第24話 最悪の事態
ミラの【デコイ】と【ミラージュ】を組み合わせた作戦のおかげで、ゴブリンの上位種が相手でも問題なく集落の中を突き進む。
すぐにBグループの人たちが見えてきた。
「向こうも順調みたいだけど、何人かケガしてる人がいる! 急いでくれ!」
「ウォン!」
ルカが速度を上げる。
俺は冒険者たちに向かって叫ぶ。
「応援に来ました!」
「助かる……え? 狼……?」
冒険者たちは俺たちを見て一瞬固まった。
ルカが狼に変身できることは伝えてなかったからな。
だけど、そこはさすが冒険者。
すぐに狼を仲間だと認識して攻撃に戻る。
「ミラ、冒険者が動きやすくなるように援護を頼む!」
「きゅー!」
ミラは【デコイ】を発動。
分身たちをゴブリンに突撃させる。
「ギャー!?」
「ゲゲッゲ!?」
「ゲー!」
ゴブリンたちは分身に驚く。
狼&人&ドラゴンだからな。
初見じゃ驚いてしまうのも無理はない。
「【デコイ】のスキルか! ナイス援護だ!」
ゴブリンたちが驚いたり分身に攻撃したりしているうちに、冒険者たちは素早く仕留めていく。
ただでさえ押され気味だったゴブリンたちは、これがきっかけとなって完全に統率が崩壊。
一匹、また一匹と、次々に倒されていく。
「ハイヒール!」
俺は回復魔法で冒険者たちの傷を癒す。
「サンキュー、助かった!」
「ありがとな!」
回復した冒険者たちは、すぐに戦いに復帰する。
最後の一人を治療したところで、Bグループのリーダーが話しかけてきた。
「助かったよ、クロム君。ここはもう大丈夫だから、他のグループの手助けをしてあげて」
「了解です。皆さんも気を付けて戦ってください!」
「「「おう!!!」」」
そう告げると、冒険者たちから威勢のいい返事が返ってきた。
「よし、次に向かうぞ」
「ウォン」
「きゅー!」
俺たちはCグループのもとへと移動する。
その道中で襲いかかって来るゴブリンは、先ほどまでより少なくなっていた。
おそらく、集落にいるほとんどのゴブリンがそれぞれのグループの対処に駆り出されているのだろう。
「この感じだと、決着がつくのはそう遠くないと思う。だけど、油断はダメだ」
「ウォン!」
「きゅう!」
改めて、戒めの言葉を口にする。
ルカとミラから真剣な返事が返ってきた。
そのタイミングで、冒険者たちの姿が見えてくる。
「こっちのほうは……ケガ人が多いな」
ゴブリンたちは上位種の比率が高い。
特に弓使いや魔法使いなど後衛職が多い。
今のところは互角といった感じだが、士気が下がっている分、冒険者たちのほうがやや不利だ。
「援護します! ミラが隙を作るので、攻撃してください!」
「クロムか! いいタイミングで来てくれた!」
ゴブリンたちまでは、まだ少し距離がある。
今【デコイ】を発動しても、分身がゴブリンたちのもとへ到着するのに時間がかかる。
そのほんのわずかな時間で、矢を放つのを。魔法を撃つのを許してしまう。
それを防ぐためには──。
「ミラ、魔法を使ってくれ!」
「きゅう!」
ミラが「私の出番だ!」とでも言わんばかりに張り切った様子で魔法を発動。
すると、ゴブリンたちの挙動がおかしくなる。
何もない空間に向かって剣を振ったり、矢を放ったり、魔法を撃ったり……。
中には、味方を攻撃するゴブリンまでいる。
だが、決してゴブリンたちの頭がおかしくなったわけじゃない。
幻を見せて相手を惑わす。
──ミラの幻影魔法によるものだ。
「予想以上に効果覿面だな」
「きゅぃ!」
ゴブリンたちの謎の行動に一瞬気を取られたものの、すぐに攻撃を再開した冒険者たち。
今度は攻撃を喰らうこともなく一方的にゴブリンたちを仕留めていく。
「ハイヒール!」
「うおおお、復活だぜ!」
「ありがとね、クロム君!」
復活した冒険者たちはすぐに復帰する。
不利だった状況は、あっという間に完全逆転してしまった。
「クロム、感謝する。おかげで俺たちのところは大丈夫そうだ」
「では、ここは任せました!」
「ああ、任された! クロムたちも気をつけろよ!」
俺たちはDグループへと向かう。
その道中、ゴブリンに遭遇することはほとんどなかった。
「この感じだと、次で最後になりそうだ。気を引き締めていくぞ!」
「きゅぅー」
と、そこで。
上のほうから、パァンッ! という音が響く。
空を見れば、緑色の光が視界に映った。
「あれは……ライナーさんの合図か」
緑色は『殲滅完了』の合図。
つまり、ライナーさんたちのほうは無事にゴブリンを倒せたということになる。
「ウォン!」
「最後のグループが見えてきたな」
ケガ人は……どうやら少なそうだ。
浅い傷を負っている人はちらほらいるが、戦線離脱しないといけないほどの傷を負っている人はいない。
戦況はどう見ても冒険者のほうが有利だ。
他のグループの時と同じように声をかけてから、【デコイ】で援護する。
ゴブリンたちの数がそこまで多くなかったのもあって、すぐに決着はついた。
「ハイヒール!」
ケガ人の治療を終えたところで、リーダーが話しかけてくる。
「サポートありがとね。君たちがかく乱してくれたおかげで楽に倒せたよ」
リーダーがお礼を言ったのと同時に、パァンッ! という音が二回鳴る。
「どうやら、BとCグループも無事に殲滅できたみたいだね」
「そうみたいですね」
「僕らも合図を出そう」
リーダーが魔術師に指示を出そうとした、その時。
爆発音がしたと思ったら、ライナーさんたちのほうから新たな合図が出た。
黒色の光。
『緊急事態』を意味する合図が。
「黒い光だと!?」
「ライナーさんのほうで何が起こってるんだ!?」
勝利の余韻に浸っていた冒険者たちの間に動揺が広がる。
リーダーが素早く指示を出そうとして──。
ドゴォォォォンッ!!! と。
俺たちの目の前に何かが降ってきた。
地面がくぼみ、砂埃が舞う。
中から声がした。
「矮小ナ人間共ヨ。大人シク魂ヲ我ニ差シ出スガイイ」
砂埃が晴れる。
そこに立っていたのは……。
人間よりも大きな大剣を片手で担いだ、三メートル超えのゴブリンだった。
「ゴブリン……キング……」
誰かが、そう呟いた。





