第4-5話 登録試験!~ノアールVSフェニックス~
「ギルマス、こちらへ」
俺はギルマスを担ぐと、素早く観客席へ移動する。
続いてルカ、ミラ、アスタロトの三人も移動してきた。
「安全確保は任せとけ。【インベントリ】オープン」
ノアールの掌上に異空間が出現。
中から謎の魔道具を取り出した。
【インベントリ】はアイテムを専用の異空間に収納しておけるスキルだ。
「結界君MK-Ⅱ起動!」
その声と共に結界が展開し、試験場を包み込んだ。
結界内にいるのはノアールとフェニックスのみ。
これで安全に戦えるようになった。
ノアールは続けてスキルを使用する。
「【機械王】発動!」
エクストラスキル【機械王】は、魔力や素材アイテムを用いて魔道具や武器などを創造することができるスキルだ。
金属類などの素材アイテムを用いた場合は、魔力だけで作る時より消費魔力を節約することができるぞ。
「作成──二丁拳銃!」
ノアールは引き金のついた黒いアイテムを作った。
武器みたいだが、あれはいったい……?
「ピィィィ!」
上空で攻撃準備をしていたフェニックスが、ノアールめがけて炎の魔弾を振りまく。
ノアールは二丁拳銃を構えると素早く引き金を引く。
パンッっという炸裂音が連続で鳴り響き、遅れて魔弾の一部が爆ぜた。
威力を失った魔弾がノアールの周囲に落ち、爆発する。
「あの武器はなんなんだ? フェニックスの攻撃を相殺するなんて……」
ギルマスが驚いた様子で呟く。
「これは“銃”っつー武器だ。拳銃以外にもたくさん種類があるぜ。例えばこれとかな」
爆発によって舞った砂埃の中から出てきたノアールは、全長一メートル超えのゴツい銃を持っていた。
「スナイパーライフル。遠くの敵を撃ち抜くための、射程と威力に優れた銃だ」
引き金を引く。
刹那、フェニックスの翼に風穴があいた。
「ギィィィ……!?」
「上空にいれば安全なんて思わねぇこった」
フェニックスは即座に回復魔法を使いながら上空を旋回する。
再びノアールめがけて炎の魔弾を放ちまくる。
「デンジャー! デンジャー! 危険がデンジャー!」
ノアールは魔弾の合間を駆け抜ける。
意味不明な悲鳴を上げているが全然余裕そうだ。
ちょっと変人なのかな?
「……ヨシ! リロード完了!」
「ピィィィ!」
フェニックスは大きく息を吸う。
それから炎のブレスを吐いた。
「SRの基本は偏差撃ちだ」
ノアールは炎ブレスで視界が塞がれているにもかかわらず、高速で旋回するフェニックスの腹部を撃ち抜いた。
「ビギ……ッ!」
二丁拳銃に切り替えたノアールは、フェニックスが怯んでいるうちに追撃に出る。
連続射撃でフェニックスの頭部を狙ったが、すんでのところで【フレアウォール】に阻まれてしまった。
「ぐぬぅ」
「ピーヒョロロロロ!」
フェニックスが高らかに鳴く。
するとフェニックスの分身が二体現れた。
「分身で手数を増やそうってか? それは悪手だぜ」
再び狙撃銃に切り替えたノアールが撃つ。
分身体の片方が弾けて消えた。
「ピギュォォオオ!」
その隙に、フェニックス二体がスキルを展開する。
最初の攻撃とは比べ物にならない大きさの魔弾を生み出した。
あのスキルはおそらく【フレアボム】だ。
フェニックスは威力特化のスキルを放つ。
「ちょうどいいところに! サンキュー!」
ノアールは二つの魔弾の間を通り抜けるように跳躍する。
【フレアボム】の爆風を利用して自身の体を押し出し、分身体の背中に飛び乗った。
ついでにジャンプ中に狙撃銃のリロードを済ませておく。
「二キル目ゲット!」
ノアールは狙撃銃で分身体を殴り倒す。
分身体が消える前に跳躍したノアールは、本体めがけて二丁拳銃を撃つ。
フェニックスは先ほどと同じように【フレアウォール】を展開する。
二丁拳銃程度の威力であれば、これで充分。
さっき防げたんだから今回も大丈夫。
そう思い込んでいる様子だった。
「残念! 防げないんだよな~これが」
「ビギュア!?」
弾丸が炎の壁を突破し、フェニックスにダメージを与えた。
「三キル目」
狙撃銃の引き金を引く。
「ビギャァァァァアアア!」
驚愕して硬直してしまったフェニックスの頭部が爆ぜた。
ノアールの攻撃力が急に上昇した理由。
それは【キルストリーク】というスキルによるものだ。
このスキルの効果はシンプルで、『一定時間内に連続でキルすると攻撃力が上昇していく』というもの。
具体的には、一キルすると攻撃力が1.1倍、二キル目で1.2倍、三キル目で1.3倍というふうに上昇していき、十体倒したところで最大倍率の二倍になるが、十秒間キルが発生しなければスキル効果が解除される。
「分身を倒してもキル判定になるのもはやバグだろ。味方の分身倒せば簡単に攻撃力二倍なるやんけ。グリッチ見つけちまったな」
「ピイイィィィィィイイイイイイイィイ!!!」
その時、上空から再び鳴き声が響く。
先ほど倒されたはずのフェニックスが完全復活していた。
さらには全身から虹色の煌めきを放っている。
これこそがフェニックスがSランク最強と謳われる所以だ。
