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これが恋愛小説ジャンルであっているのかが悩みどころ。
関係者が揃ったところで、陛下が重々しく口を開く。
「此度の事は若い二人の暴走とも言えるが、幸い二人には婚約者もおらぬ、よってファンスール子爵子息はドービス侯爵家の令嬢と正式に婚約し可及的速やかに婚姻をなすこと」
「陛下、私からよろしいでしょうか?」
「ドービス侯爵、良いだろう」
「ファンスール子爵子息レンリオット殿は三男と聞きます。ファンスール子爵家には既に次期当主となられる嫡男がおられるようですから、我が家の持つ子爵位を譲り新たな家として認めて頂きたく思います」
「ああ良いだろう。他に意見の有るものは?」
「陛下、宜しいですかな?」
「ファンテール子爵、良いだろう」
「ありがとうございます。我が娘は、陛下のご命令で長年ファンスール家のご子息と交流を持って参りました。今回のような場を目撃してしまったことで娘は酷く傷付いております!今後は二度とこのような命令をされることの無いようお願い申し上げます!」
「あ、ああ。ファンテール子爵令嬢には気の毒な事になった。ファンスール子爵子息はあまりに配慮が足りなかったように思う。命令を下した余にも少なからず責任もある。ファンテール子爵令嬢には今後無体な命令を下すことはないように約束しよう。些少ではあるが慰謝料も支払おう」
「それでしたら我が家からも、姪の不始末の慰謝料を支払わせて頂く」
「も、勿論我が家からも支払います」
陛下だけでなくドービス侯爵家とファンスール家からも慰謝料が支払われる事になった。
慰謝料が支払われる以上はこれ以上文句を言うなよ!と言う圧も含まれているのだろうけど。
こちらとしては願ったり叶ったりなので全然構わない。
その場はそれで解決とされ終了となった。
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それからの話なのだが。
陛下の護衛として勤めていた叔父と、王太子殿下の側近として勤めていた次男が、私の婚約の顛末を聞いて護衛を辞退して我が家に帰ってきた。
二人とも物凄く引き留められたようだが、姪が、妹が心配だからと帰ってきてしまった。
その他にも親戚でお城に勤めていた者が全員職を辞して帰ってきてしまった。
防御重視の我が家が離れてしまった事で、国の偉い人達は慌てているらしい。
今回の件は、誰が見ても王家が我が家を軽視している事が明らかなので、叔父と兄と親戚が王家から離れるのも密かに納得する人は多かった。
基本的な話として、ファンスール家の精霊術と言うのは、生まれた子供に代々受け継がれている精霊と契約を結ばせ、使役することで精霊術を使うのが得意。
それに比べてファンテール家では、契約した精霊との親和性を重視して厳しい訓練を受け、コントロールを覚える事で精霊術を使うのが得意。
似て非なるこの家の在り方が、何とかして我が家にも精霊術を!と取り込みたい家には伝わっていない。
王家には説明をしている筈なのに、見えないものは今一つ伝わりづらいのか、この違いが分かっていない。
何が言いたいのかと言えば、ドービス侯爵家はファンテール家の娘を手に入れた気になっているようだが、シェーラザードは精霊術の教育を嫌がった為、精霊召喚の儀式も受けていない。
ファンスール家とは違って、ある程度の基礎教育を習得しない限り儀式を受けさせない決まりを作っているからだ。
そして我が家の塔にある魔法陣は、一般に知られている召喚の魔法陣とは別物と言って良い。
召喚できる精霊の数も質も段違いなのだ。
それを知らずにファンテール家の娘を手に入れた気になっているドービス侯爵家は、騒動の直後にレンリオットとシェーラザードの婚約を発表し、三ヶ月後には結婚式を挙げた。
同時に妹の妊娠も発表され物議を醸した。
若い二人に直ぐにも子爵家を任せる事は出来ないので、教育するとして侯爵家の別邸で暮らすそうだ。
我が家には王家、ドービス侯爵家、ファンスール子爵家から慰謝料が支払われた。
正式な婚約ではなかったので、従来の婚約破棄に比べれば微々たる額ではあったけれど。
わたくしは暫くの間、ショックを受けたことからくる体調不良として家でのんびりと過ごした。
これらの事を見て、他の貴族達は王家からの命令で婚約間近だったわたくしとレンリオットの間に、家を出た妹のシェーラザードが体を使ってレンリオットを誘惑し、二人は婚約もしていないにも関わらず体の関係を持ち、さらに妊娠までしてしまった。
と言う正確な情報が回り、シェーラザードの淑女としての評判やレンリオットの不誠実さが噂の的になった。
王家やドービス侯爵家、ファンスール子爵家は噂を消そうと躍起になっていたけれど。
わたくしには同情の手紙や体調を気に掛ける手紙、婚約を申し込む手紙が大量に届いた。
