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第2-13話 邪神教徒との決着

「なかなか大変なことになってるね」


「正直、俺たちだけでは勝てそうにない。力を貸してくれ」


「お願い、ミラお姉ちゃん。力を貸して!」


「言ったでしょ、主役は遅れてやって来るって。私という主役が来たからには、もう大丈夫だよ。後はミラお姉ちゃんに任せなさい」


 俺たちの前に立ったミラは、邪神教徒を正面から見据える。

 ミラは俺よりも小柄なのに、なぜだかその背中はとてつもなく大きく見えた。


「ハッ、勝利の美酒に酔うのはテメェらじゃねぇ。俺たちだ」


「そう思っていられるのも今の内だよ。【幻影耐性付与】」


 ミラは俺とルカに対してスキルを発動した。



 【幻影耐性付与】。

 ミラが進化で新たに獲得したスキルの一つで、一時的に幻影耐性を付与するという効果がある。



「これであの人の幻影魔法に惑わされることはないでしょ?」


「……ホントだ。恥ずかしい映像を見せられても羞恥メーターが貯まってない。ありがとな、ミラ」


「やっと恥ずかしい思いしなくて済むー……。ありがとね、ミラお姉ちゃん!」


「チッ、幻影魔法が通じなくなったか。だが、俺が有利なのは変わりねーぜ。【共感性羞恥】!」


 ミラの頭上に羞恥メーターが現れる。


「あの二人は後回しだ。先にテメェを始末してやんよ」


 邪神教徒は幻影魔法を発動しようとして──それをミラが遮った。


「【共感性羞恥】と幻影魔法の黄金コンボを使えるのが自分だけだとは思わないほうがいいよ」


「……何?」


 刹那、空中に新たな映像が浮かび上がった。

 もちろんミラの幻影魔法によるものだ。


「テメェも幻影魔法を使えるだと!?」


「二人に幻影耐性を付与したのは、私が幻影魔法を使うためでもあるんだよ。君相手に時間をかけるつもりはないからね」


「チッ、舐めやがって……。なら、やってみせろよ。【共感性羞恥】の使用者特権によって俺の羞恥メーターは貯まりにくくなってんだ。羞恥レースの差でテメェに勝ち目はねぇ!」


