3 胸糞注意!
誤字の修正をするために投稿を遅らせたにもかかわらず、続々と誤字報告が!くそぅ!
己の不甲斐なさを痛感しております!
誤字報告ありがとうございます!
わたくしが生まれたのは、少し他と違う子爵家で、身分はそれ程高くないけれど、お母様は高位貴族の侯爵家出身だった。
生まれたばかりの頃はよく熱を出す子供だったわたくしに、お母様は何時だって付きっきりでわたくしの側に居てくれた。
一つ年上のお姉様と、ずっと年上のお兄様達が居たけど、あの人達は乱暴で野蛮だからとお母様に近寄ってはいけないと言われていた。
お姉様は何時だってお兄様の誰かに抱っこされたりおんぶされたりしていて、正直羨ましかったけれど、お母様や乳母やメイドは何時だってわたくしのすぐ側に居てくれたから寂しくはなかった。
ただ、お兄様達やお父様に構われるお姉様の事は、どんどん嫌いになっていった。
だってお姉様が居なければ、お父様もお兄様達もわたくしの側に居てくれるだろうから。
お姉様がわたくしからお父様やお兄様達を奪ったのだわ!
だからわたくしは目についたお姉様の物を、お母様にねだって奪ってやったの。
お姉様はわたくしと違って体が頑丈だから、お兄様達と外へ遊びにいけるじゃない?わたくしは体が弱いから、家から滅多に出られないし。
お姉様みたいにお勉強だって訓練だって、体が弱いわたくしには無理だし。
だから家の中にあるお姉様の物を少し貰うくらい許されて良いはずだわ!
お母様だって、わたくしのねだった物は全部お姉様から取り上げて、わたくしにくれたもの。
たまにお父様に注意されることはあったけど、それもお母様や乳母が庇ってくれたし。
ドレスが無いから何なの?お姉様はお兄様達のお下がりの服を着て外へ行くじゃない!ならドレスは全部わたくしが貰っても良いはずよね?!
お父様はお姉様の味方ばかりして、意地悪を沢山言うの!
お姉様には沢山の精霊をあげたくせに、わたくしには勉強をしないとくれないと言うし!
わたくし知ってるんだから!他の家では赤ん坊の時に精霊を貰って、魔道具と言うのを使えば簡単に精霊を操れるって!
お母様と一緒に侯爵家に行った時に伯父様とお母様が話してるのを聞いたんだから!
だから勉強しないと精霊をくれない何て言うお父様は、本当に意地悪で言っているのだわ!
お姉様の味方ばかりするお父様やお兄様、わたくしとお母様に意地悪ばかりする親戚達も大嫌い!
だからわたくしお母様にお願いしたの。
こんな家にもう居たくないって!優しい伯父様の居る侯爵家の娘になりたいって!
そしたらお母様が伯父様に手紙を書いてくれて、伯父様が侯爵家においでって言ってくれたわ!
お母様も凄く喜んで、乳母とメイドも連れて皆で侯爵家に行ったの。
子爵家だったお父様の家より何もかもが豪華な伯父様の侯爵家では、わたくしはお姫様になった気分でとても楽しかった!
勉強しろとか訓練しろとか言う、お父様やお兄様達も居ないし、豪華な屋敷に綺麗なドレス、優しいお母様や乳母やメイドに傅かれる生活は最高に楽しかった!
わたくしはやっと自分の居るべき場所に帰ってこれたのだと思った。
お母様も同じ様に、何時もニコニコしていたし。
夜会にはまだ年齢が足りなくて行けなかったけれど、お茶会や昼間のパーティーには何度も参加して、身分の合うお友達も沢山出来た。
そんな楽しい生活が何年か続いて、ある日伯父様が話があると真剣な顔で言ってきた。
何か悪いことかとドキドキしていたら、今度王家主催の狩猟大会が開かれるのだと言う。
そこに招待されているファンスール子爵家の子息と親しくなりなさい、と言われた。
なぜ子爵家の子息なんかと親しくしなくてはいけないのかわからない。
わたくしは侯爵家の娘になったのだから、それに相応しい身分の見目麗しい男性と親しくなりたいのに!
