主人公視点
人生初のシリアスさんに挑戦中!
よろしくお願いします!
我がファンテール子爵家は、王国でも稀な精霊術師を多く輩出する家柄で、身分はそれ程高くは無いものの、国内外でもそれなりに名門として有名な家柄ではある。
同様にファンスール子爵家も同じ様に精霊術が得意な家柄で、ファンスールは攻撃術が、ファンテールは防御術が得意、とそれぞれに役割が分かれており、争うこともなくかといって特別に親しい間柄でもなく長く細く付き合いは続いていた。
家名が似たような名前なのは、当時の国王様から頂いた家名なのでなんとも言えない。
別に親戚とかでもない。
両家はその特殊な術により王家を守る役目を仰せつかり、一家の中で一番の術者を家長に、二番目の術者を王家の側近として輩出してきた。
わたくしはそのファンテール子爵家に六人居る兄弟の歳の離れた長女として生まれた。
下にもう一人妹がいる。
妹は生まれつき体が弱く、末っ子なこともあり蝶よ花よと甘やかされて育った。
一つしか違わないにも関わらず、ずっと放っておかれたわたくしの面倒を見てくれたのは乳母と兄達だった。
妹とは違いわたくしはとても健康だったので、兄達に着いて剣を振り回し馬を乗り回しと少々お転婆に育ってしまったけれど、兄達の膝で聞いた年齢よりも高度な教育も理解できたし、母が雇った厳しい家庭教師の淑女教育も難なくこなせた。
母や家庭教師に褒められたことは無いが、兄達には習ったことを披露する度に褒められたので気にもしなかった。
体の弱い妹を思うあまり、わたくしにだけ厳しい態度の母には極力近寄らなかったし。
そんな風にすくすくと育ったわたくしも九歳になると同時に精霊術の教育が始まった。
魔法とは違って精霊術とは、精霊と契約を結び精霊の力を借りて奇跡の力を発揮する術で、これは世間に広く知られる精霊術とはまた違った我が家独自の術も多く、使いこなすのは長い鍛練と精霊との相性の良さにも関わってくる。
魔法とは、持って生まれた属性の魔力を行使して自然現象を真似たものを起こす力。
一人一つの属性を持つ事が多く、極々稀に二つの属性を持つ者が現れる事もある。
精霊術は、特殊な魔法陣に魔力を注ぎ、現れた精霊と契約を結ぶ事でその精霊の持つ魔法を使うと言うもの。精霊への代価として魔力を渡すので、精霊術師は魔法を使えない事も多い。
精霊術師の家系の我がファンテール家では、十歳になった夜明けに塔最上階の魔法陣で精霊召喚の儀式を行うのが習わし。
わたくしも去年から始まった精霊術の教育で何度も言われてきたので、緊張しながらも楽しみにしていた儀式。
六角形の魔法陣のそれぞれの角には水盆と鉱石、風の魔石と雷の魔石、何も入っていない皿と篝火が置かれている。
閉めきられた部屋は暗く、一筋の朝日が入るように細長い窓がある。
属性の数は八。
水と土と風と雷、火と無、それと発現するのは稀な闇と光。
どれが優れている訳でも劣っている訳でもなく全てが必要とされている。
「シエナ、分かっているね?どんな属性のどんな精霊が何匹来ようと慌ててはいけない!シエナが好きだな、と思える相手と契約を結びなさい。勿論全員が良いならそれでも良いからね?」
「はい!お父様。頑張ります!」
「頑張り過ぎてもいけないよ?あまり元気が良すぎると、静かなのを好む精霊が帰ってしまうかも知れないからね?ゆっくりと呼吸をして、シエナを好きになってくれる精霊に来て貰えるように祈るんだ。分かったね?」
「はい、お父様!」
儀式を受ける間は、当主であるお父様とわたくしの二人きり。
一族ではないお母様はこの塔にも入ることが許されていない。
契約した精霊は、様々な形をしており、お父様の火の精霊は小さなドラゴンの形をしていて、風の精霊は葉っぱの洋服を着た女の子の形をしていたりと様々。
自分にはどんな精霊が現れてくれるのかと胸をときめかせながらゆっくりと深呼吸を繰り返す。
