第3-20話 アスタロトVS“最強”の悪魔 前編
クロムとシャドーの試合が終わり、次は第二回戦、第二試合。
『ゼータ選手とアスタロト選手の入場です!』
リングにて相対する二人。
まだ試合が始まっていないというのに、観客の盛り上がりは先ほどの試合以上だ。
『第一回戦では、アスタロト選手の圧勝で試合が終了しました! ゼータ選手は“最強”の称号が相応しいレジェンドですが、ひょっとしてひょっとすると大番狂わせが起きるかもしれませんッ!!!』
『とはいえ、ゼータ選手が負けるビジョンが浮かばないのもまた事実。レジェンド相手にどこまで戦えるのか期待大です』
ゼータは掌に拳をぶつけながら話しかける。
「最高に爆裂し甲斐のある楽しい勝負を期待してるっすよ」
アスタロトは無表情でクールに返す。
「そう思うのなら本気で来てください。じゃないと楽しめないですよ?」
「ハッ、ぎゃふんと言わせてやるから覚悟しとけですよ?」
挑発に乗ったゼータは中指を立てながら楽しそうに煽り返す。
手加減する気も油断する気もないのは明白だった。
(ゼータ……。彼女は間違いなく強い。私が成長するための糧になってもらいましょうか)
アスタロトの胸に湧き上がってくるのは、“対抗心”。
嫌いなやつが成長し続けているのに、自分だけ停滞し続けるわけにはいかないという思い。
(あの男に負けてたまるものですか! 私も強くなって、必ず決勝でぶちのめして差し上げます!)
そして、好きな人にいいところを見せたいという、誰もが一度は思うような甘酸っぱい気持ち。
(……ミラ様にカッコいい姿を見せて褒めてもらうためにも、なおさらここで負けるわけにはいかないのです!)
アスタロトは大剣を構える。
『それでは、試合開始ですッ!!!』
コンマ数秒、両者が動く。
足元を爆裂させた衝撃で突っ込むゼータ。
【瞬歩】で詰めるアスタロト。
一瞬で肉薄。
大剣と拳が交差し、爆発する。
だが、その程度でアスタロトの攻撃は止まらない。
爆炎ごとゼータの腕を斬り飛ばす!
「へぇ~、やるっすね」
ゼータは感心した様子で退くと、腕に魔力を集中させる。
すると、一瞬で腕が再生した。
「貴方こそ、腕を斬り飛ばされたのに全く動じないその精神力は感嘆に値しますよ。動きにも一切の迷いが見られませんし、相当戦い慣れているのでしょう?」
「そりゃあ、爆裂道を極めるのがアタシの目標なんすから、“究極的な破壊の一撃”にたどり着くまで日々鍛錬あるのみっすよッ!」
再び両者が動く。
大剣のリーチを生かして、一手早く横一閃を繰り出すアスタロト。
ゼータは跳躍して躱しつつ、連続小爆発で自身を押し出す。
素早くアスタロトの後ろへ回り込んだ。
『ゼータ選手、爆風を利用して背後を取りました!』
【爆裂爆熱拳】の連続使用による高速機動。
大胆なように見えて緻密に計算された発動位置とタイミング。
スキルの使い方一つとっても、ゼータはずば抜けている。
「【爆裂爆熱拳】──衝撃!」
ゼータが大振りの一撃を繰り出す。
アスタロトは大剣の腹で受け止める。
爆裂。
衝撃で吹き飛ばされないようアスタロトは踏ん張る。
だが、ゼータの攻撃がここで終わるわけがない。
「【爆裂爆熱拳】──瞬撃!」
爆裂、爆裂、爆裂──。
津波のように怒涛の連撃が押し寄せる。
「うぉぉおおおらぁぁぁぁああああああああああああああッッッ!!!」
「ぐ……!」
爆熱、爆風、衝撃。
それらが容赦なく襲い掛かり、押し負けたアスタロトは軽く吹き飛ばされてしまった。
「【爆裂爆熱拳】──爆撃!」
ゼータは力いっぱいリングを殴りつける。
直後、リングが爆発した。
『おーっと! ゼータ選手、目くらましを仕掛けましたー!!!』
『巻き上がったリングの残骸と土煙が厄介ですね』
ゼータの姿が土煙の向こうへ消える。
「それで私を欺いたつもりですか?」
アスタロトは【斬撃波】を放つ。