伯父様にそう言ったら、別に婚約も結婚もしなくてもいいけど、親しくなりなさいと言われた。
そうすれば、お姉様がとても悔しい思いをするから、とも。
まあ、お姉様の悔しそうな顔を見られるのなら親しくしてやっても良いけれど?
参加した狩猟大会は、王家が主催するだけあって盛大で豪華で、沢山の人が集まっていた。
お友達とお茶会に参加したり、スイーツを食べたり、どんな男性が格好いいかを話したりして盛り上がった。
その格好いいと評判の男性の中に、伯父様に言われたファンスール子爵家の子息のレンリオット様の名前もあって、昼食休憩に狩りから戻ってきたお姿をこっそりと覗いたら、それはもう!王太子様よりも格好良くて!キラキラ輝く金髪にサファイアの瞳!キランと輝く歯も眩しい笑顔!お友達と一緒になってキャーキャーと騒いでしまったわ!
あれだけ格好良かったら、伯父様に言われなくても親しくしたいと思うのは当然よね!
ただ、残念なことにその日は近付くチャンスが無くて、次の日になってしまったけど。
次の日は王妃様主催のお茶会に招待されて、お母様と一緒に参加した。
高位貴族ばかり招待されたはずのお茶会には、何故かお姉様も居て、王妃様が言うには、ファンスール家のレンリオット様とお姉様は、婚約して結婚も間近だとか?!
あのレンリオット様とお姉様が?!
そんなの勿体ない!お姉様よりも何倍もわたくしの方が可愛いしレンリオット様を好きなのに!
お母様もわたくしよりも先にお姉様に縁談の話がある事が面白くないのか、嫌な顔をされていたし!
だからわたくしとお母様は二人で、ファンテール家が、お姉様がどんなに酷い人かを皆様に教えてあげたわ!
昨日は夕方まで続いたお茶会が、何故かお昼で終わってしまったけど、わたくしにはその方が都合が良いので部屋に戻って、メイド達に入念に肌の手入れをさせ、セクシーなナイトドレスを着て、その上にガウンを羽織っただけの姿でレンリオット様の部屋に訪問した。
狩猟後には男性達だけのお酒の席が設けられ、遅くなるのは分かっていたから、レンリオット様はまだ部屋には戻っていないのは計算通り。
夕方も過ぎて夜の始まりの時間。
ほんのりお酒の匂いをさせて部屋に戻ったレンリオット様を出迎える。
最初は警戒した目で見てきたレンリオット様だけど、ガウンを脱いで見せれば、ゴクッと唾を飲む音をさせてわたくしを凝視してくるレンリオット様。
その眼差しにゾクゾクと体が震えるけど、構わずわたくしはお姉様の非道を訴え、レンリオット様への恋心を告白し、ほんのり涙を浮かべてレンリオットに抱き付く。
ウフフ!レンリオット様はわたくしの体を優しく抱き上げてベッドに運んで下さったわ!もうそれからは言葉など無く男と女の時間。
初めてだったけれど、レンリオット様は優しくて、わたくしは夢中になったわ!
まさかそれで、いつの間にか朝になっていたのを気付かなかったのはうっかりしてしまったけれど。
それでもお姉様のあの顔は!絶望して悲鳴をあげて震える姿ときたら!
大声で笑いたいのを我慢していたら、メイドに部屋に連れていかれて身支度を整えられた。
汗や色々でベタベタだったけれど、お風呂に入っている時間はなかったから、拭くだけで我慢した。
そして案内された部屋の前にはレンリオット様が居て、二人で同時に部屋に入ると、お姉様が!お父様に抱き締められて震えて俯いていた!
ウフフ、フフフフフフ!なんて面白いのかしら!
隣に座ったお母様も扇の影で笑ってるし!
王様もわたくしとレンリオット様の婚約を許してくださったし!最高の気分で逃げるように去っていくお父様とお姉様を見送ったわ!
お父様とお姉様が居なくなったら、伯父様と王様に褒められたし!
