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鏡の中の夢  作者: つー
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プロローグ

ここと呼ばれるクレッシェンドと呼ばれる王国。


クレッシェンド王国では今、次期国王を決める為の王位継承者の座を賭け、継承権を持つ者達の争いが激化しているであった。


「今日も酒がうまい!」


酒を片手に上機嫌な男の名はユージーン=クレッシェンド。


綺麗な赤い髪の彼はクレッシェンド王国の第3王子であり、継承権第2位と言う立場の持ち主だが、本人は王位にはあまり興味はない。

この日、お忍びでやってきた街で手に入れた上物の酒を手を1人でこっそり飲んでいた。



「王子様よぉ、妙なモンみつけたってジャックが探してたぜ。」


大きな腹をボリボリ掻きむしりながらやってきたのはトク。

ユージーンの護衛騎士であり、友人だ。


トクの言うジャックとはトクと同じくトクの実兄で頭が良く、戦闘能力にも長けている護衛騎士団の頼れる団長である。


「わかった。すぐ行く。」


良い天気の下、美味しい酒を飲むこの一時が惜しい気もするがジャックからの御指名があったのなら行かなくてはならない。


コップに残った酒をぐいっと飲み干すとユージーンはトクに案内されるまま、ジャックの元へと向かった。



「…来たか。」



ユージーンの登場を横目でチラッと確認したジャック。


「ジャック…それは何なんだ?」


ユージーンの視線の先には大人の頭よりか少し大きい酒樽がある。


「骨董品屋で譲ってもらった物なんだがどうやっても開かなくてな。ワインのような匂いがするんだが。」


「ワイン?」


ジャックのワインと言う発言に反応した根っからの酒好きのユージーンはジャックの手にある酒樽を奪った。


「ふんぬぬぬ…。」


ユージーンはワインの何とも言えぬ良い香りに喉をゴクリと鳴らしながら座り込んで足で樽を挟み、力まかせにこじ開けようとしている。



「駄目だ。」



…しかし、開かない。


「一応開け方らしい記述のある紙をもらって来た。」


ジャックの手には広げられた紙がある。


「……それを早く言ってくれ。」


脱力気味のユージーンにジャックはフッと笑った。


「まず樽を持って立つ。」


開け方の書かれた紙を持つジャックの言葉通りに立つユージーン。


「こうか?」


手の上に樽を置き、次の指示を待つ。


「それをまっすぐ上へと放り投げろ。」


ジャックに言われるままユージーンはポーンと酒樽を真上に高く放り投げた。



「あっ!足元に金が落ちてる。」



足元に金が落ちているとのジャックの言葉にユージーンはついつい足元を覗き込んでしまう。



「なんて嘘だ。」



次の瞬間ユージーンの後頭部に酒樽がガン!と落ちた。


「ぐっ!」


後頭部の痛みに目から涙が出てきそうになる。


「ジャック…何のマネだ?」


涙目でジャックに抗議の眼差しを送るユージーンを、ジャックはフッと鼻で笑った。



「ここにそう書いてある。」



ジャックがユージーンに見えるように紙を見せると、『なんて嘘だ』まできちんと書かれているのが確認出来る。


思わず絶句のユージーンだ。


「蓋を開けるには上の蓋の部分を右に回せば良い。」


絶句するユージーンにジャックは構わず次を読み出す。


「回すんだな?」


再び座り込んだユージーンは樽を足で挟み樽の蓋になる部分を回すと、蓋が落ちるように簡単に取れた。


「良い匂いだ。」


ユージーンの鼻腔をくすぐる芳醇なワインの香りに、思わずよだれが垂れてしまう。


「開いたのなら樽の中にある物を飲み干す。」


紙にそう書いてあるのか、ジャックは口調は実に淡々としていた。


「任せろ。」


ユージーンは待ってましたと言わんばかりに樽の中味を飲み干そうと豪快に口の中に流し込む。



「…と、まずい。」



そうジャックが言ったと同時にユージーンの口から飲んだ物がブーッと吹き出した。



どうやらそうとうまずかったらしい。



「ジャッ君?」


にこやかな笑顔と柔らかな口調のユージーンだが、怒りのオーラが漂っている。


「ここにそう書いてあるんだ。」


ジャックの持つ紙に確かに書いてはあるが、恐らくは面白がっているであろうこの騎士団長に、ユージーンは一瞬殺意が芽生えてしまった。


「王子ぃ、樽の中に何か入ってるぜ?」


ユージーンとジャックのやり取りを、懐に隠し持っていた握り飯を食べながら眺めていたトク。



「鏡?」



トクに指摘され樽の中を覗き込んでみると、樽の底には鏡が貼り付けてあるのが見えた。


「その鏡に手を入れると運命が手に入る…らしい。」


ジャックの持つ紙の最後に、そう書かれている。



「運命…か。」



運命と言う言葉に興味をそそられたのか、ユージーンは面白そうに笑って腕を酒樽の中へと差し入れていた。


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