その6
夢か現実か…
そんな事はもうどうだって良いのかもしれない
鏡に描くのは…
あなたの優しい手だけなのだから。
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どの位眠っていたのだろうか。
里菜の目が覚めた時には部屋が真っ暗だった。
「う…ん…。今何時かな?」
寝覚めが悪いのかいつもより身体がダルい。
枕がいつも使っている物と違うような気がした。
「電気を…?」
電気をつけようと手を伸ばすが、いつも天井の電飾から伸びている紐に手が引っ掛からない。
「…あれ?」
いつもとはナニカが違う。
枕や電飾の紐についてはもちろんだが、暗い部屋の中でも部屋の質感や空気までもいつもとは違うように思える。
寝ぼけていた頭が冴えてくると徐々に蘇ってくる日中の記憶に、里菜の心臓が嫌な音を立てて鳴った。
「夢じゃ…ない?」
その真偽を確かめに部屋の外へと出るため、暗い部屋に身体をぶつけながらドアを探す。
「あった!」
微かに触れたドアノブを両手でしっかりと握りギィっとドアを引いて開いた。
「!!」
里菜が開いたドアの向こうにはランプを持つ人影がある。
しかもそのランプで照らされていたのは赤い髪の大きな男だ。
「キャアアアアアッ!!!」
ノックをしようとしていたと思われる手の手首にはランプが吊る下がっていて、その微妙な角度から照らされた赤い髪の男の顔はまるで頭から血を流すお化けのように見える。
恐怖のあまり里菜が咄嗟にドアを勢い良く閉めると、ゴンッと良い音がした。
「…………あ゛っ!」
そこでようやく里菜は昼間の全てを思い出したのである。
ドアの向こうでは里菜の部屋のドアの前でランプを床に置いて額を手で押さえながらユージーンがうずくまって座っていた。
「すまない、驚かせた。」
女の子の悲鳴を聞き付けてバタバタバタ…っと集まってくる者達が目にしたのは頭を押さえて苦笑いをして里菜に謝るユージーンの姿だ。
「出会ったその日に夜這いたぁ…やるなぁ、王子?」
「誤解だ。」
ニヤニヤ笑うトクに弁解するが…どうやら無駄のようだ。
冷やかすように笑う仲間?達は口に指をくわえてピィッと音を鳴らしたり、ユージーンを肘で突っついたりしている。
里菜はドアの向こうから聞こえる笑い声を聞いていたらユージーンに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、そっとドアを開いた。
「お願い…夢だと言って。」
往生際が悪いのかもしれないが、夢であって欲しい。
ドアを開いた里菜が見たものは、屈強と言うか怖い顔と言うか…思わず再度ドアを閉めたくなる位迫力のある男達が里菜を一目見ようと詰め寄っていた。
「みんな…聞いてくれ。」
里菜の登場でガヤガヤと賑やかな廊下が、ユージーンの一言で仲間達の動きがピタリと止まり静かになる。
これが王子として上に立つ者のユージーンの統率力なのか、そこにいる全員が口を閉じてユージーンの次の言葉を待つ。
「……。」
優しげだが確かにある威厳。
王位継承者としてのユージーンを垣間見た里菜は、人が大勢いるのも忘れてそのユージーンの横顔に見入ってしまった。
「紹介しよう、里菜だ。よろしく頼む。」
ユージーンの腕がそっと里菜の肩に回り、仲間達に紹介するためにユージーンの横へと促される。
「里菜はおれの大事な客人だ。丁重にもてなしてやってくれ。」
ユージーンの紹介に里菜がペコリと頭を下げると、再び仲間達の和やかな笑い声が響いた。
「おれぁディンだ。」
里菜に声をかけたのは、先程ユージーンに肘をついてからかっていたディンだ。
「よろしくお願いします。」
怖々と頭を下げる里菜に飛ぶ、里菜を迎え入れる声や野次にドキドキしてしまう。
しかし里菜の肩にあるユージーンの手は温かく、里菜は不思議な安心感を感じていた。