そして帰ってきたらすぐにレンリオット様との婚約が済み、もう一度知ってしまった快感に抗えず二人で仲良くしていたら、体調を崩してしまって、医者に見て貰ったら妊娠している事が分かった。
伯父様もお母様もとても喜んでくれて、レンリオット様にもすぐにプロポーズされた。
婚約期間が短すぎるけど、お腹が大きくなる前にウエディングドレスを着たかったから、大至急でドレスを作らせ3ヶ月後には結婚式を挙げた。
お友達が何故か変な目で見てきたけれど、そんなのはきっとレンリオット様と結婚出来たわたくしを羨ましく思っているだけだと気にもしなかった。
悪阻やお腹の重みは辛かったけど、お母様が励ましてくれたし、結婚式を挙げた事でレンリオット様が侯爵家に来て一緒に住んでくれるようになったので何とか耐えられた。
そして出産。
何度も気絶する程痛がっているのに!その度に頬を叩いて起こす産婆は、これが終わったら貴族への暴力で訴えてやるわ!と思いながら、本当に命懸けで出産を終えた。
生まれた男の子はファンテール家特有のダークレッドの髪と目をしていて、わたくしにもレンリオット様にも全然似ていなくて可愛くなかった。
こんな子供がわたくしのお腹から生まれてきたとは信じられなくて、凄く不満だったのに、伯父様と王様は何故か凄く喜んでた。
ナラザードと伯父様が名前をつけた可愛くない子供の世話は乳母に任せて、わたくしはレンリオット様とずっとイチャイチャしながら夜会などにも行って楽しく過ごしていた。
そしたらファンスール家から、そろそろ精霊の儀式をするから、ファンスール子爵家に来て欲しいと手紙がきた。
面倒だったけど、レンリオット様が凄く喜んでいたから顔には出さずに付き合ってあげた。
わたくしには分からないけど巨大で強力な精霊と契約出来たナラザード。
王様や伯父様、ファンスール子爵家の人達やレンリオット様が凄く喜んでいたから良いことだったのだろう。
似ていなくても流石わたくしが苦労して産んであげただけの事はあるわね!
伯父様が中心になって、ナラザードのお祝いのパーティーを開くことになった。
子供の顔を見れば、お姉様は前みたいにあの悔しそうな顔を見せてくれるかしら?そう思って伯父様にお姉様を名指しで招待状を送って貰ったわ!なのにお姉様だけでなくファンテール家全員が断りの手紙を送り返してきた。
侯爵家のパーティーを断るなんて何様のつもりかしら?!
伯父様もそう思ったのか、王様に頼んで強制参加させることに。
パーティー当日。
沢山のお友達と多くの貴族達に祝福されわたくしは幸せの絶頂に居たわ!
だからさらに幸せを手に入れるために、態々ナラザードを抱いてお姉様達の居る前に行ってあげたの。
さあ!悔しさに滲む涙を見せなさい!
「お姉様見て!可愛いでしょう?それにこの子は強力な精霊も持っているのよ!凄いでしょう?難しいお勉強などしなくても、お姉様達じゃ太刀打ち出来ないくらい強力な精霊が持てるわたくしの子供の勝ちね!もうファンテールの家なんていらないんじゃないかしら?ウフフフフフフ!」
優越感たっぷりにナラザードを見せてあげたのに、お姉様は何故か同情するような目でナラザードを見て、
「そうね、可愛らしい子。でも可哀想に、巨大な精霊を与えられてしまったせいで、この子は命を削るような訓練をしなければ、数年でその力が暴走してしまうでしょうね?せめて貴女達は身を挺して他の方々を守ってちょうだいね?」
訳のわからないことを言ってくる。
負け惜しみかしら?
「は?何を言っているの?この子の精霊は代々ファンスール家と契約している精霊なのよ?ファンスールの血が流れていれば制御なんて簡単な事よ!そんなことも知らないの?」
無知なお姉様に教えてあげたのに、
「貴女こそ何の勉強もしていないから知らないのね?精霊は契約者と共に成長するのよ?そんな何代も掛けて成長し切った精霊が、赤ん坊の血と魔道具ごときに制御出来ると思ったら大間違いなのよ?この子が成長するに従って、感情の起伏で大変な事になるでしょうけれど頑張ってね?貴女は母親なのだから?」
嘲笑うような顔でこちらを見てくる。
何故そんな顔が出来るの?!
