第3-43話 エピローグ~魔王誕生~
ダークの暴走で始まった王都襲撃事件を解決することはできたが、結果として被害は甚大なものになった。
王都西側、商業区の約四分の一が崩壊し機能不全となった。
肝心の人的被害に関しては、ダークが暴れた影響によって死者・ケガ人が大量に出てしまった。
遺体処理や治療活動は三日ほど続くこととなった。
本来は王都襲撃事件の翌日に俺たちのSランク昇格式が控えていたのだが、事件対応でそれどころではなくなってしまったため延期になった。
「ただいま~……」
治療活動に参加していた俺が帰宅すると、ルカとアスタロトが出迎えてくれた。
だが、そこにミラの姿はなかった。
「ミラの様子は?」
「今はぐっすり寝てるよー」
「順調に回復していますよ」
「そうか、よかった」
ダークの呪いの影響で、ミラには未だ回復魔法が使えない。
呪いを解除できればいいのだがあいにく俺は専門外なので、聖女の下に行って神聖魔法で解呪してもらうつもりだ。
ちょうど治療活動がひと段落ついたので、聖女が所属している教会も手が空くだろうしな。
「そーいえば、クロムお兄ちゃんが治療しに行ってる時に国王様から連絡きたよ!」
「内容はダークの処遇についてですね」
二人から聞いた話を要約するとこうだ。
ダークを尋問したところ真神郷徒との関係が発覚した。
ダークに力を与えたのは、合同依頼で俺たちが遭遇したリヒトと見て間違いないようだ。
リヒトの卓越した戦闘技術や暗躍具合からして、真神郷徒の中でもそれなりに高い地位についているのかもしれない。
現在ダークは、ハイリッヒ侯爵家から廃嫡したうえで投獄されているそうだ。
今後裁判にかけられることになるが、判決は間違いなく死刑になるとのことだった。
……思うところがないわけではない。
仮にも弟だったのだから。
が、あれだけの大事件を起こした以上、死刑は避けられないだろう。
「クロムお兄ちゃん、大丈夫……? 顔色あんまりよくないよ」
「いろいろと疲れているだけだ」
「……そうですか。料理のリクエストがあればお応え致しますよ」
「今日はいつもより優しいんだな」
「別に心配なんてしてません」
アスタロトは相変わらず基本クールでツンツンしているが、上位悪魔の一件以来たま~~~に優しさを見せてくれるようになった。
いわゆるデレ期ってやつだ。
もっとからかいたいところだが、からかいすぎるとピーマン料理を出されかねないので今日はこのくらいにしとこう。
「今日はあれだな。温かいシチューが食べたい。ブロッコリー多めで」
「ルカはお肉多めで!」
「承知致しました」
……やっぱり、俺にはここが一番だ。
◇◇◇◇
王都のとある宿の一室にて。
冒険者ギルドが発行している冒険者情報が記された紙を、彼女はぼんやりと眺めていた。
「……指名依頼、ね」
彼女は四枚の紙を机に置くと、浮かない表情で部屋を出た。
無造作に置かれた紙には、「待望の新Sランク冒険者!」というタイトルが記載されていた。
◇◇◇◇
王国のとある森深くにて。
ダークをそそのかし力を与えた張本人……リヒトは暗い顔で崖に腰かけて、流れ落ちる滝を見つめていた。
激しく降り注ぐ雨がリヒトの体を打ちつける。
「……魔王は完成した。計画はうまくいっている。驚くほど順調に進んでいる。百年以上かけて……ようやく悲願に向けて動き出した………………はずだろうが」
リヒトは苛立った様子で呟いた。
「…………今さら立ち止まろうとするんじゃねぇよ」
轟音を響かせ雷が落ちた。
周囲が一瞬光に包まれる。
光が収まった時には、リヒトの姿は消えていた。
◇◇◇◇
すべてが静寂に支配された真夜中。
とある街の時計台の天辺に、一人の男が立っていた。
びゅうびゅうと風が吹く。
彼の黒衣が靡く。
「あはっ、一匹も逃がさない」
街を見下ろしながら、嬉しそうに舌なめずりする。
「さあ、楽しい楽しい虐殺タイムの始まりだよ」
そう言って彼は──
────魔王は嗤った。