亀裂のような細長い窓から、朝の一番の光が入って来たら儀式の始まり。
祈りの言葉を唱えると、魔法陣が光輝き周りに置いてある物がカタカタと揺れる。
水が溢れ鉱物が結晶化し、風が轟き雷が走る、闇が濃くなり光が強さを増す。
やがて全てがピタッと動きを止め、一層魔法陣が輝き出すと、ゆっくりと目を開ける。
目の前には七つの色取り取りの光る玉。
わたくしは一つ一つ光る玉を手に抱いて、確かめるように魔力を流す。
全ての玉から応えるように魔力が返ってきて、また一つ一つ手に取ってキスをしながら名前を呼ぶ。
「貴女はナーナ、貴女はララ、貴方はヒューイ、貴方はスベン、貴方はギザ、貴方はダーク、貴女はルミナ。よろしくわたくしの精霊達。わたくしはシエナ・ファンテール」
わたくしが名乗り終わると、フッと魔法陣の光が消え、七人の小人のような姿に精霊達が変わる。
わたくしの掌と同じくらいの大きさの彼らは、それぞれにわたくしの体の至るところに触れて楽しそうに笑った後に姿を消す。
「無事契約を結べたようだね?」
お父様の声に顔を上げると、大きな手に抱き上げられる。
「シエナは多くの精霊と契約を結んだようだけど、大丈夫かい?全員を満遍なく使いこなすのは大変な事だよ?」
「はい!大丈夫です!頑張ります!」
「決して恨みや怒りの心で精霊の力を求めてはいけないよ!」
「はい!可愛いあの子達を絶対に魔に落としたりはしません!」
「ああ、それで良い。シエナおめでとう!これでシエナも精霊術師の仲間入りだ!」
「はい!ありがとうございます!頑張ります!」
無事儀式も終わり、お父様と手を繋ぎながら階段を下りて屋敷に向かう。
朝食の席では兄達全員にお祝いの言葉を貰った。
お母様と妹のシェーラザードは、何時も遅く起きるシェーラザードの為に朝食は別にとっている。
折角儀式も無事成功したので、お母様にも祝ってほしかったけど、一族ではないお母様は精霊も見えないので、いまいち信じてはいないようで、精霊の話をすると不機嫌になるので、仕方ないことだと諦めた。
精霊の儀式が終了すると、精霊術師の仲間入りを果たしたとして訓練も始まるけれど、それと同時に婚約者の選定も始まる。
特殊な家柄なので、家系に取り込みたい貴族家は多く、その日の内に多くの婚約申し込みが届いた。
何故かその中に王家からの手紙もあって、王子殿下達とは年齢的に随分と離れていることから予想もしていなかった事で、お父様がとても慌てていた。
手紙の内容は、長年王家の盾となり矛となってきた二つの精霊術師の家系に、丁度年頃の合う男女が居るのだから、婚約をしてみてはどうか、との打診と言う名の命令書。
会ってみて全く性格が合わないようなら断っても良いと書かれてはいるけれど、実質命令のようなもの。
攻撃のファンスールと防御のファンテールを掛け合わせて一人で出来れば、その方が効率的と考える偉い人たちの意向。
逆らえるものでもないので、一応顔合わせとしてお見合いの場がもうけられることに。
お父様はどうにも面白くなさそうだけど。
初めて会ったファンスールの三男は、わたくしの二つ歳上で、良く言えばお上品。悪く言えばヒョロガリの、頼り無さそうな美男子だった。
子供の頃からお兄様達相手にお転婆に育ったわたくしからすると、攻撃が得意の筈のファンスール家の男子として、あまり鍛えている様子が見られない彼を、なんとも言えない気持ちで見ていた。
まあ相手も突然の王家からの命令で、あまり面白そうではなかったけれど。
特殊な家柄なので、訓練の方法や精霊の情報などは一人前になるまでは秘密とされているにも関わらず、ファンスール家の三男レンリオット様は、二人きりにされた途端、物凄く自慢気にご自分の精霊を呼び出し、わたくしに見せ付けるように顕現させて見せた。
