないようだが、そのうちに新しいSNSのようなものが次々と制作されるに違いない。そうなれば大量のネタ画像が世界に溢れかえることになるだろう。我々日本人の手によってな」
「まさか――。できますかね。そんなことが? このアプリを創るスキルがあったとして、おそらくは固有スキルでしょう。おそらくはたった一人……。そのたった一人のニンゲンがそこまでできるのか?」
「日本ではそのたった一人で、音楽、プログラム、イラストに至るまですべてを造り、高度な弾幕シューティングを何作も構築した例もある。お前はネタに走ったニンゲンの恐ろしさを知らぬからそんなことが言えるのだ。底知れぬ理系の暴走を甘く見てはならぬ」
「それはそうでしょうが――」
「そもそも、だいたいにおいてコーディングにおける難しい部分は発想力だ。新しいものを作り出すのは大変だが――、我々には異世界転生する前の知識がある。発想はいくらでも転がっているのだよ」
「二番煎じであればある程度簡単――。つまり競争地位の4類型:フォロワー戦術ですか――。コピペするのであれば確かに簡単でしょうが、はたして、そううまく行くのでしょうか? 入力デバイスの問題もあるでしょうし」
「うまく行く行かないは関係ない。為政者としてはうまくいった前提で物事を考えておかないと、それが現実となったときにまともに対処ができなくなってしまう」
「それはそうですが――」
「それに、もしもそんなことになったら、NH〇の存在意義が揺らいでしまうではないか! すべてがウィンドウシステムで構築されたら受信料が取れなくなってしまうぞ」
「え、そこなの?」
エセインターネット。
それは、異世界中のコンピュータなどの情報機器を接続するネットワークである。世界的に広く使われ始め世界を席巻したそのシステムは、今や生活や仕事などのさまざまな場面で使われる、不可欠な社会基盤となっている。
その情報工学の最高峰たるエセインターネットを利用したシステムは、いまではこの異世界でも当然のように使われているのだが、そのシステム実現にはK大学の学生を中心としたwwプロジェクト技術やら、雷精霊達の枢軸基盤機構によって制作された根幹をなすサーバシステム、雷ナックス技術やらが大きく関わっていた。
異世界に登場したそのエセインターネットは、地球のインターネットとは違い完全IPv6のグローバルネットワークだ。そこに蓄積されたデータやソフトウェアというのは多くはOSSとして公開されており、自由に利用することが可能になっている。
とある異世界転生者の大学生が雑に財布の中にUSBメモリでOS媒体をつっこんでいたのが決め手だった。
現状ではほとんど pom.xml を通じてネットワークからソフトをダウンロードするものであるが、彼はスタンドアロン用に多くのソフトをリポジトリとしてダウンロードして持っていたことから、異世界でもほぼ現代と遜色のないシステムを構築することが可能となっていた。
そんなエセインターネットのソースコードを移植すれば、簡単にいろいろなものが作れる。
問題となるのはコンバート――移植変更だけ。
そう、プレーステーションのソースコードを、メガドライブといった新たな機種へ移植するように、エセインターネット上のソースコードをこのウィンドウシステムに移植することができれば、世界の状況は一辺させることができるのだ。
安藤ロイドはその移植の簡単さを極めるために、ある術式を導入しようと考えていた。
それは第7位階層のエセインターネット術式、FTPである。
FTP――すなわちファイル転送プロトコルという術式があれば、ファイルと呼ばれるデータの塊をウィンドウシステム内に転移でき、システム構築は一気に加速することだろう。
まるでそれは弱わ弱わのゴブリンが、一気に女騎士の「くっころせ」とか言わしめるオークになるような進化具合だ。
安藤ロイドの《スタジオ》スキルの支援機能や補完技術がいかに高かろうと、キーボードというインタフェースだけで、つまり手入力だけでプログラミングするのはきついのである。
M〇rvenのようなシステムが欲しい。
だが問題もあった。
第7位階層の術式を使用するには、その下の階層の術式も取り入れる必要があったのだ。
下の階層からの基礎固めがなければ、上位階層の技術を収めるのは難しいのはどの業界でも同じことである。
この異世界での通信術式階層は、およそ以下の階位で成り立っていた。
第7位階層:アプリケーション層
第6位階層:プレゼンテーション層
第5位階層:セッション層
第4位階層:トランスポート層
第3位階層:ネットワーク層
第2位階層:データリンク層
第1/0位階層:物理で殴る層
そして、ここで最も問題となるのは第1位階層技術の物理層である。
物理がなんとかならければどうにもならないのだ。ましてや殴るなんて。
ソフトがなければ、つまりデータがなければハードは動かない。
だがハードがなければデータは転移することができない。
まるで鶏と卵のようである。
逆に言えば物理さえなんとかできれば、後は過去の蓄積されたソフトがなんとかしてくれるだろう。
「早く、なんとかしないと……。どんなに遅くても良いから……」
そこで導入したのが、デジタル信号の変調方式であるQAM(直角位相振幅変調)のうち、一度に2通りの値を送ることができる1QAM方式(2進直角位相振幅変調)であった。すなわち0と1の2値である。
そう、ウィンドウシステムにスマホの画面を押し付けて、通信によって0と1だけを判定させるプログラムをエセインターネットと、ウィンドウシステムの両方に作り上げるのだ。
安藤ロイドがそれが完了するまでに掛かった年月は約1月。
そしてデータが蓄積されると下位階層のソフトが導入され、ついにFTPが導入された。
そこから先は簡単だった。
電波系が使えるようになり、高速フーリエ変換/逆変換を行えるソフトによってOFDM(直交波周波数分割多重)ができるようになり、MIMO(マルチインマルチアウト方式)が導入されてデータ転送量は一気に加速する。最終的にはWIFi(Wireless Fidelity)と呼ばれるシステムにより、ついには自宅のモバイル機器からもウィンドウシステムとアクセスができるようになったのだ。そう、時代は IEEE 802.11ax なのである。
それは神の予想を超えた技術革新――通信事業者の不要な第二のエセインターネットの完成であった。
そうなればエセスイッター、エセブログ、エセ某配信サイトなどの導入はもう目前である――
ね。簡単でしょう?
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