飛ぶ斬撃が土煙ごとゼータの足を斬り飛ばした。
「ぎゃー! アタシの御御足に何してくれてんすか!」
ゼータは宙を舞う自身の足を掴み、素早く構える。
「喰らえ! 生足美脚爆弾!」
投擲する瞬間に腕を爆裂させ、その推進力で投擲速度を加速させた。
「雑に扱いすぎでしょう、それは」
アスタロトは【斬撃波】を放つ。
足爆弾は両断され不発に終わった。
「もっと御御足を大切にしたほうがいいですよ」
「問題ないっす! もう次の御御足生やしたんで!」
突撃したゼータが猛撃を繰り出す。
アスタロトも大剣で応戦する。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「斬っても斬っても再生して面倒ですね」
斬って殴っての大乱闘。
幾度ともなく爆裂が巻き起こる。
『ものすごい攻防が続いております! ですが、アスタロト選手は未だまともなダメージを喰らっていません!』
『ゼータ選手には再生能力があるため拮抗しているように見えますが、現時点でのパワーバランスはアスタロト選手のほうが勝っていますね』
何度も何度もゼータの体が切り飛ばされる。
だが、ゼータは勢いを弱めることなく、斬られるたびに再生しながら殴り続ける。
「【爆裂爆熱拳】──衝撃!」
「隙だらけですよ」
ゼータの大ぶりの一撃。
火力特化の攻撃。
アスタロトは回避ざまに回転斬りを仕掛けた。
刃がゼータに迫る。
(ゼータの体勢では回避も反撃も間に合わない。ここで大ダメージを決めさせてもらいます)
アスタロトは攻撃が決まったと確信したが──。
「【爆裂爆熱拳】──」
ゼータの体から血が噴き出る。
骨が砕けるような音が響く。
(っ!? まさか……!)
アスタロトの大剣が届くよりも早く、
「──廻撃!」
上半身を可動域以上に捩じったゼータのパンチが炸裂した。
アスタロトが爆発に呑まれる。
『入ったぁぁぁーーーッ!!! ゼータ選手の攻撃がアスタロト選手に直撃しましたーーーッ!!!』
爆炎の中から傷ついたアスタロトが出てくる。
致命傷とは程遠いが、それなりのダメージにはなったようだ。
対して、ゼータは一度距離をとって再生に集中。
常人なら継戦不可能な大ケガが瞬く間に治る。
『再生能力持ちのゼータ選手が自分ごと爆裂したりといった自爆攻撃をするのは日常茶飯事レベルでよくあるのですが、初めて魔界に来たアスタロト選手では知らなくても無理はありませんね』
『とはいえ、アスタロト選手もここまでの戦いでゼータ選手についてわかってきたでしょうから、同じ手は通用しにくくなったと思われます!』
『ゼータ選手は傷を負ってもすぐに再生しますが、ダメージまで完全になかったことにできるわけではありません。アスタロト選手の攻撃や先ほどの自爆攻撃によって、確実にダメージが蓄積されています』
再生能力も万能ではないので、回復速度より受けるダメージのほうが大きければいずれ負けてしまう。
実際、これまでの攻防でゼータは三割ほどダメージを受けている。
だが、当のゼータはダメージの蓄積など全くないのではと錯覚してしまうほどピンピンした様子で胸を張っていた。
「驚いたっすか? アタシに関節可動域とかいう概念はねぇですよ!」
「軟体動物ですか」
アスタロトは無表情で小さくツッコミを入れる。
(一撃の破壊力、爆発を利用した高速機動、洗練された技術、ダメージをものともしないタフネスさ、不意を突くためなら躊躇なく自傷できる思い切りのよさ……。ゼータを倒した時、間違いなく私は一つ上のステージにいるでしょうね)
アスタロトは相変わらず無表情のまま。
しかし、心の中では「勝ちたい」という強い思いがメラメラと燃え上がっていた。
「アタシはタコっす! 今回も優勝して“おくと”しますか! なんつってねハハッ!」
「つまらないタコですね。すぐに〆て差し上げますよ」