まあ、わたくしは友人からの手紙以外はあまり気にせず、親戚も集まっていたのでお互いの精霊の話等して楽しく過ごしていたのだけど。
半年後、少し早産でシェーラザードが子供を生んだ。
ドービス侯爵家とファンスール子爵家はお祭りのような騒ぎになり、大々的なお披露目がなされた。
我が家は我関せずと傍観していたのだが、ファンスール家とファンテール家の婚姻を望んでいた王家も参加したお披露目会は話題となり、我が家の立ち位置が微妙な事になってきた。
専制君主制の我が国なので、大っぴらに王家に逆らえるものでもなく、長いものには巻かれる貴族達が挙って我が家を批判してきた。
流石にこのままの状況を放っておくことも出来ず、我が家では連日親族会議が開かれた。
「父上、どうされますか?陛下と王太子殿下の護衛を再開いたしますか?」
長男の質問に、
「………………今更再開したとして、我が家の立場は微妙なままだろうな」
お父様が苦い顔で答える。
「シェーラザードの子供がどれ程の精霊を与えられるかにもよりますが、最近ではファンスール家の精霊は成長しすぎて契約を結ぶのも困難になってきていると聞きます。仮に契約を結べたとして制御するのは難しいでしょう」
陛下に仕えて長い叔父様が苦笑しながら言うのに、一同が全員頷く。
「ファンスールはな~、血の契約とか言って、制御の訓練なんかろくにしないから、自分の精霊がどれ程強力か理解してないんだろう?制御不能も目前じゃね?」
三男の軽い口調での言葉に、
「だろうな」
お父様が重々しく頷く。
「そうなれば王家も危ういですね」
長男の言葉に全員が沈黙する。
精霊を持つ者全員が参加しているこの会議。
沈黙が非常に重い。
「ならさ~、いっそ別の国に移る?一族全員で!」
三男の軽い言葉に、グフッゴフッと吹き出す何人かの後に、会議に参加していた全員の笑い声が弾ける。
「良いなそれ!」
「だな!決まりじゃね?」
「その手もあるな!」
「どこの国に移る?」
「ミョーバイン国等どうだ?あそこは精霊の加護が強い国だろう?」
「だがミョーバイン国はちと遠くないか?移動中に他国から何か言われるかもしれん」
「ならあちらの国は?」
「それならこちらの国の方が、」
と続々と移動先の候補国が挙がる。
皆様移動する気満々ですね?!
「ククク、全員国を出る気満々か?!ならば相手国にも先に話を通さねばな!なに、ミョーバイン国ならば友人が居る!そやつに手紙を書こう。移動も我々の精霊の力を借りれば問題にはならぬ!なれば移動するにあたって、荷物の整理なり家族の説得なりを先に済まそう!呉々も他家に知られぬ様に慎重にな!期限はシェーラザードの子が儀式を受ける一年後とする。それまでに準備万端整えて来る時に備える様に!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」
あっという間に、一族全員で他国へ移住する事が決定してしまった。
まあね、建国以来王家に忠誠を誓い、長い間国を守ってきたのに、未だに我が家は子爵家に過ぎない。
力を持つ我が家に権力まで与えない為の措置なのだろうけど、長年支えてきた我が家へのこの仕打ち。
今回の騒動で元々薄れていた王家への忠誠がほぼ無くなってしまったのだからこうなるのも仕方無い。
それからは他国へ移り住む為の準備に追われた。
他家から嫁いできた奥様やお嫁さんの中で、移住に同意しなかった方は精霊の力を借りて一部だけ記憶を消し離婚して実家に帰され、移住に同意された方は協力し一丸となって用意周到に準備が成された。
目的地であるミョーバイン国からも良い返事が届けられ歓迎されているので、後は出発の日を決定するだけ。
そんな中、シェーラザードの子の精霊の継承儀式が成功したとの噂が流れ、ドービス侯爵家で大々的なお祝いのパーティーが開かれる事に。
同じ精霊持ちと言うことで我が一族の者も招待された。
当然全員が不参加の返事を書いたのだが、王家から参加するように命令が下ってしまった。
我が家との事で評判の下がってしまった王家とドービス侯爵家とファンスール子爵家。
これを機に我が家には争う気は無いとの意思表示をせよ、との意図が含まれた命令。
どこまでも我が一族を軽視する命令。
「ククククク、ここまで嘗められるとは!良いだろう!我が一族の力を見せ付けてやろうではないか!決行の日はパーティー当日!王家を含む多くの者が目撃するなか、我が一族は堂々と他国へと移住するとしよう!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」
こうして盛大な意趣返しも含めて、ドービス侯爵家のパーティー当日が移住決行日とされた。
精霊の力を借りれば、荷物の移動なども簡単だし、大量の荷物を持ったまま何食わぬ顔でパーティーに参加することも出来るしね!