訓練を積むと精霊を他人の目にも映る様に顕現させることは可能だけど、一人前になる前にそれをするのはあまり褒められたことではない。
レンリオット様の精霊は、本人はドラゴンと言い張ってはいるがどう見ても手足の生えた蛇?長さが足りないし頭も大きいのでナマズ?おたまじゃくし?と言ったもの。
二番目の兄の精霊の様に、子犬として契約して兄の成長と共に精霊が成長することもあるけど、この精霊は成長してもドラゴンにはならないと思う。
本人にそう言ったら打たれた。
腹が立ったのでその場にレンリオットを置いて親の元へ戻った。
片側の頬を腫らして戻ってきた娘を見て、お父様が激怒して、この婚約は無かったことに!と宣言してファンスール家を出てきた。
王家にも性格が全く合わないのでこの婚約は無かったことに!と手紙を送ったのだが、まだ子供なのだから、これからの交流でお互いを思う気持ちが変わる可能性もあるだろう、とのことで保留にされてしまった。
後日ファンスール家からは謝罪の手紙とお詫びの品が送られてきた。
お母様付きのメイドの話では、お母様は元侯爵の令嬢で、随分と格下であるこの家に嫁に来るのは不満だったそうで、子供を六人も生んでも未だ実家に帰りたいと愚痴を溢しているそうだ。
末っ子の妹だけは、お母様と同じ髪色目の色をしていて、顔もお母様の子供の頃にそっくりなので、殊更に可愛がっているのだとか。
特殊な家柄なので、外部から嫁に来たお母様には秘密にしている事も多く、疎外感を感じているのかも知れないけれど、同じ娘として差別するのはどうかと思う。
妹の体の弱さを言い訳に、精霊術も淑女としての教育も全くされていない現状。
お母様は妹をどうしたいんだろうか?
お父様が意見を言っても聞く耳を持たず、終いには妹を連れて実家に帰ってしまった。
精霊術は契約さえすれば使えるものではなく、厳しい鍛練が必要なのだが、侯爵家では直系であるお父様の娘を手に入れられたことを殊更に喜んでいるようで、お父様が侯爵家に迎えに行ったのに、離縁状を叩き付けられたのだとか。
それだけでなく、我が家ではお母様と妹は虐げられ、ろくに屋敷の外にも出して貰えなかったと訴えを起こし、裁判沙汰にまでなった。
まあそんな事実は欠片も無い上に、妹とわたくしの私物の量があまりに違うので、訳を聞かれ素直に、妹がわたくしの私物を欲しがる度に母が勝手に持ち出して妹に与えていた事を言うと、逆に母のわたくしへの育児放棄が発覚し、結局裁判は我が家が勝った。
今後はお母様と妹は我が家の持つ一切の権利を失っての離婚となった。
わたくしや兄達への親権も含めて。
そして母と妹の私物を少し売り払って、わたくしへの慰謝料として支払われた。
ファンスール家との交流は三ヶ月に一度、お互いの領地を訪ねてお茶をする程度。
誕生日に無難なプレゼントを贈り合う程度の交流しかなく、親しくなりようもなる気もなく、王家の手前無難に数年を過ごした。
王家も、最初はどんな交流をしているのか、仲は進展したのか等の問い合わせが頻繁に来ていたのだけど、その度にお父様がお互いの相性が悪く進展の見込み無しとの返事を書いていたので、最近では問い合わせが来なくなった。
お父様と顔を見合せ安心していたのに、王家は諦めていなかったようで、ある日招待状が届いた。
王家主催の狩猟大会の招待状。
お父様やお兄様達だけでなく、わたくし個人の名前まで書いてある招待状が。
しかも勝手にレンリオットの婚約者として、とか書いてある。
正式な婚約などした覚えは無いのに!
これには一家全員が激怒して、招待状を破り捨てる勢いだったけど、三男に止められて思い止まった。
「王家の前で仲の悪いところを見せ付ければ、諦めんじゃね?」
それが上手く行くかは分からなかったけれど、まあ試してみても良いかな?となって狩猟大会に参加することに。
その前にキッチリと未だ婚約はしていないことは断りを入れて!
