第3-28話 俺らメイド力高くね?
国王様への報告を終えて久しぶりに屋敷へと戻ってきた俺たち。
「ただいま~って言っても誰もいないんだけどね」
「うわ、数日放っといただけで埃積もってる」
「ホントだ。掃除する?」
「するか」
馬鹿みたいに大きな屋敷を二人だけで掃除するとなれば、普通はかなりの時間がかかるだろう。
だが、俺には秘策がある。
最強トーナメントでシャドーと戦った時に、俺は『【デコイ】は実体があって物理干渉できる』と言った。
つまり、たくさんの分身たちと一緒に掃除すれば超効率がいいのでは!?
「【デコイ】発動! 整列!」
「せいれーつ!」
俺とミラは【デコイ】を発動する。
現在の一度に出せる分身の最大数は二十体なので、本体と合わせて総勢四十二名の俺たちが集合した。
分身たちに四人一組のチームを作らせる。
「クロムグルループA班は一階西側、B班は一階東側、C班は二階西側、D班は二階東側、E班はエントランスを掃除してくれ。終わり次第キッチンと風呂掃除に移行する」
「ミラグループA班は一階西側、B班は一階東側、C班は二階西側、D班は二階東側、E班はエントランスの拭き掃除お願いね~。流れはクロムグループとおんなじ感じだから」
「「「「「ラジャー!」」」」」
指示を出して掃除機などの道具を支給してから、俺たち本体も掃除に参加する。
Sランクの肉体スペックと数の暴力と魔界のハイテク家電でゴリ押した結果、一時間足らずで屋敷をきれいにすることができた。
「めっちゃピカピカじゃん! 私たち最強じゃね?」
「最強だな!」
達成感に満ちあふれた表情で、俺とミラはハイタッチをする。
「アスっちのメイド力を五十三万とすると、私たち十万くらいはあるんじゃない?」
「俺らメイド力高くね?」
これならばいけるかもしれない。
最大の宿敵に勝てるかもしれない……!
三人寄れば文殊の知恵って言うんだ。
四十人集まればもう無敵だろ!
というわけで、四十人がかりで知恵を出し合って料理を作ってみた。
「なんかよくわからん紫色のやつができました」
「何この呪物的料理。どうしてこうなった」
……食べられなさそう。
というか、食べたら死にそう。
「分身、一口食べてみない? ワンチャン美味しいかもよ?」
「忙しいんで帰ります」
「私もちょっと用事あったの思い出したから帰るね!」
分身たちは慌てた表情で消えていく。
……勝手にスキル解除されたんだが。
「どうするこれ?」
「見なかったことにしない?」
「そうだな」
今日の教訓。
何人集まっても馬鹿は馬鹿。
料理と呼ぶのもおこがましいような何かは【アイテムボックス】に封印して、俺たちは大人しく外食しに行った。
その後、家に戻ってくるなりすぐに風呂に入ることになった。
魔界で買ったヘアケア製品や美容品を早く使いたくてたまらないようで、ミラが早く早くと急かしてくる。
「せっかくクロムの分のシャンプーやトリートメントも買ったんだから使わないとだよ!」
「それだけでそんなに変わるものなのか?」
「ふっふっふ。それは使ってからのお楽しみだよ」
半信半疑で風呂に入った俺は、さっそくシャンプーとトリートメントを試してみる。
……泡立ちや指どおりがいつもより格段にいいのは確かだが、それ以外はどうなのだろうか。
早く上がって鏡で確認したい気持ちが急かしてくるが、ミラからトリートメントは十分以上揉みこんだ方がいいと教えられたので、大人しく待つ。
「クロムさ、暇なら私のほう手伝ってくれない? 髪長いから揉みこむの大変なんだよね」
「仕方ないな。丁寧に揉みこんでからコームで梳かす……こんな感じか?」
「そうそう。上手じゃん」
トリートメントを髪の毛一本一本に馴染ませるようにコームしていると、ミラが話を振ってきた。
「明日から何するの?」
「ひとまず冒険者ギルドに行くかな。難しい依頼があったらそれを受けつつ、上位悪魔の写真をギルマスに渡して情報収集を手伝ってもらうって感じ」
「クロムは真面目だね。冒険者としてうんぬんかんぬんみたいなやつでしょ?」
「まあな」
「立派だねぇ、クロムは」
ミラが他人を褒めるのはよくあることだが、今回はいつもより心がこもっているように感じた。
いや、いつもミラの褒め言葉は本心だと思っているが、今回は褒め度が高いというかなんというか……説明が難しいな。
とにかく、面と向かって褒められるのは照れくさかった。
そんなこんなで風呂から上がった俺は、鏡の前で硬直してしまった。
気を緩めたら今にでも顎が外れてしまいそうだ……!
「とんでもないくらいに髪がサラサラになってる……!? こ、これがトリートメントの力かッ……!」
「クロムのイケメン度マシマシじゃんヤバッ! ってか、私も髪の毛サラツヤ過ぎてヤバいんだけど! 見てほら!」
「おお……! 美少女度マシマシだな!」
「しかもこの手触り! どう? マジヤバじゃない?」
「この指通りのよさと触感、まるで上質な絹のごとし!」
「ね~。永遠に触ってられるよ!」
「次は化粧水ってやつ使ってみるか!」
「うおー! お肌とぅるんとぅるんなった!」
「俺もとぅるんとぅるんになってるー!」
俺たちはその後も洗面所で騒ぎ続けたのだった。
魔界の技術ホントにすごいわ!
◇◇◇◇
「「…………寂しい……」」
魔界から帰ってきて三日目。
俺とミラは屋敷の中で倒れていた。
「病名は、そうだな……」
「ルカ欠乏症とか?」
「それだ。それに罹患中」
「私も。ついでにアスっち欠乏症とアスっちの料理欠乏症にも罹患中。助けて」
「すまない。俺の回復魔法はケガしか治せないんだ」
ルカがいない寂しさのあまり、俺たちは新種の病気を患っていた。
……耐えるんだ、俺。
ルカは今日帰ってくる。
あと少し……あと少しだ……!
「ただいま戻りました」
「「ほあ!?」」
俺たちの目の前にアスタロトが現れる。
生気を取り戻してガバッと飛び起きた俺とミラの目に、予想外の光景が映った。
「ルカが体調を崩しました。ほんのわずかですが熱もあるようです」
ぐったりした様子のルカがアスタロトに抱きかかえられていた。