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それはそれは盛大で華やかなパーティー。
主役はシェーラザードとレンリオットの子供。
遠目からでもその体に宿された精霊の力の大きさが感じられる。
まだ一歳の幼い体にその精霊の力は明らかに巨大すぎ、このまま何の訓練もしなければ数年で暴走するだろうと予想できる。
精霊の宿る子供に害は無いだろうが、周りにはさぞや甚大な被害がもたらされる事だろうと予想できる。
もし、シェーラザードが我が家の教育を受け、精霊と契約を済ませ、制御を学んでいたなら、その被害も最小限に抑える事も不可能ではなかっただろうに。
因縁を知っている多くの貴族達に遠巻きに見られながら一族で固まってパーティーに参加していると、陛下と王太子殿下、ドービス侯爵とファンスール子爵、そして赤ん坊を抱いたシェーラザードとレンリオットがこちらに近寄ってきた。
周囲はその様子を固唾を飲んで見守り、にこやかに近寄ってきた一行を迎え撃つ様にお父様と長男が前に出る。
一応一番の当事者と見られているわたくしも、お父様と長男の間に立つ。
陛下と王太子殿下に一応型通りに頭は下げたが、特に何も言わないわたくし達一族。
軽く顔をしかめた陛下と王太子殿下。
微妙な沈黙の中最初に言葉を発したのは、赤ん坊を抱いた妹のシェーラザード。
「お姉様見て!可愛いでしょう?それにこの子は強力な精霊も持っているのよ!凄いでしょう?難しいお勉強などしなくても、お姉様達じゃ太刀打ち出来ないくらい強力な精霊が持てるわたくしの子供の勝ちね!もうファンテールの家なんていらないんじゃないかしら?ウフフフフフフ!」
勝ち誇った顔で自慢気に赤ん坊を見せてくるシェーラザード。
その後ろでは陛下も王太子殿下もドービス侯爵もファンスール子爵も勝ち誇った顔をしている。
「そうね、可愛らしい子。でも可哀想に、巨大な精霊を与えられてしまったせいで、この子は命を削るような鍛練をしなければ、数年でその力が暴走してしまうでしょうね?せめて貴女達は身を挺して他の方々を守ってちょうだいね?」
「は?何を言っているの?この子の精霊は代々ファンスール家と契約している精霊なのよ?ファンスールの血が流れていれば制御なんて簡単な事よ!そんなことも知らないの?」
馬鹿にするようにこちらを見る妹に、苦笑しながら、
「貴女こそ何の勉強もしていないから知らないのね?精霊は契約者と共に成長するのよ?そんな何代も掛けて成長し切った精霊が、赤ん坊の血ごときに制御出来ると思ったら大間違いなのよ?この子が成長するに従って、感情の起伏で大変な事になるでしょうけれど頑張ってね?貴女は母親なのだから?」
半笑いで言ってやれば、
「な、な、何を言う!ファンスールの血の契約は絶対だ!破られる事など無い!それに万が一この子が暴走したとしても、シェーラザードの精霊で抑えれば何の問題も無いだろうが!」
唾を飛ばす勢いでレンリオットが言い返してくるが、
「あら?ご存じないの?シェーラザードには精霊がいませんのよ?」
「は?そんな馬鹿な?!お前達は娘に精霊も与えなかったのか?!」
目が飛び出そうな程驚いているレンリオット。
レンリオットだけでなく陛下や王太子殿下、ドービス侯爵やファンスール子爵も物凄く驚いている。
「何を仰っているの?シェーラザードが嫌がったから契約出来なかったのよ?我が家の嫌がらせなどでは断じて無いわ!」
「嘘よ!わたくしには契約を結ばせないと意地悪を言ったじゃない!」
妹が金切り声で訴えれば、少し離れた位置に居た母までがこちらに来て、
「そうよ!シェーラには塔に入ることさえ禁止していたじゃないの!」
こちらも金切り声で叫ぶ。
「当然でございましょう?シェーラザードは契約する前の基本的な精霊術の教育を嫌がって、何の知識も無かったのですもの?そんな者に我が一族が精霊を与える儀式を受けさせる訳がありませんわ!お母様はご存知無かったようだけど、シェーラザードは何度も説明されたわよね?一定の知識を身に付けなければ契約の儀式は受けられないと」
わたくしの指摘に心当たりがあったのか、気まずげにそっぽを向くシェーラザード。