嘲笑ってやるのはこちらの方でしょう?!
反論しようと口を開く前にレンリオット様が叫ぶように、
「な、な、何を言う!ファンスールの血の契約は絶対だ!破られる事など無い!それに万が一この子が暴走したとしても、シェーラザードの精霊で抑えれば何の問題も無いだろうが!」
レンリオット様が言うけど、わたくしには精霊など居ないわ。何を勘違いしているのかしら?
「あら?ご存じないの?シェーラザードには精霊がいませんのよ?」
聞かれたことも無いから言わなかったけど、精霊がそんなに重要なの?レンリオット様だって持ってるじゃない?
「は?そんな馬鹿な?!お前達は娘に精霊も与えなかったのか?!」
目が飛び出そうな程驚いているレンリオット様。
それにレンリオット様だけでなく王様や王太子様、伯父様やファンスール子爵も物凄く驚いている。
「何を仰っているの?シェーラザードが嫌がったから契約出来なかったのよ?我が家の嫌がらせなどでは断じて無いわ!」
え?わたくしを悪者にする気?!
「嘘よ!わたくしには契約を結ばせないと意地悪を言ったじゃない!」
そうよ!貴女達が意地悪でわたくしに精霊をくれなかったんじゃない!
「そうよ!シェーラには塔に入ることさえ禁止していたじゃないの!」
そうよ!お母様だって知ってるわ!
「当然でございましょう?シェーラザードは契約する前の基本的な精霊術の教育を嫌がって、何の知識も無かったのですもの?そんな者に我が一族が精霊を与える儀式を受けさせる訳がありませんわ!お母様はご存知無かったようだけど、シェーラザードは何度も説明されたわよね?一定の知識を身に付けなければ契約の儀式は受けられないと」
確かに何度も勉強しなければ精霊はくれないとは言われたけど。
「そんな!本当にシェーラザードには精霊が居ないのか?!」
レンリオット様ったら大袈裟に驚き過ぎじゃないかしら?
「ええ、居りませんわね」
「何故その事を教えなかった?!知っていればこんな女を嫁になどしなかったのに!」
え?精霊が居なければ嫁にしなかった?はあ?何を言っているの?
「は?教えるも何も何かを言う前に体の関係を持ったのは貴方達よね?人のせいにしないで欲しいわ」
そうよ!わたくしの誘惑に簡単に乗ってきたくせに!
「な!それは、しかし、ファンテール家の娘には違いないだろう!今からでも契約させれば良いじゃないか!」
「あら残念。既に我が一族自慢の魔法陣は破壊してしまったもの。今更シェーラザードに契約をさせる事は出来ないわ。それに今更シェーラザードだって一から精霊術のお勉強なんて嫌でしょう?」
「何と勝手な事をするか!余はその様な勝手を許してはおらん!即刻復元いたせ!勝手をしたそなた達は復元後、その魔法陣の管理は任せられぬ!以後は国が預かるものとする!近衛兵!この者達を捕らえよ!魔法陣の復元が済むまでは牢に閉じ込めよ!」
それからは王様まで口を出してきてわたくしの反論する隙も無く、近衛兵に取り囲まれたお姉様達。
何だか良く分からないけど、犯罪者として牢屋に入れられるなら、まあ良いのかしら?と、胸を撫で下ろしたのに、一歩前に出たお父様が、
「陛下、我がファンテール一族は、長年王家に忠実に仕えて参りました。ですが王家は我が一族の力を求めるばかりで、何一つ我々に報いては下さらなかった。今回の一連の騒動を見て、我が一族からは王家への忠誠が綺麗サッパリと消え失せました。今この時を以て我が一族はこの国を捨て、他国へと移住致します!」
そう宣言した後に、手に持っていた石を掲げると、強い光が辺りを覆って、目も開けられないほど眩しく光った。
暫くして目を開けられるようになると、ファンテール家の人達は一人も居なくなっていて、辺りが騒然とした。
国王様が兵に捜索を命じて、パーティーは途中で中止になってしまった。
後から分かったことだけど、ファンテール家の一族は、財産や生活に必要なもの全て持って忽然と姿を消してしまったそうだ。
屋敷はそのままだけど、中身が空っぽになっていて、親類縁者全員が居なくなっていた。
その事で貴族達が大変な騒ぎとなり、一族ではない精霊術師達の多くも後を追うように居なくなってしまったんだとか。
国を出ようとした精霊術師は何人か捕まえられたらしいけど、ファンテール家の捜索は難航しているらしい。
貴族家も何だかザワザワしてて、夜会に参加しても楽しくないし!
