第3-32話 新たな指名依頼
「お初にお目にかかります、国王陛下。私はアスタロトと申します。先ほどはお力添えいただきありがとうございます」
「クロムからお主の話は聞いておったが直接合うのは初めてじゃな。いかにも儂が国王じゃ。よろしこ!」
急な国王様来訪イベントには驚いたが、おかげで不敬罪を回避することができた。
俺たちは国王様に感謝の言葉を伝える。
それから貴賓室に国王様を招いた。
「ほぉ~。この紅茶うまいの~。人生で一番じゃ」
「お褒め頂き光栄です」
魔界の紅茶をアスタロトが淹れたのだからおいしくならないわけがない。
紅茶と相性のいい魔界の御茶菓子も用意してあるので、国王様をしっかり満足させることができるだろう。
それはそうとして、今この場にはリジーさんとシャドーもいるんだよな。
国王様と顔合わせしてもらうのも悪くないかもしれない。
「国王様、実は今この場にはアスタロトの舎弟となった悪魔たちも同席しているのですが、ご挨拶いただくことは可能でしょうか?」
「え!? いるの!? ……確かに顔合わせの機会なんてなかなか作れないじゃろうし、できる時にしておいたほうがいいか。呼んでくれ」
俺はシャドーに出てくるように伝える。
すると、アスタロトの影の中からシャドーとリジーさんが現れた。
シャドーは触れている人や物と一緒にアスタロトの影の中にワープすることができるのだ。
「お会いできて大変恐縮ですわ、国王陛下。私はリジー・フラスティアと申しますわ。政治にも携わらせていただいておりますので、魔界政府との仲介はお任せくださいまし」
「拙者はシャドー・ヤタガラスで御座候。魔界の四大名家出身でござるが、拙者は一般人故、重要な話はリジー殿によろしくお願いするでござる」
「うむ。本日は貴殿らと相まみえることができて光栄に思う」
国王様とリジーさんたちがやり取りをしているのを見ていると、アスタロトが小声で話しかけてきた。
「ルカを連れて買い物に行ってもよろしいでしょうか? ルカをこの場にいさせるのも気が引けますので」
「難しい話はクロムがしてくれるから大丈夫っしょ」
ルカは国王様が現れた時からずっと固まったままだ。
そのうち酸欠で倒れそうな気配が漂っているし、アスタロトに任せた方がいいのかもしれない。
というわけで、アスタロトにはルカと一緒に買い出しに行ってもらった。
「人間界との国交は、私たち魔界側も望むところですわ」
「人間界より発展している魔界側に対して、我々が差し出せるものは?」
「悪魔は死んでも翌日には復活できるので、人間と違って死の恐怖に怯えることはありませんわ。加えて、数百年から長ければ千年以上生きることもあるほど長命ですの。それ故に、悪魔は楽しいこと、面白いこと、ワクワクすることに飢えていますわ」
「食文化が特に発展しているのも、根源的欲求である食欲を人生の楽しみに昇華するためでござる」
「我々悪魔が求めるものは、人間界のエンタメや食文化ですわ。特に人間界の食事はお姉さまに食べさせていただきましたが、魔界とはだいぶ異なっていましたの。魔界に取り入れることができれば、悪魔たちも喜ぶこと間違いなしですわ!」
「なんなら魔界と人間界が交流するという事実だけで面白いでござるから、特にメリットがなくても政府や国民は賛成してくれると思うでござるよ」
……国交ってそんなノリと勢いで決まるものだっけ?
俺が思っていたよりもトントン拍子で話が進んでいき、リジーさんが魔界政府に提言するという話でまとまった。
これにて突発的に始まった悪魔と国王様の顔合わせは終了。
国王様は本来の目的に戻る。
「今日は報告と新たな指名依頼の話をしに来たぞい。まずは報告のほうじゃが、Sランク昇級の手続きがほぼ完了しての。明日からお主らはSランク冒険者じゃ!」
「ついにSランク冒険者になれるんですね!」
「えー、明日がめっちゃ楽しみ!」
昇級報告に喜ぶ俺たち。
後でルカとアスタロトにも教えてやらないとな!
きっと二人も喜ぶだろう。
「次は指名依頼についてじゃが……」
俺たちが落ち着いたタイミングを見計らって国王様は話を切り出した。
わざわざ俺たちを指名するくらいだから、今回の内容も重要度が高いのだろう。
俺は気を引き締める。
「お主らが捕らえた真神郷徒メンバーが、拠点としているダンジョンの情報を吐いた。情報統制を徹底している真神郷徒のことじゃから本拠地ではない可能性のほうが高いが、それでも激しい戦いになることが予想できる。一人も逃さず捕縛するためにも、ぜひ掃討作戦に協力してほしい」
それから、国王様は作戦内容を説明してくれた。
「本作戦にはSランク冒険者も一人参加してくれることになった。作戦は一週間後、Sランク冒険者を中心として上級冒険者と共に突入してもらう予定じゃ」
◇◇◇◇
クロムたちが国王様から指名依頼の話をしているころ。
ルカとアスタロトは一緒に王都の商業エリアを歩いていた。
「とりあえず買い物しに来てみたのはいいですが、何を買いましょうか」
「食材は魔界産のがそろってるもんね。買うとしたらうーん……髪飾りとか?」
「いいですね。お洒落でもしてみますか。……あまり自信はありませんが」
「なら、ルカがアスお姉ちゃんの選んであげるね~」
「ありがとうございます。お願いしますね」
二人は手をつないで楽しげな様子で歩く。
いつもはクールなアスタロトだが、今は口角が少しだけ上がっていた。
「アスお姉ちゃんってさ、ルカと二人きりの時は微笑んでるよね。可愛くていいと思うよ!」
「そ、そんなことないですよ! 気が緩んだりなどしてません!」
「あはは、素直じゃないな~」
「……素直になるのは苦手です」
「料理を褒めた時は素直になってるけどね」
「それとこれは別なのです」
恥ずかしさからか、アスタロトは少しだけ早足になる。
ほどなくして髪飾りを中心に販売している露天にたどり着いた。
「アスお姉ちゃんに似合いそうなのは…………これかな? ……いや、こっちのほうが似合ってるかも!」
たくさんの髪留めに悩むルカをアスタロトは微笑ましげに眺める。
(ルカにはこの白い花の髪飾りが似合いそうですね。ワンピースと同じカラーで統一感もありますし)
そう考えて、花飾りに手を伸ばそうとする。
その時だった。
「見ぃ~~~つけた」
底冷えするような悪意が二人に襲いかかる。
「ッ!?」
真っ先に気づいたアスタロトが動いて──
無数の斬撃が走る。
露店が。
周囲の建物が。
その場にいた人たちが。
一瞬にして断裂した。
「ぐぁあああああああああ!?」
「腕がぁ!? 俺の腕がっ! 痛えよちくしょおおおおお!」
「何が起きたんだよいったい!?」
悲鳴と絶叫が響く。
とっさにルカと露店の店主をかばったアスタロトは、攻撃を防ぎきれずに胴体を深く斬り裂かれていた。
ボタボタと血が零れ落ちる。
息が荒くなる。
呼吸が乱れる。
「……何者、ですか……!」
砂埃が晴れる。
そこに立っていたのは、“闇”をまとった黒髪の少年だった。
ルカが、ぽつりと呟いた。
「…………ダーク……?」
闇の化身となった彼の名を。