狩猟大会の会場となる王家の別邸には、最悪の形で決別したお母様と妹が居た。
「お父様、王家の方々は我が家に何か恨みでもお持ちなのですか?」
思わず聞いてしまったら、
「命令に従ってさっさと婚約しなかったからじゃね?」
三男の呟きに、
「相性最悪の方と結婚しても子供は出来ないと思いますけど?」
通説では魔力の相性が悪いと子供が出来にくいと言われている。
魔力の相性が良い人とは自然と仲良くなれるので、魔力の相性が悪いとは性格が合わないと同義。
その辺の下じもの事情など偉い人には考慮に入れる価値も無いのかも知れないけど。
基本家族毎に二部屋宛がわれ、女性と男性で分かれて泊まる様になっているのだけど、わたくしが案内されたのは何故か家族とは離れた部屋。
部屋付きのメイドがわたくしの荷物を整理しようと鞄を開けたと同時に、ノックも無く部屋の扉が開いた。
そこに立っていたのはファンスール家のレンリオット。
「…………ノックも無く無断侵入とは失礼じゃありませんこと?」
「は?私は案内に従って部屋を開けただけだが?」
レンリオットは慌てて案内してきた侍従を見る。
侍従は慌てる事無く、
「部屋割り通りにご案内致しました」
と言うので、ならばメイドが間違ったのか?と見れば、書類らしきものを確認して、
「わたくしも間違ってはおりません」
書類を見せてもらうと、レンリオットとわたくしの名前が同じ部屋に書いてある。
「………………これは何かの手違いかしら?婚約もしていない未婚の男女が同じ部屋など有り得ないわ!わたくしは家族の部屋へ参ります!」
メイドが開いた鞄を閉めて、止められる前にさっさと部屋を出た。
家族の部屋に行くと、事情を話す。
「う~わ、王家も手段を選ばなくなってきたな~?」
「けしからん!何を考えておられるんだ!」
「抗議してくる!」
三男が呆れた様に言い、長男が怒り、怒りのあまりメイドが持っていた書類をそのまま持ってきてしまったのだが、その書類を持ってお父様が部屋を出ていった。
暫くするとお父様が帰ってきたのだが、怒りが継続中のようで、顔が真っ赤になっている。
取り敢えず部屋は狭いけれど直ぐ近くの空き部屋を急遽わたくしの部屋として宛がわれたが、部屋にいる時は必ず精霊術を使ってでも部屋に他人の侵入を許さない結界を張るように!と言い聞かされた。
気分が悪いから帰ろうかと思ったのに、陛下自ら手違いだったと謝罪されてしまったので、帰るに帰れなくなった。
翌日早朝から始まった狩猟大会は、男性陣は狩猟、女性陣はそれを眺めて優雅なお茶会と言ったもので、狩猟に参加する女性は極僅か。
まあ、わたくしは狩猟に参加しますけど!
女性陣のお茶会なんて、どんな嫌味や策略で外堀を埋められるか分かったものじゃない!なので家族と共に狩猟に参加しました!
子供の頃から散々兄に付いて回ったお陰で、乗馬も剣も弓も一通り使えます!
わたくしは家族の中でも魔力が多いので、精霊術を使わなくても軽い魔法くらいは使えます。
なので力の無い弓の軌道を風魔法で修正するくらいはお手の物。
お父様や兄達に負けないくらいバンバン獲物を狩るわたくしに、荷物運びのために随行していた下人が唖然としている。
そうしてお茶会には参加せずに一日目が終了し、二日目。
早朝からメイドが部屋を訪ねてきて、お茶会の招待状を渡される。
嫌な予感しかしないけど開けない訳にもいかず開いてみれば、相手は王妃様。
正直、ああ、終わった!と思った。
ご丁寧に手紙を持ってきたメイドが身支度の手伝いまで申し出てくれる用意周到さ。
これは逃げられない。
万が一の為に持ってきていたガーデンパーティー用のドレスを着て、一応お父様に簡単に事情を話してからお茶会会場へ。
王妃様のお茶会は、基本高位貴族しか招待されないのに、子爵家のわたくしが参加するのは異例の事。
集まった皆様に値踏みするように見られながら末席に座ると、早速の様に婚約の話になった。
王妃様的には、既に婚約が正式に成立していて結婚も間近、と周りに思わせたかったのだろうが、勢い良く喋り出そうとしたところで、思わぬ邪魔が入った。
わたくしの精霊の儀式が終わった直ぐ後に、妹を連れて出ていったお母様が、まさか侯爵家の人間として妹を連れてお茶会に参加していたとは思ってもみなかったので、気付くのが遅れたのだけど、そのお母様と妹が、
「まあ!シエナの婚約ですって?!そんな話は聞いてないわ!」
「えええ?!お姉様がわたくしより先に婚約するなんて有り得な~い!」
「お相手は?……………ええ!あのファンスール家のレンリオット様?」
「え?え?ファンスール家のレンリオット様って、凄く美青年じゃない?!お姉様には勿体ないわ!わたくしが婚約したいくらいなのに!お姉様ばかりずるいわ!」
わたくしの席からお母様達の席は離れているので、喚く様に喋る二人の声は聞こえるけど姿は、派手だな?と思える程度。
王妃様の顔が引き攣っているけど良いんだろうか?