レンリオット様からは精霊が居ないことを酷く責められて、仲違いしたまま口も利かなくなった。
伯父様も凄く不機嫌になって、侯爵家の居心地が凄く悪くなった。
お母様も何だか不機嫌だし。
だから気晴らしに普段はあまり行かない仮面舞踏会に行ってみたの。
皆身分も家も関係なくただただ楽しむ為に集まっている舞踏会は楽しかったわ!お陰で欲求不満も解消されたし!
いい気分で夜中に侯爵家に帰ったら、侯爵家屋敷が大変な事になっていた!
屋敷が半分壊れて崩れてるんだけど?!何?何があったの?!
調査をしていた騎士に事情を聞こうとしたら何故か連行されてお城の貴族牢に入れられた!
そして何故かナラザードも同じ部屋に連れてこられてベッドに寝かされた。
え?そこはわたくしのベッドでしょう?なぜナラザードを寝かせているの?わたくしはどこに寝ろと言うの?
もう夜中だし仕方無くナラザードをソファに置いて、わたくしはベッドで眠った。
侯爵家のベッドより固くて寝心地が悪かったけど、疲れていたのですぐに眠ってしまった。
翌朝。
ナラザードの泣き声と兵士の乱暴な揺さぶりで起こされた。
夕べは疲れていたし色々あって混乱していたからそのまま寝てしまったけど、ドレスはクシャクシャになっているし髪も崩れてしまった。
貴族牢なのだから侍女の一人も付けて欲しいものだわ!これじゃあ湯浴みの一つも出来ないじゃない!
それにしても五月蝿いわね!
「もう!五月蝿いのよ!黙りなさい!」
そう言ってベッドの布団をソファに投げてやったら、兵士が慌ててナラザードを抱いて離れた。
「あんた何やってんだ!それでも母親か?!」
「はあ?だから何なの?なんか文句ある?!それより何故わたくしがこんな所に入れられてるわけ?さっさと出しなさいよ!」
兵士は何か言おうとしてたけど、結局何も言わずにナラザードを抱いて牢から出ていってしまった。
そして暫く経つと今度は違う兵士が来て、乱暴に粗末な食事を置いただけですぐに出ていってしまった。
何なの?!わたくしは侯爵令嬢なのよ?!ここから出されたら奴等をクビにしてやるんだから!
粗末とはいえ、お腹が空いていたので仕方無く置かれた食事を食べていたら、今度は兵士だけでなく王太子様が部屋に来た。
わたくしはれっきとした侯爵令嬢なので、王太子様が来ればお腹が減っていても我慢して挨拶くらいはしてやるわ。
「ああ、挨拶はいいよ。昨夜君がここに連れてこられてから何の説明もしていなかっただろう?だから態々私が説明に来てあげたんだよ。君はまだ一応侯爵家の人間と言うことになってるからね」
何言ってるのこの王太子?わたくしはれっきとした侯爵令嬢よ?
「ククク、君は未だに自分の事を侯爵令嬢だと思ってるようだけど、結婚した時点でファンスール子爵家の三男の嫁になった。そして君の夫のレンリオットはいずれ侯爵家から子爵位を貰う予定で独立した。だが未だ子爵位は正式に譲られてはいないのだから、現在の君の立場は平民の未亡人でしかないね。それでも突然の事だったし配慮して貴族牢へ入れてあげたんだけど、その事は理解した?」
理解した?って、出来るわけ無いじゃない!何でわたくしが!このわたくしが!平民にならなきゃいけないのよ?!
