第3-23話 決勝戦② ~俺の戦い方~
俺を確実に仕留めるべく、無数の【斬撃波】が迫ってくる。
躱しようがない攻撃を前にして、俺は思考に耽っていた。
……俺はずっと、剣士に憧れていた。
幼いころからずっとだ。
どうしようもないほど憧れていた物語の勇者が剣士だったからか、ハイリッヒ侯爵家が剣聖の一族でずっと剣術を叩き込まれてきたからか……ともかく、俺は剣士というものに強い憧れを抱いていたんだ。
“祝福の儀”でエクストラスキル【剣聖】を求めるくらいには。
だからこそ、スキル【キメラ作成】を授かった直後は絶望してしまった。
自分には剣士の才能がないのだということを嫌というほど突きつけられたあの日。
その後ルカが仲間になって俺にキメラの才能があることを知ってからも、ずっと剣士に未練があった。
ここまでのアスタロトとの戦いで俺は、アスタロトの持つスキルしか使っていない。
未練があったから、ずっと剣士として対等な条件で戦っていた。
アスタロトを生み出したのは俺だが、アスタロトが【剣聖】を所持していたのは彼女が剣士の才能を有していたからだ。
そんなアスタロトと戦って痛感した。
才能のある者とない者。
両者がギリギリの戦いをすれば、長引けば長引くほど才能のある者が有利になる。
成長速度の差で引き離される。
追いつけない。
現に、剣士としての戦いでは俺が完敗した。
剣を飛ばされ、躱しきれない量の斬撃が迫ってきている。
……でも、そのおかげで未練を断つことができた。
剣士としての戦い方はお終いだ。
ここからは俺にしかできない戦い方をしてやる!
ルカ、ミラ、アスタロト。
仲間がいるから俺は強くなれるんだ。
「──【炎装】! 【炎斬拡張】!」
ルカの【炎装】&【炎斬拡張】による炎の爪撃。
あれは炎で爪を模すことで斬撃を可能にしているだけだ。
もともとのルカの爪は短く、切れ味があるわけじゃない。
「だったら俺でも再現できるだろ!」
炎の爪を生やした俺は、無数の斬撃に向かって腕を振る。
刹那、すべての【斬撃波】が弾けて消えた。
「シッ!」
俺はフレアネイルを発動したまま【瞬歩】を発動。
豪速で突きを放つ!
「ようやく本領発揮ですか……!」
アスタロトは大剣でガードしてきた。
この速度では対応されるか。
「だが、防ぎきれると思うな!」
「ッ……!」
俺は突きの衝撃でアスタロトを弾き飛ばす。
『アスタロト選手が力負けした~~~ッ! 少し前までアスタロト選手のパワーが僅差で勝っていたはずなのに、ここにきてクロム選手の攻撃力が大きく増しています!!!』
【剛力無双】だけではアスタロトに勝てなかった。
だから今は、【剛力無双】以外に攻撃力強化スキルである【炎装】と【炎斬拡張】を発動し、さらに【デバフマスター】も併用している。
同格ゆえにデバフの低下率は5%未満ってところだが……。
「力が制限されるだけでだいぶ動きづらくなっただろ?」
アスタロトに詰めた俺はフレアネイルの連撃を放ちまくる。
「ええ、おかげさまで面倒ですよ!」
アスタロトは大剣で必死にガードし続けるが、動きが乱れている。
まだ俺の速度に追いつけていない。
だが、成長速度が凄まじいアスタロトのことだ。
長々と続けていれば、すぐに俺の攻撃に慣れるだろう。
だから早めに切り崩す!
「そこだッ!」
アスタロトの攻撃を躱しざまに背後を取った俺は、彼女の翼を斬り飛ばした。
大したダメージにはならないが、これで飛翔は封じることができた。
「【竜殺斬り】!」
肉を切らせて骨を断つ、か。
アスタロトは俺の攻撃を受けながらも大振りの回転斬りを放ってきた。
「ちょうどよかった!」
俺はわざと竜殺斬りをガードし、空中に弾き飛ばされる。
アスタロトの受け流しで宙を舞っていた俺の剣をキャッチして回収し、着地。
即座に【斬撃波】を放ちまくる。
『なんだこれは~!? 【斬撃波】がすべて炎に包まれております!!! しかも一つ一つの規模がこれまでの【斬撃波】よりも一回り大きい!』
炎の【斬撃波】に会場が驚く。
『炎をまとって攻撃力を底上げする【炎装】。炎の斬撃範囲を拡大する【炎斬拡張】。この二つのスキルを【斬撃波】と組み合わせることで、攻撃力・攻撃範囲ともに強化した【斬撃波】を実現したようです』
【剣聖スキル】を主体として、回復魔法・攻撃スキル・強化スキル・デバフ・搦め手・補助スキルその他もろもろを駆使して戦う。
これがキメラ使いにしかできない戦い方だ!
「意趣返しですか」
状況反転。
無数に放った炎の斬撃が、完全に逃げ場を潰しながらアスタロトへ襲いかかった。





