その4
里菜が連れて行かれた先は、正しく城。
しかも大きくてゴ~~ジャス。
その城の応接室で里菜の目を奪ったのは大きな地図だった。
「何…これ?」
その地図は里菜が記憶している地図とはまったく異なっている。
「これはクレッシェンド王国と周辺の国が書かれた地図だ。」
見慣れない地図に混乱する里菜にジャックが説明してくれるが…より混乱してしまう。
「里菜はクレッシェンド王国を知らないのか?」
里菜の反応に少し驚いたように目を見開いたジャックに、里菜はコクリと頷いた。
「さて…何から話そうか。」
大きな椅子にドサリと腰をかけたユージーンが、大きな溜め息を吐く。
「これはおれの憶測でしかないんだが…聞いてくれるか?」
ユージーンの目の前のテーブルには樽が置いてあり、その横には落とした時に割れた物だと思われる鏡の破片が置いてある。
「…はい。」
ユージーンの真剣な眼差しに緊張気味に返事をした里菜近くのソファへと座った。
「おれも詳しい事は知らないが…この樽の中にあった鏡はな、手を入れると運命が手に入ると言われているらしい。」
今は割れてしまって元の形すらわからない鏡。
がその破片を手に取ると、その破片からユージーンに腕を引かれていた時に嗅いだ匂いが微かに感じられた。
「1つ聞かせてくれ。」
ユージーンは真剣な眼差しを里菜から外さず、里菜の前に何かをカチャリと置く。
「これが…何だかわかるか?」
ユージーンが置いたのはコインだ。
里菜は破片を置いてコインを手に取って見てみるが…その柄には覚えはない。
「どこかの国の…お金?」
首を捻る里菜にユージーンはまた1つ溜め息を吐いた。
「これはククル。おれ達が使っているこの世界共通の通貨だ。」
ユージーンの説明にイマイチピンとこないのか、里菜はポカンとしている。
「里菜はこの鏡を通じて全く別の世界からおれ達の世界へとおれが引き寄せてしまったらしい。」
ユージーンが運命が手に入る言われる鏡から引き出したのものが里菜。
「しかもこれは夢じゃない。現実だ。」
穏やかだが胸に響く声色で里菜に話すユージーンの瞳には曇りがなく、現実だと言う言葉が里菜に強く響いた。
ユージーンの説明が正しければ…ここは里菜の世界とは全く別の世界と言う事だ。
しかも夢ではない。
本当にこんな事が有り得るのか、そう自分に問うが…里菜の中で答えは出ない。
半信半疑…まさにそんな心境の里菜である。
「私…帰れるの?」
ユージーンの話を信じようが信じまいが、ソコだけは押さえておかなくてはならない。
「それはわからない。」
ユージーンの視線の先には割れてしまった鏡がある。
里菜の世界とこちらの世界を繋げた鏡は今は割れてしまっている。
もしかしたら帰れないかもしれない…ユージーンのわからないと言う言葉が胸にグサッと突き刺さってしまったかのように胸が痛む。
ユージーンがその鏡から視線をジャックへとずらすと、ジャックは頷いてドアの外へと出て行った。
「里菜をこっちの世界に引き入れたのも、鏡を割ってしまったのもおれだ…すまない。」
「……。」
里菜に頭を下げるユージーン。
里菜の目にはその赤い髪が何故だかぼやけて見える。
「もちろん元の世界に送り返すための努力はする。おれの命にかけて誓おう。」
里菜が帰れるよう手助けをしてくれるとユージーンはその命にかけて誓ってくれた。
「だから…泣かないでくれ。」
ユージーンは立ち上がると里菜の座るソファの前に回ると、里菜の頬に大きな手を添えると濡れるユージーンの指。
里菜はユージーンのその指が、いつの間にか溢れていた里菜の涙光っている事にようやく気がついた。
「……。」
何か言いたくても何を言ったら良いのかがわからない。
ユージーンはそんな里菜の後頭部へと手を滑らすと里菜の顔を自身の肩の辺りへと押し付けるように寄せていた。
どの位時間が経ったのだろうか。
トクン…トクン…とユージーンの優しい鼓動が里菜の耳に心地好く響いている。
「少し…落ち着いたようだな。」
優しい鼓動に重なるユージーンの声も柔らかで優しい。
「おじさん…ありがとう。」
黙って泣かせてくれたユージーンに里菜がそう言いながら離れると、ユージーンはおじさんと言う響きに苦笑いをする。
「ユージーン…そう呼んでくれ。」
おじさんと呼ばれるのがよほど嫌なのか、懇願するようなユージーンの眼差しには拒否出来ない強い力のようなものがあるように思えてならない。
「ユー……ジーン?」
大人の男性を名前で呼ぶ事に照れがあるのか頬を染める里菜に、ユージーンは満足そうに笑みを浮かべた。