何かを思い当たったのか、陛下と王太子殿下もハッとした顔でこちらを見てくる。
「そんな!本当にシェーラザードには精霊が居ないのか?!」
「ええ、居りませんわね」
「何故その事を教えなかった?!知っていればこんな女を嫁になどしなかったのに!」
「は?教えるも何も何かを言う前に体の関係を持ったのは貴方達よね?人のせいにしないで欲しいわ」
「な!それは、しかし、ファンテール家の娘には違いないだろう!今からでも契約させれば良いじゃないか!」
「あら残念。既に我が一族自慢の魔法陣は破壊してしまったもの。今更シェーラザードに契約をさせる事は出来ないわ。それに今更シェーラザードだって一から精霊術のお勉強なんて嫌でしょう?」
「何と勝手な事をするか!余はその様な勝手を許してはおらん!即刻復元いたせ!勝手をしたそなた達は復元後、その魔法陣の管理は任せられぬ!以後は国が預かるものとする!近衛兵!この者達を捕らえよ!魔法陣の復元が済むまでは牢に閉じ込めよ!」
陛下の言葉と同時に近衛兵が動き出す。
1ヶ所に固まっていたわたくし達は慌てずに微笑むだけ。
陛下の後ろでニヤニヤしていた王太子殿下始めドービス侯爵やファンスール子爵達はわたくし達の余裕の表情に段々笑みが消えて、不審そうな顔になっていく。
そこにお父様のゆったりとした、でも威厳に満ちた声が響く。
「陛下、我がファンテール一族は、長年王家に忠実に仕えて参りました。ですが王家は我が一族の力を求めるばかりで、何一つ我々に報いては下さらなかった。今回の一連の騒動を見て、我が一族からは王家への忠誠が綺麗サッパリと消え失せました。今この時を以て我が一族はこの国を捨て、他国へと移住致します!」
そう言ってお父様が精霊石を掲げると、我が一族の全員が同じ様に隠し持っていた精霊石を掲げて、精霊術を発動する。
防御のファンテールと言われるだけあって、同時に発動した防御壁は近衛兵の剣になど一筋の傷すら付けることは叶わず、術は完成する。
目映い光の後には、我が一族の誰一人欠けること無く国から姿を消していた事だろう。
転移の術が成功し、我が一族はミョーバイン国に到着した。
既に話は通っているので、お父様の友人の紹介ですぐ様ミョーバイン王家の方々に挨拶に向かう。
精霊術の盛んなミョーバイン国では、国王様自ら歓迎して下さり、王領地から一族の住む土地を貸し与えられ、わたくし達は困窮する間も無くミョーバイン国に馴染めた。
精霊術の盛んな国だけあって、そこここに精霊の気配を感じ時には目に見える形で連れ歩く方もいらっしゃる程精霊と馴染み深い国。
長年精霊との親和性を重視してきた我が一族に取っては、これ以上無い国だった。
どうせならもっと早くこの国に来れば良かったと口々に言う程。
精霊と馴染み深い国にあっても、我が一族の精霊術は他の追随を許さぬ程圧倒的だったので、王族の護衛に、学園の教師に、精霊術の助力を、との声に引っ張りだこになった。
そうして実績を上げる度にミョーバイン国内での知名度も上がり、一年としない内に正式な貴族として叙爵された。
以前の国とは違って、正当に評価され正当な報酬を受け取れるので、我が一族は一年と経っていないのに裕福な貴族家と噂もされている。
順風満帆の我が一族で、親類一同生き生きと生活しているのだけど、一つだけ困ったことがある。
兄達はちゃっかりと元居た国から婚約者や恋人を連れてきていたのだが、わたくしにはそんな相手がおらず、年頃なのにと悩む間も無く、このミョーバイン国の第二王子に猛烈な勢いで口説かれていること。
お父様までこの国の未亡人と良い仲になっていて、わたくしを助けてはくれない。
逞しく頼り甲斐のある方なのだけれど、少々強引で戸惑うばかりのわたくし。
前回が前回なのでどうしたものかと悩んでしまう。
「あははっ、馬鹿だな~シエナは、悩むってことは好きってことだろ?嫌いなら悩む間も無く断るのがシエナの性格なんだから、素直に好きって言って飛び込めば良いよ!あの王子なら体当たりしたって余裕で受け止めてくれるだろうさ~!」
三男のどこまでも軽い助言に、妙に納得してしまったのは、悔しいけど正直な気持ち。
尻込みしていただけで、気持ちはとうに固まっていたことを自覚してしまった。