「それはどうかな?」


 ミラはニヤリと笑って映像をスタートさせた。


「温泉で盛大に滑って転んだ少年の図!」


「ぐ……恥ずかしいが大したことはねぇ。まずは小手調べといったところか…………は?」


 邪神教徒が呆けた声を出す。


 それもそのはず。

 ミラの羞恥メーターは全く貯まっていなかったのだから。


 ちなみに、温泉で盛大に滑って転んだ少年は昨日の俺だ。

 ギルドに向かう前に三人で朝風呂して、その時に滑って転んだというのが顛末。

 ルカとミラにしか見られていないといえ、あれは少しだけ恥ずかしかった。


「羞恥メーターが貯まらないなんてことあるのか? ……幻影耐性を自分に付与したのか?」


「【幻影耐性付与】は他人にしか使えないよ」


「じゃあ、テメェは素で恥ずかしくなかったとでもいうのか?」


「当たり前じゃん、見て分からなかったの?」


 ミラが小馬鹿にしたように笑う。


「もう一度言うけど、私は幻影耐性なんて持ってないからさ。君も幻影魔法を使いなよ。まっ、私には効かないけどね」


「クソが、調子に乗りやがって。……ああ、いいぜ。俺の幻影魔法をたっぷり味合わせてやるよ!」


 あっさり挑発に乗った邪神教徒は、幻影魔法を発動する。

 ミラは一切動じることなく仁王立ちしていた。


 本当に正面から受けるつもりなのだろう。

 邪神教徒の恐ろしさを知ってる俺たちからしたら狂気の沙汰にも思えるが、なぜかミラなら大丈夫だという確信があった。


「ようやく付き合い始めた二人が、お互いに戸惑いながらも初キスする瞬間!」


「お~、青春してるね~」


 ミラの態度は相変わらずだった。

 羞恥メーターは貯まっていない。


「……感想はそれだけか?」


「ときめいちゃった」


「そんなことを聞いてんじゃねーよ! ていうか、今のも効いてねぇのか!?」


 驚愕する邪神教徒に向かって、ミラはお返しとばかりに幻影魔法を発動する。


「私なら公開プロポーズできるけど、君はどう?」


「ぐぁああああああああああ!? なぜこれだけの人間の視線を浴びながら、こんなキザいセリフを言えるんだテメェはぁぁああああああッ!!!」


 邪神教徒が悶える。

 羞恥メーターが貯まったのは、今回も邪神教徒だけだった。


「く、クソ……! なら、これでどうだ!? 間違って男湯に入ってしまった女に対する周囲からの視線!」


「間違えないでしょ、普通」


 ミラの正論パンチが炸裂。

 邪神教徒の羞恥メーターが少し貯まった。


「次は私のターンだね。君がお風呂ネタで勝負してきたから、私も同じネタで勝負するよ。貸し切りにした宿で混浴することになった思春期男子の苦悩」


「ぐぅぅ……! なんという羞恥的破壊力……ッ!」


 邪神教徒が苦しむ。

 その横で、俺もまた苦しんでいた。


「ぎゃぁぁああああああああああああッッ!?」


「ミラお姉ちゃん、ストップ! クロムお兄ちゃんにクリティカル羞恥ヒットしちゃってる!」


 ヤバい、俺の羞恥メーターがどんどん貯まってる!

 なんか幻影耐性、普通に貫通されてるんだけど!?


 アクアマイムに到着した日の出来事が鮮明に思い浮かび、それが羞恥メーターの貯まる速度をさらに加速させる。


 穴があったら入りたい!

 穴がないなら、いっそのこと生き埋めにしてくれぇ!


「あらら……。これはちょっとヤバいかも。ごめんね、クロム」


「…………はぁ……。なんとか助かった……」


 ミラが幻影を解除したことで、俺は九死に一生を得た。

 ……のだけど、俺の羞恥メーターはマックス寸前になっていた。

 あと一回でも恥ずかしい思いをすれば、俺は即座に爆発してしまうだろう。


 爆発しても火力的に死ぬことはないけど、だからって爆発するのは嫌だ。

 ミラには絶対に勝ってもらいたいです、切実に。


「……テメェの羞恥メーターが一切貯まらないのは気に食わねぇが、今のでいいことを教えてもらったぜ。まずはクロム。テメェを倒す!」


「まさか──」


「気づいたところでもう遅い! 混浴する男女を見て爆発しやがれ!」


 邪神教徒が幻影魔法を発動する。

 先ほどまで余裕の笑みを崩さなかったミラが焦った表情を見せ、ルカが悲鳴を上げる。


「クロムお兄ちゃんが爆発…………してない」


「いや、別に知らない人たちが混浴しててもなんとも思わないし……」


 あれはミラだからこそ俺にクリティカル羞恥ヒットしたのだ。

 幻影耐性がある以上、邪神教徒が同じことをしても意味がなかった。


「──だってさ。残念だったね」


「なん……だと……!?」


「驚いてるとこ悪いけど、ここからはずっと私のターンだから」


 それからは、圧倒的だった。

 ミラの幻影魔法による様々な恥ずかしいシチュエーションが、絶え間なく邪神教徒に襲いかかる。

 邪神教徒は次から次に襲ってくる羞恥心に悶え苦しむばかりで、全く反撃できていない。


 俺たちの目の前では、熾烈で苛烈な戦いが繰り広げられていた。


「俺たちは何を見せられているんだろうな?」


「さあ……?」


 幻影耐性のおかげで羞恥心から解放されたからだろうか?

 冷静になって見ると、邪神教徒とミラの戦いはすごくシュールだった。


 お互いを恥ずかしくさせる戦いってなんだよ。


 なおもシュールな戦いは続き、そして──。


「これで終わりだよ」


 ミラが最後の幻影魔法を発動させる。

 驚くほど呆気なく、邪神教徒の羞恥メーターはマックスになった。


「言ったでしょ、君に勝ち筋は存在しないって。私が来た時点で逃げるべきだったんだよ」


「そんな……、俺が負けるなど────ウボガッ」


 邪神教徒が爆発する。

 お互いを恥ずかしくさせる戦いは、面の皮が厚いミラの完全勝利だった。


「……敗北の不味酒まずしゅに、吐きそう、だ……」


 黒焦げになった邪神教徒がどさりと倒れる。

 邪神教徒は残った力で俺たちのほうに顔を向けてから、捨て台詞を吐いた。


「俺が負けても、まだ俺たちは負けてねぇ。俺たちの最高傑作はテメェらじゃ倒せねーよ……。せいぜい、頑張る……こと、だな……」



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いつも読んでくださりありがとうございます!
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