第3-36話 VS上位悪魔
「ようこそ、俺様の世界へ。さあ、戦ろうぜ。ちょうど血沸き肉躍る戦いがしたかったとこだ」
上位悪魔の手の平に闇が集まっていく。
「……ルカ……クロム……気をつけて、ください」
アスタロトが弱弱しい声で告げてくる。
「待ってて、アスお姉ちゃん。すぐにあいつを倒すから」
「それまで耐えててくれ」
悪いが、アスタロトを治療している暇はない。
すべての意識を集中させないといつ死んでもおかしくないくらい、目の前の悪魔は強い。
「肩慣らしで死んでくれるなよ」
無数の闇が飛来する。
……直感が警鐘を鳴らしている。
あの闇は危険だと。
「【フレアウォール】!」
炎の壁で闇を防ぐ。
その間に、ルカには上位悪魔の背後に回ってもらう。
二対一のメリットは挟撃できることだ。
活かさない手はない。
「多対一の戦いにおいて、雑魚から潰すのは定石だよなぁ!」
闇の大部分がルカを狙う。
俺が距離を詰めてくるまでの間にルカを殺しきる算段なのだろう。
「させるか【瞬歩】!」
「うお!? 速ぇなオイ!」
俺は【瞬歩】で一瞬にして間合いを詰める。
上位悪魔は驚きつつも、ルカを狙っていた闇を即座に戻して防いできた。
剣が止まる。
アロンダイトですら斬れないのか……!
とんでもない硬さだ。
「驚いたか? 闇をダイラタンシー流動状にすることで衝撃に強くしたんだ。どんなにパワーを上げたところで俺様の闇ァ突破できねぇぜ?」
闇が形状を変えアロンダイトを拘束する。
直後、急激に膨張し始めた。
範囲攻撃で周囲もろとも俺を攻撃する気か。
アロンダイトを拘束して武器破壊まで狙っているようだが、あいにく無駄だ。
即座に俺はアロンダイトを【アイテムオックス】に仕舞いながら離脱する。
「【フレアウォール】! からの【破魔の一閃】!」
炎の壁で闇攻撃の威力を落としてから、スキルや魔法を打ち消す【破魔の一閃】を放つ。
俺は闇を両断して、なんとか攻撃から逃れることができた。
「ルカのこと忘れないでよ!」
そのタイミングで、サイドから回り込んでいたルカが攻勢に出る。
「もちろん覚えてるぜ! 闇刃斬!」
上位悪魔は腕にまとった闇を刃に変化させ、横一閃に放った。
「避けてくるか。面白れぇなお前!」
ルカは小柄さを活かして躱し、下段からフレアネイル三連撃を放つ。
「やるじゃねぇか! 俺様に傷をつけるとはな!」
上位悪魔は裂傷を負うも、全く気にすることなく回し蹴りを放つ。
「ゼータちゃんとの戦いで学んだこと、今発揮する時!」
ルカはしゃがみながら回し蹴りを上に受け流す。
隙を晒した上位悪魔の胴体に、渾身のパンチを放った。
「いいパンチだ」
上位悪魔は吹き飛ばされながらも、心の底から楽しんでいるかのように笑う。
「余裕でいられるのも今の内だ」
上位悪魔を俺のほうへ殴り飛ばしたルカは、【絆の炎】を発動する。
アロンダイトが炎に包まれる。
共有したエクストラスキル【デバフマスター】、【剛力無双】、【炎装】、【炎斬拡張】、【竜殺斬り】。
武器スキルの【斬撃強化】。
ルカの【絆の炎】。
これが今の俺に出せる最大火力だ。
俺は黒き炎に包まれたアロンダイトを振るった。
「ヤバそうな攻撃だな! ワクワクさせてくれるじゃねぇか!」
上位悪魔は闇を爆発させ、その爆風で無理やり軌道を変えた。
俺の攻撃は、翼を斬り飛ばしただけに終わった。
「感謝するぜ。封印が解けてから最初に戦えたのがお前たちでよかった。おかげで俺様の人生は最高のリスタートを切ることができたぜ!」
上位悪魔は腕を掲げる。
その掌の先に闇が集まっていく。
大技を使う気だ。
……やられた。
上位悪魔はわざとルカの攻撃で吹き飛ばされることによって、有利なポジションに移動したのだ。
現在の立ち位置は、上位悪魔とアスタロトの中間に俺とルカがいる状況となっている。
大技を躱せばアスタロトに直撃してしまう……!
「本気の半分程度しか出せねぇのが残念だが、俺様の切り札の一つを見せてやるよ」
集まった闇が膨れ上がり、巨大な球体となった。
上位悪魔はそれを放つ。
「死国」
暗黒球が俺たちめがけて迫ってきた。
「クロムお兄ちゃん! 二人がかりでなら……」
「あれは俺が斬る。ルカは上位悪魔に本気の一撃を叩き込んで来い」
「……うん、わかった」
ルカは【絆の炎】を発動。
それから構えた。
俺を信頼してくれてありがとな、ルカ。
だから俺もお前を信頼する。
「とどめは頼んだ」
俺はスキルを発動する。
【剛力無双】、【炎装】、【炎斬拡張】は現状維持。
【竜殺斬り】の枠を【破魔の一閃】に変更する。
「ふぅっ!」
息を整える。
「そっちが切り札を使うなら、こっちも見せてやるよ。最高の一撃をな」
俺はアロンダイトを振る。
暗黒球が真っ二つになる。
その向こう側に、上位悪魔の驚いた顔が見えた。
「アスお姉ちゃんは助け出す!」
最高速度で突貫したルカが、右拳に炎を纏う。
俺は【絆の炎】でルカの火力を底上げする。
「ルカが守るんだ! ブレイジング──」
ルカの纏う炎が爆発的に威力を増す。
闇の世界を光で埋め尽くすほど、赤く赫く燃え上がる。
「──フレアスマッシュ!!!」
「……ぐゥッ……!」
上位悪魔は腕をクロスさせてルカのパンチを受ける!
が、ルカの勢いは止まらない。
止められない!
「ルカはアスお姉ちゃんのことが大事だから! ──だから、死んでも絶対に助けるんだ!!!」
不撓の決意を宿した拳が振りぬかれる。
不屈の炎が上位悪魔を貫いた。
上位悪魔は、上半身が消し飛んでいた。