ただでさえ強いのに一度限り死を無効化して完全復活できる【不死鳥】と、復活した際に発動する【命の炎】による魔法力の超大幅強化。
この二つのスキルによって、フェニックスは大幅な強化復活を遂げた。
「二マッチ目といこうじゃねぇか」
ノアールは言い終わらないうちに狙撃銃の引き金を引く。
それをフェニックスは【フレアウォール】で防いだ。
「予想以上にパワーアップしてんな。SRも止めれんのか」
ノアールは驚きながらも【機械王】を発動する。
その合間に抜け目なくリロードも済ませておく。
「今のうちに補充補充っと」
「ピギィィィィィ!」
フェニックスは炎のブレスを吐く。
その威力は、最初に同じ攻撃をした時とは比べ物にならないほど引き上げられていた。
瞬く間に試験場が業火の海になる。
「危ねー、ドローン作っておいてよかった~。もうちょいで焼きロボットになるところだったぜ」
焼きロボットってなんだよ。
俺は心の中でツッコミを入れながら上を見る。
ノアールは空中に展開した足場ドローンにぶら下がっていた。
片手で狙撃銃を撃つ。
不安定な状態で撃ったにもかかわらず、弾丸はフェニックスの頭部めがけて突き進む。
だが、フェニックスは翼を犠牲にすることで防いだ。
【フレアウォール】の展開が間に合わないと判断した時点であらかじめ用意しておいたのだろう。
翼で防ぐなりすぐに回復魔法を使いながら旋回し始めた。
「ギュァァァァァアアア!」
フェニックスは【命の炎】によって強化された【フレアボム】を連射しまくった。
無数の巨大炎弾がノアールに襲いかかる。
「ほっ! よっ! とあっ!」
ノアールは足場ドローンからドローンへと跳び移りながら巨大炎弾を回避する。
狙撃銃のリロードを済ませた時、巨大炎弾の一つがノアールに迫った。
回避先を予測して放ったらしい。
滞空手段がないノアールはドローンからドローンへ跳び移ることしかできないので、移動先を読むのは簡単だ。
「今度はコイツの出番だ。カービンライフル!」
ノアールは新たな銃を取り出し全弾撃ち込む。
巨大炎弾が弾けて消えた。
「作成──スタングレネード」
ノアールの手元に筒状のアイテムが現れる。
「爆破武器が効かねぇお前でもこれなら通じるだろ? 目と耳、故障注意だ」
ノアールはスタングレネードを投げる。
目が眩むほどの光と、耳をつんざくような爆音が発生した。
結界で遮られた観客席にいてこれだ。
間近で食らったフェニックスは視覚も聴覚も使い物にならなくなっていることだろう。
「ビギュァァァァアアアアアアアアア!」
フェニックスは大きく息を吸い込むと、出鱈目に炎ブレスを放った。
視覚と聴覚が回復するまで、広範囲攻撃でダメージを与えながら時間を稼ぎたいのだろう。
「C4起爆!」
ノアールの足場になっていたドローンが爆発する。
その爆風を利用して高く飛んだ。
「有利ポジ取るのは撃ち合いの基本だよなぁ!?」
視覚も聴覚も使えないフェニックスは上を取られたことに気づけない。
今もなお最後にノアールがいた場所に向かってブレスを吐き続けている。
「ドン勝はうちがもらったぜぇぇぇぇ!!!」
ノアールはグレネードを起爆させる。
爆風を利用して急降下し、フェニックスの背中に着地。
至近距離から頭をぶち抜いた。
「ピギャアアアアアァァァアアアアアァァアアアアアアアア」
試験場の業火の海が消え去る。
「変形合体するまでもなかったな」
着地したノアールは、狙撃銃を肩で担いで不敵に笑った。
「……んあああああ!? フェニックスの死体ないなったぁぁぁぁ!?
焼き鳥にしたらうまそうだったのにぃぃぃぃぃ!!!」
せっかくカッコよかったのに今ので台無しだよ。
それから数分後。
ノアールの冒険者登録が完了した。
「なあなあ、ランクいくつ? こんなん高ランク間違いなしだろ!」
「ノアール、お前をAランク冒険者に認定する」
「うほほーい! いきなりAランクになったけど、うちなんかやっちゃいました? いやー、やっちゃったかーこれはな~!」
ノアールは目を輝かせながら受け取った冒険者カードをぶんぶん振り回す。
意味のわからないことを言っている彼女をスルーして、ギルマスは昇格式の話をしてきた。
「お前たちがSランク冒険者になるのは明日だったな。数年ぶりの大イベントになる。パレードでは一言コメントみたいなのもしてもらうから頼んだぞ」
「え? うちらSランク冒険者になんの? 初耳なんだが。登録した次の日にはSランクとか絶対過去最速だろ!」
「すまないが、ノアール。Sランクに昇格するのはお前以外だ」
「マ?」
ノアールは硬直する。
ギルマスは静かに頷いた。
「Sランク最上位のフェニックスを余裕でソロ討伐したお前の実力はハッキリ言って化け物級だが、さすがにいきなりSランクは無理だ。相応の実績がないと。まあ、お前の実力ならすぐいけるだろ」
「……嘘だろ。アスタロトに負けた……」
ノアールはがくりと膝をつきながら悔しそうに呟いた。
いろいろ事件があって遅れてしまったが、明日はようやく昇格式だ。
晴れて俺たちはSランク冒険者になる。





