第3-22話 決勝戦① ~剣士の才能~
決勝戦が始まるまでの休憩タイムにて。
俺はアスタロトの控え室を訪れていた。
「何の用ですか?」
野菜をカットしまくっていたアスタロトが、作業を中断して尋ねてくる。
「宣戦布告しに来た」
「そうですか。もう帰っていいですよ」
「まだ要件しか言ってないんだけど!?」
アスタロトはこちらの話を聞く気はないようで、ぶっきらぼうに告げてきた。
「ここで話したって意味がないでしょう。もうじきリングで戦うことになるのですから」
「……なるほど。剣で語り合おうということか!」
「精神統一の邪魔だから帰れって言っているのですが。ミキサーしたピーマンを塗りたくった剣で戦って差し上げましょうか?」
「すみませんでした勘弁してください!」
そんなことされたら勝ち目がなくなってしまう!
俺は大慌てで控室を後にするのだった。
……ってか、野菜切ってたの精神統一だったのかよ。
てっきり夕飯の下処理でもしてるのかと思ってたんだが。
変わってんな。
『さあ! ついにこの時がやって参りました! 第444回最強トーナメント、決勝戦のお時間です!!』
俺とアスタロトは大歓声を浴びながらリングに上がる。
『第二回戦にて、四大名家の出身であるシャドー選手との激闘を制したクロム選手ッ!!! 相対するは、四大名家出身にして最強トーナメントのレジェンドとなったゼータ選手を討ち破ったアスタロト選手ッ!!! 決勝戦が特別ゲスト同士の戦いになるとは誰が予想したでしょうか!? 前代未聞の展開に会場中が沸き上がっております!!!』
アスタロトと対峙する。
正面から向き合って改めてわかったが強いな、アスタロトは。
立ち振る舞いに隙がない。
すごい剣士だ。
……だからこそ、
「アスタロト、お前に勝つ!」
俺は切っ先をアスタロトに向けた。
今度こそ宣戦布告だ。
「大口叩いたことを後悔させてあげますよ。私が勝った暁には、ピーマン料理のフルコースを作って差し上げましょう」
……なおさら負けられなくなったな。
何が何でも勝ってやる!
『両選手とも構えました! やる気は充分なようです!』
『手数多めでまだまだ底が見えないクロム選手と、正統派剣士タイプのアスタロト選手。果たしてどちらが優勝するのか楽しみですね』
『ええ、激闘が見られそうな予感がひしひしと伝わってきます!』
観客たちの期待が最高潮に高まったのを感じる。
それは実況解説の人たちも同じだったようで、試合前のやり取りは手短に終えられた。
『絶対に負けられない戦いが今始まりますッ!』
大剣使いのアスタロトと正面からぶつかるのは得策ではない。
力負けしてしまう可能性が高いからな。
『決勝戦、スタートッッッ!!!』
やるなら先手必勝だ。
そう判断した俺は【瞬歩】で距離を詰める!
が、アスタロトもまた【瞬歩】で詰めてきた。
ガキィィィンッ! と金属音を響かせて、互いの剣がぶつかり合う。
「……思った、通りだな……!」
アスタロトのパワーが凄まじい。
強化系スキルを【剛力無双】しか使っていない現状じゃ、力押しで勝ち目がないことがハッキリと感じ取れた。
「方針変更! 【流し受け】!」
俺はアスタロトの大剣を受け流した。
空ぶったアスタロトの胴体に向かって、俺は突きを放つ。
「【纏衝突き】!」
「そう来ると思いましたよ」
アスタロトはバックステップしつつ、大剣の腹でガードする。
『アスタロト選手、直撃は防ぎましたが衝撃波によってダメージを受けてしまいましたッ!』
『ですが、【纏衝突き】の衝撃波と同じ方向に動くことで、被ダメージを最小限に抑えました。継戦能力には何ら問題ないでしょう』
衝撃波に吹き飛ばされたアスタロト。
体勢を整えられる前に追撃する!
「【斬撃波】!」
俺は飛ぶ斬撃で牽制しつつ、アスタロトに向かって駆ける。
「それで足止めしたつもりですか?」
アスタロトは一太刀で【斬撃波】を全て相殺すると、返す大剣で【竜殺斬り】を横一閃に放ってくる。
まともに受けるわけにはいかない!
ただでさえアスタロトのほうが力勝ちしてるんだ。
攻撃力に特化した【竜殺斬り】では、なおさら勝ち目がない!
「【流し受け】!」
【竜殺斬り】を真上に流しながら、スライディングでアスタロトの背後に回る。
からの回転斬り!
狙いはアスタロトの両足。
斬り飛ばして機動力を削ぐ!
「危ないですね。御御足を斬ろうとしないでください」
バク転で回避したアスタロトは、空中から【纏衝突き】を放ってきた。
俺は即座にバックステップして回避する。
刹那、突きの衝撃がリングに激突した。
リングがひび割れ、瓦礫が宙を舞う。
『なんという威力ッ!!! 突きの一発でリングがバキバキだぁ~!!!』
『アスタロト選手が使用した【纏衝突き】は剣術系のスキルで、魔界であれば騎士団長のロバートさんなんかが有名な使い手でしょう。ですが、ここまでの威力は初めて見ました』
『やはりレジェンドを下した実力は伊達じゃない!!!』
本当にその通りだ。
「やっぱ強いな、アスタロトは!」
「貴方に褒められても気持ち悪いだけです。黙ってください!」
お互いに【斬撃波】を放つ。
飛ぶ斬撃同士が空中でぶつかり合い、衝撃音が響く。
再び肉薄した俺たちは、同時に技を放った。
「「【閃光斬】!!」」
とてつもない速度の斬撃がぶつかり合う。
ぶつかり合う……!
だが、勝負が決まらない。
「……だんだん、剣筋がわかってきましたよ!」
俺はアスタロトを殺すつもりで、本気で【閃光斬】を放っている。
……だというのに、有効な一撃を決められない!
アスタロトの腕や胴体、頬などに何度も斬撃が入っているが、すべて浅い。
ダメージを最小限に抑えられている……!
「もう見切りました」
お互いに剣を振り終える。
直後、俺の体から血が噴き出た。
……なっ!? 斬られていた!?
いつの間に……!
『お~っと! 浅いですが、アスタロト選手の攻撃が入りました! これまではクロム選手のほうが押し気味でしたが、逆転してきたか!?』
『剣士としての単純な技術ではクロム選手が上でしたが、パワーや成長速度はアスタロト選手のほうが一枚上手のようですね』
『対ゼータ戦でも見せてくれたアスタロト選手の粘り強さと成長性を前に、クロム選手が攻めあぐねているようです!!!』
正面から攻めてくるアスタロトを迎え撃つ。
再び剣がぶつかり合う。
だが──
「初撃のお返しですよ!」
アスタロトの【流し受け】によって、俺の剣が弾き飛ばされてしまった。
「しまっ……ぐっ……!」
アスタロトは回し蹴りを放つ。
俺は両腕でガードしたが、ダメージを受けながら弾き飛ばされてしまう。
そこでアスタロトが追撃をやめてくれるはずもなく、連続で【斬撃波】を放ってきた。
……完全回避は不可能!
どこにも逃げ場はない!
『クロム選手、大ピンチ……ッ!!!』
俺を確実に仕留めるべく、無数の【斬撃波】が迫ってきた。





