第3-24話 決勝戦③ ~優勝したのは~
「まだ対応できますよ、【閃光斬】!」
アスタロトは超速連続攻撃によって炎の【斬撃波】をすべて相殺する。
だよな。
アスタロトがこの程度の攻撃に対応できないわけがない。
当然、次の手は打ってある。
「【フレアウォール】二重奏!」
二重に生成された炎の壁が、アスタロトを両側から挟んで逃げ場を無くす。
俺とアスタロトの間に一本道ができあがった。
「退くか攻めるか好きなほうを選べ!」
俺は【纏衝突き】の構えを取る。
移動を制限して回避不能の一点攻撃を喰らわせる……と見せかけたブラフだ。
……アスタロトは何というか、殺意が高いんだよな。
開幕と同時に【瞬歩】を使用して仕留めにかかったり、ゼータに押し負けてても一瞬の隙をついた【閃光斬】で押し返したり、などなど。
攻め時を見つければ、容赦なく攻める傾向にある。
【纏衝突き】は衝撃波が発生するため、ガード越しにダメージを与えることができる強スキルだ。
威力や射程は優れているが、点での攻撃であるため躱すor受け流しやすく、発動前後に隙が生じるという弱点もある。
俺はアスタロトを信用してる。
だからこそできる手だ。
「発動前に潰して差し上げますよ!」
アスタロトは【瞬歩】で突撃してくる。
【纏衝突き】を放つ前にアスタロトの攻撃を受けてしまうだろう。
だが、問題ない。
狙い通りだ。
アスタロトなら魔法・スキルを打ち消す【破魔の一閃】で【フレアウォール】を消して様子見するのではなく、【瞬歩】で勝負を決めに来ると思っていた。
「え、ちょ、待っ──」
俺の体に大剣が食い込む。
傷口から血が噴き出す……ことはなく、俺の体は霧散して消えた。
「ッ! 【デコイ】……! 私はまんまと釣られてしまったというわけですか」
「残念、それは偽物だ」「騙されたな!」「どれが本体かわかるか?」「俺が本物だー!」
俺は【デコイ】たちをアスタロトにけしかける。
『クロム選手が一斉攻撃を仕掛けました! 会場からはクロム選手の攻撃の一部始終が見えておりましたが、改めて解説をお願いします!』
『クロム選手は【フレアウォール】を発生させるのと同時に一本道に分身を残し、本体は透明になるスキル【ミラージュ】と【炎属性無効】でこっそり【フレアウォール】の外へ逃げました。そして、アスタロト選手が分身を斬っている間に追加で分身を生み出し、一斉に突撃したというわけです』
『解説ありがとうございます! 果たしてアスタロト選手は捌くことができるのでしょうか!?』
余裕で捌いてくるだろうな。
だから本体《俺》は、次の攻撃の準備をしている。
「全部まとめて斬れば問題ありません!」
アスタロトは【破魔の一閃】を振るう。
その一振りで、分身も【フレアウォール】もすべて消されてしまった。
「本体はそこですか」
「気づくのが一歩遅かったな」
俺は魔力を最大まで高めた状態で、剣をリングに突き刺した。
「──最大出力! 【炎装】!」
刹那、リングが爆発しあふれ出た炎が瞬く間にリングを包み込んだ。
『なんということだーーーッ!!! フィールドが炎に包まれてしまいました!!!』
【炎装】は本来、炎を纏うだけのスキルだ。
だが、出力を最大まで高めればこんなこともできるんだよ。
裏技みたいな使い方だからとんでもなく魔力を消費するけどな!
俺が一度に発動できるエクストラスキルは五つまで。
だから【炎属性無効】は解除する。
フィールドの炎で俺もダメージを受けてしまうが関係ない!
「そろそろ決着をつけようか!」
俺は【完全走破】を発動して駆ける。
これでバキバキになったリングでも問題なく最速を出せる!
「お望み通り終わらせて差し上げますよ!」
アスタロトは呼吸を整え、静かに構える。
足場が不利な以上、カウンターを狙うのが最善手だと判断したようだ。
『両選手とも勝負を決めにかかるようですッ!!! 一秒たりとも目を離せられませんね!!!』
俺が使えるエクストラスキルの枠は残り四つ。
「【剛力無双】!」
全身に力がみなぎる。
さらに速度が上がる。
「【炎装】!」
剣に炎を纏う。
火力を上げる。
「【炎斬拡張】!」
炎をさらに強化。
炎が黒く染まる。
リーチが伸びる。
「これが、俺の最高火力だ!」
俺は剣を大きく振り上げ、振った。
「──【竜殺斬り】!」
まともに喰らえば力負けするのは必然な一撃だ。
読めた、アスタロトの次の一手が。
「【破魔の一閃】!」
俺の剣と大剣が激突。
刹那、俺の剣から黒炎が消えた。
威力が激減してしまう。
「まともに斬り合うのだけは御免ですよ!」
アスタロトが大剣を振り切る。
根元から折れた俺の剣が宙を舞った。
「──今度こそ、終わりですよっ!」
アスタロトは即座に斬り返す。
武器を失った無防備な俺に向かって、大剣が振り切られた。
『……決着! 結着ですッ!』
司会の声が響き渡る。
『第444回、最強トーナメント、栄光の優勝を手にしたのはァ~!!!』
リングで燃え上がっていた炎が鎮火する中。
俺は大剣の上に乗り、アスタロトの首にフレアネイルを突きつけていた。
最後の激突で、アスタロトが【破魔の一閃】で武器破壊をしてくることは読めていた。
だから俺はわざと隙を見せて誘い込んだのだ。
『クロム選手~~~ッ!!! クロム選手が勝利しましたぁ~~~ッッッ!!!』
『最後の攻防ではアスタロト選手が勝つかと思われましたが、それもクロム選手の作戦だったようです。いや~、お見事でした。まんまと騙されてしまいましたね』
俺は大剣の上から降りる。
「本気で戦ってくれてありがとな、アスタロト。おかげでまた一歩強くなれた」
「……つくづく生意気ですね、貴方は」
アスタロトは静かに、されど悔しそうに呟いた。
『さ~て、ついに優勝者が決まったということで! 皆様お待ちかねのお祭りタイムでございます!!!』
司会がそう告げると、観客たちが「うおおおおおおおおおお!!!」と雄たけびを上げだした。
「お祭りタイムって何!? これからまだなんかイベントあるの!? 何も聞かされてないんだけど!?」
俺は嫌な予感を抱く。
すぐにそれは確信に変わった。
『これにて第444回最強トーナメントは終了~! 続いて、血みどろバトルロワイヤルの始まりですッ!!!』
不穏すぎるイベントが始まるのと同時に、観客たちが我先にと試合会場に乱入してきた。
……え!?
『特別ゲストの方々は死んでも復活できません! そのことを念頭に置いた上で、節度を持って楽しく殺し合いましょう!!!』
毎回死者多数の一大イベント。
やたら広すぎる場外スペース。
今その理由がわかった。
トーナメント終了後に大乱闘をするからなんだ……ッ!
「「「「「うおおおおおおおおおお!!! クロム倒ーす!!!」」」」」
「よりによって俺がターゲットなのかよ!?」
俺は迫ってくる大量の悪魔たちを見ながら悲鳴を上げる。
……ハッ!? そうだ! 観客たちの中にはルカとミラもいる!
助けを求めよう!
「うおー! クロム倒ーす!」
「クロムお兄ちゃん倒ーす!」
「敵じゃん!?」
いや、ホント誰かマジで助けてくれ!
俺の願いは虚しく潰え、大乱闘に巻き込まれてしまうのだった。





