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第26話 俺に必要なものは

「死ヌガイイ!」

「嫌に決まってるでしょ!」


 ルカに肉薄したゴブリンキングが大剣を振るう。

 ルカは紙一重で躱す。


 大剣の速度は、目で追うのがギリギリなほど速かった。

 遠目から見てこれなのだから、至近距離で戦っているルカからはもっと速く見えるはずだ。


 自分よりも巨大な大剣が豪速で迫ってくる。

 ほんの少しでも攻撃を見誤れば即死なんだ。

 相当なプレッシャーがかかっているはず……。


 それでもルカは喰らいついていく。


「きゅう!」

「小賢シイ! 貴様ノ分身モ、姿ヲ消ス能力モ見切ッタ! 我ニハ通用セン!」

「きゃあっ……!?」


 ゴブリンキングはルカの分身たちには目もくれず、何もない空間へと大剣を振るう。


 刹那、なんとか大剣は躱したもののバランスを崩してしまったルカが現れた。


「コレデ終ワリダ!」


 ゴブリンキングが大剣をまっすぐ振り下ろす。


「ルカ!?」


 大剣はルカのもとに迫っていき────当たることはなかった。


 なぜか剣筋がほんの少しだけルカから逸れていた。


「ありがと、ミラ!」


 空中で身をよじって体勢を整えたルカが、大剣の腹を蹴ってゴブリンキングから距離を取る。


「ミラがサポートしてくれなかったら死んでた!」

「きゅうっ!」


 ゴブリンキングがミラを睨む。


「分身ヲ生ミ出シタリ姿ヲ消シタリスルダケジャナク、相手ニ幻覚ヲ見セルコトマデデキルトハナ。ダガ、同ジ手ガ二度モ通用スルトハ思ワナイコトダ。今度コソ大人シク死ネ!」


 もう一度突撃したルカに向かって、ゴブリンキングは超リーチの剣撃を繰り出す。


 ミラのサポートはもはや通じていない。

 分身には一切目もくれず、本体が姿を消していようと位置を見破って大剣を振るう。


 それでもルカは持ち前の身体能力でゴブリンキングの攻撃を躱して、反撃を叩き込む。


「効カン!」


 ゴブリンキングは【不動の構え】を使わないどころか、もはや防御すらしない。

 ルカの渾身の一撃ですら、攻撃とみなされていない。


「多少ナリトモ我ニ喰ライツケタコトハ評価シテヤロウ。我ニ褒メラレタコトヲ光栄ニ思イナガラアノ世ヘ行クガイイ!」

「ッ…………!」


 ゴブリンキングが大剣を振り上げる。

 その凶刃がルカに届くほうが速いのはどう見ても明らかで──。


 その瞬間、俺は未知の恐怖に襲われた。


 格上と対峙した恐怖とも、死の恐怖とも違う。



 これは…………大切なものを失ってしまう恐怖。



 格上と戦うことよりも、殺されることよりも恐い。恐ろしい。失いたくない。

 それはなぜか?


 決まっている。

 ルカもミラも大切な仲間だから……家族だからだ。


 本当に大切だと心の底から思える家族だから、絶対に失いたくない。

 自分が死ぬのよりも、二人を失うほうが嫌だ。


 それをはっきりと自覚できたから──。


 あれだけ岩のように重かったのが嘘みたいに、俺の体は自然と動いた。


「上級回復魔法──」


 大事なものを守りたいからこそ。

 ……今ならいける気がした。


 一度も使ったことのない……数秒前までの俺じゃ絶対に使うことのできなかった魔法の使い方が、自然と理解できた。



「──プロテクション・ハイヒール!」



 ルカの体を緑色の光が包み込む。


 プロテクション・ハイヒールの効果は二つ。

 体力の回復と一時的な防御力上昇(極大)だ。


「ありがと、クロムお兄ちゃん! フレアネイル!」

「回復シタトコロデモウ遅イ!」


 ゴブリンキングの大剣がルカに直撃する。

 ルカは炎の爪で受け止めたものの、体格差もあって簡単に吹き飛ばされてしまった。


「チッ、マタ仕留メ損ナッタカ……! 無駄ナ足掻キヲスルヤツラダ」


 ルカは地面を何度もバウンドしながら俺のもとまで吹き飛んできた。

 だいぶボロボロだけど、プロテクション・ハイヒールのおかげで致命傷だけは免れている。


「ごめん、ルカ! 後で回復する!」

「ルカは平気……。それよりも、ミラを……」


 俺はルカの横を走り抜ける。


 ルカを弾き飛ばしたゴブリンキングが、ミラに向かって大剣を振り上げるのが見えたから。


「貴様ガ我ノ攻撃ヲ防グコトハデキナイ! ココデ死ネ!」

「きゅ……」


 凶刃がミラに振り下ろされようとした、その時。


「させるか!」


 俺はゴブリンキングの前に躍り出る。


「人間ゴトキガ我ノ攻撃ヲ止メラレル……」


 はずがないことは百も承知だ。


 だから俺は──、


「……ナンダト……!?」


 ──受け流した。


 空ぶった大剣が地面に直撃。

 大地が割れた。


 ……とんでもない威力だ。

 いくらなんでも攻撃力が高すぎる。

 ゴブリンキングは【身体強化】……いや、【身体強化】の上位スキルである【剛力無双】を発動している可能性が高いな。


 どちらにせよ、俺が力でゴブリンキングに勝てるわけがないことは変わらない。


「我ノ攻撃ヲ受ケ流ストハナ。ダガ、ソノ腕ノ震エヲ見レバ分カル。一発受ケ流シタダケデ限界ガキタノデアロウ?」

「全然平気だ! お前の攻撃なんて大したことない!」


 とは叫んだものの、ゴブリンキングの言ったことは事実だ。

 さっきの受け流しだけで、俺の腕は痺れていた。


「粋ガルナヨ、臆病者ガ! 先ホドマデ仲間ガ戦ッテイルノヲタダ見テイルコトシカデキナカッタ貴様ガ、我ニ勝ツナド万ガ一ニモ有リ得ン!」

「俺は臆病者…………だった」

「何ガ言イタイ……?」


 ゴブリンキングが怪訝な顔を浮かべる。


 俺は恐怖で一歩踏み出せなくて、ルカが傷つくまで何もできなかった。

 臆病者だった。


 だけど、今は違う!


「──俺に本当に必要だったのは、『勇気』だ。仲間のために一歩を踏み出せる、その強さが必要だったんだ」

「勇気ヲ得タカラ我ニ勝テルトデモ? 笑ワセルナ。貴様ハ無謀ナ戦イヲ挑ンダ敗北者ダ。ソレヲ教エテヤル。貴様ノ死ヲ以ッテナ!」


 俺は勇気を手に入れたから──。



「ここにいる人たちは誰も殺させない!! 絶対に、俺たちが勝つ!!!」



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