「まあ、理解しようがしなかろうがどうでも良いんだけど。で、昨夜の事なんだけど、君の息子であるナラザードは、ファンスールの代々受け継がれてきた巨大な精霊をその身に契約として縛り付けられている。それにも関わらず、親である君も、レンリオットもろくに面倒を見ようとせずに屋敷の者に子育てを丸投げしていた。ドービス侯爵家には精霊付きの子供の面倒をみられる者は居なかった。結果、ナラザードは放置状態で最低限の世話しかされなかった。ナラザードに付いた精霊は虐げられる契約者を不憫にでも思ったのかな?その大いなる力を使って屋敷を半壊させた。侯爵家の人間はほぼ全員が重傷を負い、事実上崩壊したと言える。で、その原因であるナラザードはまだ年端もいかない赤ん坊であることから、責任は親である君に取って貰うことになったから」
「はあ?なんでわたくしが?!ちゃんと世話をしなかった奴等が悪いんでしょう!」
「君はナラザードを産んだ母親だからね。子を世話する義務が有るんだよ」
「そんなの乳母やメイドの仕事でしょ!」
「じゃあ君はナラザードの親権を放棄するんだね?」
「わたくしに赤ん坊の世話なんか出来るわけないでしょう!」
「ふ~ん、そう。なら君は死刑決定だね。執行は1ヶ月後」
そう言って王太子は部屋から出ていってしまった。
はあ?わたくしが死刑?死刑って死ぬってこと?なんで?ナラザードを産んだだけで死刑なんて納得いかない!
何とか取り消させようと鉄格子を掴んで叫んだけど、誰も来なかった。
え?わたくし本当に死刑になるの?!そんなの嫌よ!絶対に嫌!
何とか逃げないと!
部屋中を探しても逃げ道は無いし、次の日には平民が入る汚い牢屋に入れられるし!どうすれば良いの?わたくし死にたくない!
どうしようと悩んで眠れず、汚い部屋に嫌気がさして、何日も眠れずに昼夜の感覚も分からなくなったある日。
ドウンッ、と地面が揺れてグラグラグラッと建物が揺れた。
え?なにごと?とパニックになっていたら、兵士が凄い勢いで部屋に入ってきて牢を開け、無理矢理引っ張られた!
「痛い!何するのよ!放して!」
どれだけ叫んでも兵士は聞いてくれず、その間もずっと建物中が揺れたりしてる。
本当に何なの?!
長い距離を歩かされ連れてこられたのはナラザードが泣き叫んでいる部屋。
王太子が真っ青な顔をして、
「さっさとこの赤ん坊を泣き止ませろ!このままではドービスの二の舞になる!クソッ!ファンスールの奴等も使えない奴等ばっかりで処刑したばかりなのに!」
とか叫んでるけど、意味分かんない!兎に角泣き止ませろと王太子は五月蝿いしナラザードの泣き声も五月蝿いので、その辺に有った布団を被せてやった。
ピタッと泣き声が止まる。
王太子がホッと息を吐いた瞬間、ドウンッ、と部屋全体が揺れて、わたくしの体が何かに吹き飛ばされた!
グチャッ、と音がして、身体中が痺れて動かなくなって、一体何が起こったのか分からずにいたのだけど、すぐ近くの壁には、体が半分壁にめり込んだ王太子がいて。
部屋の中央を見ると、ベビーベッドに寝かされたナラザードの姿。
その周りに漂うなにか。
ああ、初めて見たけど、あれが精霊なのね、と何故か理解できた。
あれを貰えなかったからわたくしはこんな目に遭ったのかしら?
もしファンテールではなく、ファンスールに生まれていたら、わたくしもあれを手に入れられたのかしら?
お姉様みたいに勉強をすれば、何かが変わったのかしら?
どうしてこんな事になってしまったの?わたくしはただお母様の言う通り可愛くしてただけなのに?
そしてまたドウンッ、と衝撃が来て、わたくしはたぶん命を失った。
とても胸糞悪い話でしたが、これを書かないと微妙な話の展開になるかな?と思って書きました。
母が母なら娘も娘って親子です。
明日で終わります!