第2-2話 二度目の進化
ゴブリンキングを倒した翌日。
昼過ぎまでたっぷり睡眠をとった俺たちは、遅すぎる朝食を済ませて部屋に戻ってきた。
「二人とも早く早くー!」
真っ先に部屋に飛び込んだルカが、そわそわした様子で急かしてくる。
それもそのはずだろう。
なにせ、これから進化するのだから。
ワクワクするなというほうが無理だ。
俺だってめっちゃワクワクだぞ、内心では。
「前回の進化はナイトメアノワールを倒した後だから……一昨日か。なんか、ずいぶんと前に感じられるな」
「それだけ昨日が濃かったんだよ」
「きゅー」
それにしても、ルカとミラは高ランクの魔物だというのに、たった一日で進化できるようになったのは驚きだ。
それだけゴブリンキングが強かったのだろう。
……本当に、よくアレに勝てたなと思う。
もう一度戦ったら、確実に俺たちが負けるだろう。
だけど、それは今のままだったらという話だ。
今回の進化で、ゴブリンキングくらいなら苦労せずに倒せるようになる。
なぜだか、そんな気がしていた。
「じゃあ、ルカから進化するね!」
「きゅ~!」
「ルカのしたいように進化してくれ」
俺たちが応援する中、ルカは意気揚々と「進化開始!」と叫ぶ。
すぐにルカの体が淡い光に包まれた。
一度目の時よりも時間をかけて進化が完了する。
時間がかかったということは、それだけ肉体が作り変えられたということだろう。
どれだけ強くなったのか楽しみだ。
「どうかな?」
ルカがはにかみながら聞いてくる。
進化で見た目が変わったりはしていないけど……。
「気配が以前にも増して強く、重くなってる」
ルカから感じる存在感は、ゴブリンキング以上。
確実に強くなったのだと、実感させられた
「それに、可愛くなったな」
「えへへ、可愛いって言ってもらえた……! えへへ」
ベッドに腰かけたルカは足をプラプラ揺らす。
感情が丸分かりで、見ていて微笑ましい。
「きゅ~きゅ~」
そんなことを考えていると、ニヤニヤした表情のミラが肘で俺の脇腹をつついてきた。
「女性の容姿は褒めなさい」とは、昔病気で死んでしまった母上に何度も言われたっけ。
とはいえ、ミラにからかわれるとなんか恥ずかしい。
俺は話題を変えることにした。
「ルカはB-ランクのプロミネンスウルフから、A+ランクのクリムゾンウルフに進化したのか。ミラはどれだけパワーアップするのか楽しみだな~」
そう言って、ちらりとミラを見る。
「ルカも楽しみ~」
ルカの言葉で気合いが入ったようで、ミラは「私もパワーアップするからね!」と意気込む。
すぐに進化を始めるものだと思ったのだけれど、ミラはなぜか俺の頭に乗ってきた。
「ミラ?」
「きゅぅー」
ミラはお気に入りポジションでくつろぐ。
数分ほどじっと待っていると、ミラは満足げな様子で俺の頭から離れた。
そのまま滞空して、「きゅっ!」と一鳴き。
ミラの体が光に包まれる。
「わっ、進化始まったね。ミラも理想の進化ができるといいな~」
ルカは自分が進化した時よりもワクワクした表情で眺めている。
それだけミラのことを大切に思っているのだろう。
一方で、俺はと言えば先ほどのミラの行動が気になっていた。
進化を始める前に、ミラはお気に入りのポジションを堪能していた。
まるで、進化したらもう楽しめなくなるから、今のうちにいっぱい堪能しておこうとでもいうかのように──。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
ミラを包む光が一気に強くなった。
すごい眩しさだ。
ルカの時でもここまでは光らなかったのに……。
刹那、ミラを包む光が膨れ上がる。
ちょうど俺より少し大きいくらいだ。
進化で体長が大きくなったから光が膨れ上がったのかと考察していたら、光の中から高い声が聞こえてきた。
「イェ~イ! 私、爆誕っ!!!」
光が晴れる。
中から出てきたのは──。
──ドラゴンではなく、ピンク髪の美少女だった。





