ゴブリン語
ゴブリン語(現地での正確な呼び名は K〇tlin Language)とは、ニュートリノで作られたウィンドウシステムを操作するために、既存標準言語をより簡潔化、洗練化して冗長な部分を外した言語の名称である。
既存仮想マシン上で動作するため、標準語で書かれたプログラムと同程度に速くコンパイルされ、さらには同程度に速く動作すると唄われている。
その簡潔さゆえにゴブリンですら使うことができるという触れ込みの簡単な言葉であるが、しかし実際に下野動物園に実在するゴブリンたちが使っていることを見たことはない。
そう――、もしかするとゴブリン語とは純粋な開発言語であり、ゴブリンたちが話しているような言葉とはほど遠いのかもしれない。
「いやまぁ、商標権の問題を避けるためにテキトーな名前が割り当てられただけだろうが……」
小さく本音を口にしながら安藤ロイドはプログラミングを進める。
ぶつぶつ小声を言いながらプログラミングをするのは安藤ロイドのくせであった。
豊富なヘルプが用意されている開発は、難解でもあったが、安藤ロイドはだんだん楽しくなってきた。
いわゆる現実逃避である。へぶーん! へぶーん! へぶーん!
安藤ロイドは子供時代のゲームを思い出す。
安藤ロイドの子供時代はずっとパソコンでゲームばかりしていた。
スマホが登場したときは、スマホに移りかけもしたが、しかし家ではずっとパソコンだ。
通信料がルータを使えば固定というのが魅力でもあった。
対人のFSPなども楽しい。
そんなこんなで、ようやく作り上げたチャットシステムは、しかし洗練されておらずインターフェースは化石かと思えるほど古いものであった。
まるで某掲示板のようなそれは、1000個コメントを入れるとスレッドを分けて新しいものを作らないといけないというレトロさがある。
始めて作り上げたアプリは、どうせ誰も遊んでくれないに違いない。
苦労して作った無料のゲームをアップロードして1カ月放置しても、ダウンロードされた数はたった8とか。そんなことは往々にしてあったのだ。
だがでも良いのだ。所詮は安藤ロイドの自己満足であるのだから。
そして仕事は別にあるのだ。
仕事だったらもっと作りとか考えるが、これで稼ぐ必要はないのだ。
まずは仕事用に作るとしたらアカウント/パスワードだろうか。後はマネタイズするために広告はどうやって入れるか? 広告を受け付ける部分はエセインターネット側で用意すれば? おっと脱線してしまった。
これだからプログラミングはやめられない。考えること自体が楽しいのである。分からない人には全く分からない趣味だ。
そして安藤ロイドは自分が楽しければ後はどうでも良いとする快楽主義者だった。
作ることが趣味であり、使われることは趣味ではない。
大人になれば分かる。苦情処理など誰もがやりたくないのだ。
理不尽なクレーマーほど厄介なモノはいない。
そして今の時代――、ウィンドウシステムをまともに使うのは貴族とかのみであり、他の人々は開いて見たりもしようとしない。作ったところでどうせ使われることはないのだ。
それもそうだろう。
レベル0のニンゲンにとって、ウィンドウシステムは能力値が見えるだけの、ただの「箱」みたいなものなのだから――
しかし、見ているニンゲンや魔人、魔王ラララは確実にいたのである。