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第3-30話 ミラの新技特訓

 ミラが二作目の短編小説を完成させた翌日。

 アスタロトの舎弟となった悪魔たちが屋敷を訪れていた。

 ちなみにゼータはなぜかメイド服を着ている。


上位悪魔アークデーモンの件ですが、進展はありましたか?」


「いえ、国や冒険者ギルドをあげて調査していますが今のところは手掛かりなしです」


「そうですか……」


 ロバートさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 魔界のほうでも手掛かりが一つもつかめなかったそうで、上位悪魔アークデーモンの行方はいまだ不明とのことだ。


「大事な話終わったー?」


 俺がミラの言葉に頷くと、改めて自己紹介する流れになった。

 よくよく考えたらお互いのこと全然知らないんだよな俺ら。

 大会中に初登場したゼータとシャドーは、ルカとミラとは初対面みたいなものだし。


「じゃ、一番手行こうかな。私はミラ。普段は小説を書いたり読書したり、なんか楽しく暮らしてまーす! よろしくね!」


「よろしくー。ファッションセンスいいっすね!」


「地雷ファッションを着こなせているのはレベルが高いでござるな」


 そうなのか?

 ちょっとよくわからない。


「ルカはルカだよ~。好きなことはアスお姉ちゃんの料理を食べること! よろしくね!」


「ちな、肉派っすか? 魚派っすか?」


「どっちも好きだけど、どちらかと言えばお肉~!」


「わかる。心の友」


「心の友だね!」


 ルカとゼータは笑顔でがっちり握手した。

 その後シャドーがおススメの肉を教えてくれたことで肉トークが始まり、ゼータがロバートさん(馬の悪魔)をガン見しながら馬肉のよさを語ってツッコまれるという一幕を経てからアスタロトの番へ。


「普段は料理の勉強をしたり屋敷の管理を務めさせていただいております。改めてよろしくお願い致します」


 アスタロトは淡々と自己紹介を終える。

 そして俺の番がやって来た。


「俺はクロム……」


「よし、次行こっか!」


「待て待て待て。まだ名前しか言ってないが!?」


「へ~、クロムって言うんすね。よろしくっす! シャスシャス!」


「次は悪魔側が自己紹介する番でござるな」


わたくしはリジー・フラスティアですわ!」


 ミラのボケに悪魔三人が悪ノリし、俺の自己紹介は二秒で終わってしまった。

 なんでや。


「普段は最強トーナメントの運営をしたり、魔界の都市間をつなぐ鉄道や高速道路などインフラの結界構築・運用、国防などの仕事をしておりますわ!」


 わりと魔界の重要ポジションにいるのでは?

 もしも魔界と人間界の国交を本格的に目指すのであれば、リジーさんに魔界政府との橋渡し役を頼んでみるのがいいかもしれないな。


魔界騎士団デモンナイツの団長を務めているロバートです。よくロバと間違われますが私の種族は馬頭めずです」


「競馬に行ったらいつも走ってますのよ」


「賭けられる側だったの!? 賭ける側じゃなくて!?」


「とんでもないデマを広めようとしないでください。そもそもギャンブルはやってないです」


 スーツを着たロバートさんが馬たちと走っている光景……。

 うん、めっちゃシュールな絵面だ。


「拙者はシャドー・ヤタガラスと申す。普段は製薬会社で働いているでござるよ」


 前にも研究中の新薬が~って言ってたな。


「……一つ疑問なんだが、魔界って薬の需要あるのか? ロバートさんやリジーさんから聞いた話だと、死ねば健康体で復活するから病気もケガも問題ないみたいな感じだったけど」


「悪魔たちからの需要は低いでござるが、一型糖尿病のような先天性の疾患は死んでも治らないから薬が必要なのでござるよ」


 シャドーの説明をロバートさんが補足する。


「魔界ではペット文化が盛んなため、ペット用の薬であれば需要はすごく高いですよ。というか、そちらが製薬・医療のメインターゲット層ですね」


「拙者が研究している薬もペット用でござる。ネコの腎臓病の治療薬開発があと少しで実現しそうなのでござるよ」


「へ~、シャドー君ネコが好きなの?」


「十二匹飼ってるでござる」


「多っ!」


 シャドーは予想以上にネコ大好きだった。

 製薬会社勤務のネコ大好き忍者はキャラ濃すぎだろ。


「アタシはゼータ・ノヴァフレイムっす! 特技は大爆発四肢爆散自死!」


「特技の定義知ってる?」


「普段はでびチューバーとして活動したり、講演会やったり、魔界騎士団デモンナイツの名誉戦闘指導員してたりするっす! ちな、でびチューブのチャンネル登録者数は五十三万人っすよ!」


 それってつまり、五十三万人がゼータのファンってことか?