本当なら男性陣の狩りが終わる夕方まで続く筈のお茶会は、昼頃には解散になった。
それまでの時間は、お母様と妹の、自分達はどれだけファンテール家で虐げられていたかを訴える会になっていた。
王妃様の顔が大変な事になってたけど、お母様と妹は空気を読む能力が皆無なのか、絶好調で喋り倒していた。
ただし正式な騎士団による捜査の結果、裁判で我が家は無罪となっているので、誰も信じる者はいなかったけど。
自分にはあの母と妹と同じ血が流れているのかと思うと残念でならなかった。
お茶会の顛末を話したら、お父様と長男は苦い顔をして、三男は大笑いしてた。
翌朝最終日。
またメイドが招待状を持ってきた。
ドレスに着替えさせられ、お茶会会場へ。
最終日なので狩猟には参加不参加が自由になった男性陣も、お茶会に何人か参加していた。
王妃様の隣には陛下がおられる。
陛下がおられるので緊張気味に始まったお茶会。
わたくしの隣の席は空席。
これはあれかしら?この席にはレンリオットが座る予定だった?
嫌な予感を必死に隠して顔を取り繕っていたのに、陛下直々にレンリオットを迎えに行ってこいと命令されてしまった。
子供の頃から交流があるのだから、と。確かに有るけど!あんたが命令したからだろ!と言えるものなら言ってみたい。
なので渋々レンリオットの部屋に行くと、気配はあるのにノックをしても返事が無いので、まだ寝ているのかと思い部屋を開けたら、レンリオットは既に起きてはいたのだが、彼は一人ではなかった。
二人は肌も露に抱き合っており、濃厚な口付けを交わしながらゴソゴソと動いている。
扉の取っ手を握ったまま固まるわたくしには気づきもせずに二人の動きは激しさを増し、女性の口からはあられもない声が頻繁に聞こえてくる。
わたくしは一度大きく息を吸うと、
「キャァーーーーーーーー」
生まれて初めてとも思える程大きな悲鳴を精一杯叫んだ。
そしてその場でへたり込んで見せた。勿論顔を覆って。
わたくしの悲鳴を聞いた方々が続々と集まってこられ、レンリオットと一緒にいた女性の姿が多くの人々の目に晒される。
わたくしはここぞとばかりに震えか細い悲鳴を繰り返していると、周りの集まってこられた方々に優しく避難させられた。
応接室の一つに通され、お父様を呼ばれ、周りの方々がお父様に理由を説明して下さる間、わたくしは自分の体を抱いてうつむき、ただ震えていた。
事情を聞いたお父様は私の体を強く抱き締めて下さり、大きな手で背を撫でて慰めてくれた。
部屋には陛下と王妃様も来られ、お母様とお母様の兄である侯爵家のご当主様も来られた。
そして暫く後に身なりを整えたレンリオットとそのお相手の女性。
この集められた面子を見れば分かる通り、レンリオットの相手は妹のシェーラザードだった。
婚約者でもない、未婚の妹がレンリオットと肉体関係を持ってしまったのに、お母様と侯爵様は何故かニヤニヤしていて、妹のシェーラザードはレンリオットとピッタリと寄り添い合いわたくしに勝ち誇った顔を向けてくる。
そして最後に現れたのはファンスール家の当主と奥様。
ああ、面倒事の予感しかしない。
オミクロンさんに邪魔されて仕事がメチャメチャになってる時期に、ストレス発散に書いたものです。