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元居た国では、妹シェーラザードの子は、精霊との親和性が高かったのか、泣き笑いする度に精霊が反応して様々な現象を起こし、本人以外が大変な目にあっているそうで、ファンスール家総出で抑え込もうとして、逆に収拾のつかない事態に陥っているのだとか。
何の知識もなく制御を学ぶ間も無く巨大な精霊を与えられれば当然そうなることは予想した通りなのだけれど、ファンスール家ではそんなことは考えもしていなかったらしい。
結果的に我がファンテール一族を追い出す形になった王家とドービス侯爵家、ファンスール子爵家は、他の貴族家から相当な批難を浴びているとか。
精霊とは力を持てば持つ程他の精霊にも影響を及ぼし、相乗効果で威力を発揮する事もしばしば。
制御も全く出来ていない赤ん坊の精霊に影響されて、ファンスール家の精霊はメチャメチャな事になってるそう。
我が一族の様に血を吐く程の鍛練を積んだ者など皆無なファンスール、血の契約が絶対だと大した鍛練もしなかったファンスール。
ファンテールとファンスールの家の違いや精霊が何かを理解しようともせずに、安易にその力だけを求めた王家。
ファンテールの娘と言うだけで、その性格や性質を見極めもせずに嬉々として受け入れたドービス侯爵家。
いくら疎外感を感じていたとしても、自分に似た容姿の娘しか愛さなかった母。
もう崩壊待った無し。
今更になって我が一族の消えた先を探し回っているようだけど、わたくし達だって親しくしてくれた方々には、あらかじめ手紙を出していた。
我が一族の受けた理不尽な扱いや不当に搾取され続けた長い年月の事を。
そして国を見限り一族総出で移住することも。
賢い人ならもう既に避難なり逃げ出すなりしている頃だろう。
お先真っ暗の王家に従う者は少ないでしょうしね!
思った以上にファンスール家は持ちこたえる事が出来ず、ドービス侯爵家が、ファンスール家が、そして王家が崩壊したとの知らせが届いたのは、我が一族が国を出て一年も経たない頃。
まず、危険だからと放置された赤ん坊が、当然のように泣き喚き、その精霊がドービス侯爵家を物理的に半壊させ、赤ん坊以外のドービス家に居た者が重傷を負いドービス家は精霊に呪われた家、として崩壊。
無傷の赤ん坊を何とか利用しようとした王家が、過剰な訓練をしようとして精霊の怒りを買い、その余波で陛下の護衛と王太子の側近として勤めていたファンスール家の者の精霊も一緒になって暴走。
王城は全壊。
ファンスール家は責任を取らされ全員が処刑され、ファンスール家が代々受け継いできた精霊との契約が無くなった。
代々受け継がれてきた精霊は巨大で強大な力を蓄えてきた精霊で、長年虐げられてきた鬱憤を晴らすようにその力を存分にふるい、王都を壊滅させた。
唯一残った契約者の赤ん坊を守るためか、一定以下の年齢の子供や赤ん坊は全員無事だった。
国の中枢が突然崩壊してしまったので、国としての機能が失われ、元居た国は精霊の怒りを買って壊滅したとの噂が流れ近隣国で分割され、国としては消滅した。
そして残された危険人物ではあるがまだ赤ん坊の扱いが問題になり、精霊の国として有名なミョーバイン国に相談が来た。
母も妹もどうしようもなかったが、赤ん坊に罪は無い。
我が一族の血も引いているので、お父様が引き取ることに了承をして、今は我が家に居る。
母にも妹にも似ていない、我が一族特有のダークレッドの髪と目をした赤ん坊は、下がった目尻と言いヘラっと笑う顔と言い、何故か何の関係もない三男にそっくりだった。
兄弟の中で唯一恋人も婚約者も居ない三男が、赤ん坊を抱いてあやす姿は親子そのもの。
その事に家族親戚一同笑いが止まらなくなった。
赤ん坊と契約した巨大な精霊も、周囲や本人が穏やかに過ごしているならば大人しくしてくれているし、自分の契約した精霊を通じてならば会話も出来るので、厳しい鍛練になっても協力をしてくれる約束が出来た。
我が一族には強力な力を持った精霊と赤ん坊が仲間入りを果たした。
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