 最強トーナメントでレジェンドに登り詰めていただけあって、すごいやつだったんだなゼータは。


「魔界の総人口は三百万人ほどなので、魔界国民の約六人に一人がゼータのファンということになります」


「でびチューブの登録者数ランキング六位なんすよ、アタシのチャンネル」


「ちなみに五位は最強トーナメント公式チャンネルですわ! 悔しいですわよねぇゼータさぁん!?」


「は? 別にそんなことねぇですしお寿司!」


「そのネタもう古いですわよ。お寿司だけに!」


 いきなり煽り合いを始めたゼータとリジーさんは放っておいて、俺たちはシャドーのスマホでゼータのチャンネルを閲覧する。

 うわ、バトル講座シリーズが軒並み百万再生を超えてやがる……!


「私この動画が気になるんだけど」


「あ、それルカも気になる!」


わたくしもです」


 三人が注目したのは、『【ガチ天使】美少女がメイド服着てみたらとんでもないことになった【可愛すぎワロタ】』という三日前に投稿された動画だった。

 昨日投稿の動画は五十万再生超え、その他の直近の動画も二桁万再生されているのに、なぜかこの動画だけ三万回しか再生されていない。


「どれどれ……って、コメントヤバッ」


 俺たちは驚きのあまり、コメント欄トップのコメントを読み上げてしまった。


「すみません。美少女っていつ出てきましたか?」


「タイトル詐欺かよ。見損なったわ」


「ゼータが美少女とか笑わせてくれる。片腹痛いわ」


「ユッケジャンジャンマンモスポォ! ……なんだこのコメント欄」


 五十三万人のファンはどこ行った。

 アンチの群れと遭遇しちゃったのか?


「ああ、それっすね。いつの間にか、アタシがナルシストな動画を上げたら全然再生されない上に辛辣なコメであふれるっていう持ちネタができちゃったんすよ。ひどくないっすか?」


「かわいそうすぎワロタァ!」


「面白すぎワロタァ!」


「なんすか? やるんすか? ブチブチにしてやるっすよ?」


 覚えたての言葉で煽り散らかすミラ。

 すかさず乗るリジーさん。

 ガチ天使のゼータ。


 三人が煽り合っている間、俺たちはシャドーに見せてもらったネコの写真でひたすら癒されたのだった。




 お互いに自己紹介を終えた後。

 俺たちは庭に出ていた。

 これから何をするのかと言えば、悪魔たちとの合同訓練だ。


「ルカはゼータちゃんと戦いたいな!」


「いいっすよ。姉貴にリベンジするにはまだ早いっすからね。まずはルカで肩慣らしといきますか!」


「ゼータちゃんさ、ルカのことアスお姉ちゃんの前座くらいにしか見てないよね?」


「違うんすかぁ?」


「決めた。ルカちょっと本気出す!」


 ゼータから煽られたルカは、むっとした様子で言い返す。

 手加減なしの激しい戦いになりそうだが、戦闘経験を積むいい機会だろう。


 って、もう戦い始めてしまった。


「姉御、拙者と勝負してはいただけぬか?」


「いいでしょう。搦め手特化の相手との戦闘は得られるものが多そうですね」


「感謝するでござる」


 別の場所ではアスタロトとシャドーが戦闘を始める。

 残ったのは俺とミラ、リジーさんとロバートさんだが、俺たちはバトルはしない。

 今日やるのはミラの新技特訓だ。


「私は幻影魔法を現実にすることで魔法攻撃できるんだけどさ、こんな風に」


 ミラの手から火炎球が飛んでいって弾けた。


「コツさえつかめば結界も作れそうなんだよね。ってなわけで、教えてほしいな」


「いいですわよ。ではまず、結界のイメージを固めるところから始めていきましょうか」


「はーい、リジー先生」


「そもそも結界とは、世界を分断して自分の世界を創ることですわ。敵の攻撃と世界(結界)がぶつかり合った時に世界(結界)のほうが強ければ攻撃を防げますし、敵の攻撃のほうが強ければ世界(結界)が破壊されることになりますわ」


「ほほーう、なるほどねー。あー、そういうことかぁー。理解した」


「何もわかってなさそう」


 そういう俺も全部理解できたわけじゃないけどな。

 リジーさんの結界の解釈が難解すぎる。


「つまり、結界の終着点とは世界の隔絶ですわ。魔界と人間界が“世界の壁”で隔たれているのがいい例ですわね。人間界で魔法を使おうが、魔界には一切影響が出ませんわよね? これこそが結界の本質ですわ!」


「要するに、自分の世界に対象を閉じ込めて外から遮断しちゃえばいいってことでしょ?」


「そういうことですわ。早速やってみましょうか!」


 リジーさんの指導の元、ミラは幻影魔法で結界を作る練習をする。

 ミラの魔法センスの高さとリジーさんの的確な指導によって、わずか数回目にして結界もどきが現れた。


 そのことにミラが喜ぼうとした時、視界の外から爆炎を纏った衝撃波が迫ってきた。


 ……あれはゼータの攻撃によるものか?

 とにかく、この軌道だと屋敷に直撃してしまう!


わたくしにお任せくださいな。この程度、どうってことありませんわよ」


 リジーさんが屋敷のほうへ指を向ける。

 半透明なシールドが出現し、爆炎衝撃波を完全に受け止めた。

 屋敷や花壇、家庭菜園は一切傷ついていないどころか結界そのものも無傷だった。


「これが結界の合格点ですわ。すぐにこのレベルまで達するのは難しいでしょうから、ひとまず今日の目標はクロムとロバートの同時攻撃に耐えられる強度の実現としましょうか」


「うへー、スパルタだなぁ」


 そんな悲鳴を上げつつもミラは真面目に取り組む。

 俺たちも結界の強度テストを手伝う。

 

 そして、ついにその時がやって来た。


「二刀流【居合】──疾風迅雷!」


「【竜殺斬り】!」


 俺とロバートさんの同時攻撃が炸裂。

 ミラの結界は、ひびが入ったもののなんとか耐えることができていた。


「リジー先生、今のどうかな! いい線行ってるんじゃない?」


「ええ、今日の課題は合格ですわ。ご褒美として、今度遊びに来る時に魔界の人気スイーツを持参致しますわね」


「やったー! リジー先生太っ腹!」


 と、そのタイミングでアスタロトVSシャドー、ルカVSゼータの戦いが決着した。


「対戦ありがとうございました。わたくしの勝利ですね」


「くっ、あと一歩及ばなかったでござる……! 手合わせ感謝する」


 アスタロトとシャドーの戦いはギリギリのところでアスタロトが勝ったようだ。


「うおっしゃああああああ!!! アタシの勝ちっす!!!」


「むぅぅ、次は負けないんだからっ!」


 ゼータは全身から大量の血を吹き出しながら勝利の喜びを噛みしめる。

 なんか死にそうだから回復魔法使っとくか。


「ルカさぁん! 悔しいすかぁ? 悔しいすよねぇ!? 敗北者っすねぇ!」


「なんでそんなこと言うの……?」


 煽られたルカが涙目になる。

 ゼータ……お前……ルカのこと泣かしたな?


「やっぱ回復魔法かけるのやめるわ。そのまま失血して朽ち果ててくれ」


「ゼータさぁ、あんま調子乗ってると官能小説の受けヒロインにするよ?」


 音もなくゼータの背後に立ったミラがチョークスリーパーを決め込む。


「ちょちょちょ、タンマタンマタンマ! できれば攻め側のほうがいいっす!」


「ツッコむところそこじゃないだろ」


「助けて姉貴!」


「自ら死ぬか処刑されるか好きなほうを選んでください」


 アスタロトからデッドオアデッドを迫られたゼータは、必死な表情で取り繕った。


「いや嘘だから! ちょっとふざけただけですやん! ルカすごく強かったっす!!!」


「よーし、許す」


あっぶねぇ……助かった」


 解放されたゼータは息を整えてから総評を伝えた。


「真面目に言うけどルカヤバいっすよ。パワーもスピードもアタシより上でビビったっす。ライフで受けるも致命傷だけはけ続けてようやくアタシの辛勝っすからね」


「ルカの敗因はやっぱり戦闘経験だよね?」


「そっすね。ルカは戦闘経験が足りないのが課題っす。フィジカルやスキル構成は優れているのに、それを活かしきれてないって戦ってみて感じたっす。なので、実戦あるのみっすよ!」


 ゼータはバトル講座の動画で人気を博しているだけあって、総評は非常に分かりやすかった。


 ルカは今回の反省点を活かして成長していくだろうし、アスタロトは搦め手特化の相手との戦闘経験を積むことができた。

 ミラは新技開発が順調に進んでいることから、そのうち結界をマスターするだろう。


 俺ももっと精進しないとな。

 そんなことを考えていると、ゼータが間抜けな声を出して倒れた。


「あっ、死ぬ。ふにゃあ」


「あ、失血死した。本当に朽ち果てちゃったね」


「ゼータ、お前は本当にいい奴だったよ。三分くらいは忘れないから」






◇◇◇◇



 一週間後。

 毎日の特訓の甲斐あって、ミラの結界はかなりのものに成長していた。


「お邪魔致しますわ」


「手土産もあるでござるよ」


 前回は全員で訪れた舎弟たちだが、今日はリジーさんとシャドーしか来ていない。

 ゼータとロバートさんは現在死亡中とのこと。

 魔界騎士団デモンナイツVSゼータで訓練してたら相打ちになって全員死んだそうだ。


「今日は中間テストしますわよ! 合格すれば仮免取得ですわ!」


「ふっふっふ。どんな内容でもどんと来いだよ」


「随分と自身がおありのようですわね。わたくしのテストは生易しいものじゃなくってよ?」


 テストを行うべく俺たちが玄関を出ると、屋敷の正門前に一台の馬車が止まっているのが見えた。


「クロム、今日って来客の予定あったの?」


「いや、全然知らん人」


 馬車に付き従っていた兵士の一人が大きな声で「到着いたしました!」と告げる。

 すると、煌びやかな馬車の中から意地の悪い笑みを浮かべた中年男性が現れた。


「吾輩がわざわざ時間を作って? 来てやったのに? もてなしの一つもできんとは使えない奴らよのう。全く、これだから平民共は」



 うーわ……。

 一言一句がめんどくさい人が来てしまったな。



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