第23話 ルカの新スキルとミラの能力
ゴブリンの上位種たちが集まってくる。
ほとんどはDランクの上位種だけど、中にはハイ・ゴブリンのようなCランク台の上位種も混じっている。
「作戦通りにいくぞ!」
「「「おおおッ!!!」」」
冒険者たちは威勢のいい雄たけびを上げてから、上位種相手にひるむことなく果敢に攻める。
後衛の弓使いや魔法使いが敵の弓使いや魔法使いを優先的に倒し、前衛の人たちはツーマンセルでゴブリンたちを素早く仕留めていく。
すごくいい連携だな。
それぞれがそれぞれの役割をこなせている。
「クロム! 俺たちのところは問題ないから、お前は他のグループのもとに向かってくれ!」
「了解です!」
四つのグループの中では、ここが一番強い。
総大将のライナーさんが率いているのだから。
戦況を見る限りだと、俺たちがいなくても問題ないだろう。
「ルカ、他の場所に向かうぞ!」
俺の役割は遊撃と味方の回復。
状況を見ながらあちこちに移動しないといけないから、より速く動くことが重要になる。
「ルカ、あのスキルを使ってくれ!」
「ん、ルカがクロムお兄ちゃんの足になる! 【獣化の術】!」
ぼふんっ! という音と共にルカの姿が消える。
直後、先ほどまでルカが立っていた場所には一匹の魔物がいた。
燃えるような赤色の毛並みが美しい、一メートルほどの狼が。
【獣化の術】。
ルカが進化で新たに取得したエクストラスキルだ。
「狼に変身した!? なんだそのスキルは!?」
ライナーさんが素っ頓狂な声を上げながらも、難なくゴブリンを斬り飛ばす。
驚きながらも隙を見せないあたり、さすがは高ランク冒険者だ。
「……なんにせよ、頼んだぞ!」
「はい!」
俺はルカの背中に乗る。
ミラは俺の頭の上に張りつく。
「行くぞ、ルカ!」
「ウォン!」
ルカが駆けだす。
【獣化の術】を使ったルカの速度は、俺が本気で走るよりも圧倒的に早かった。
さすが攻撃力と素早さに特化した魔物なだけある。
「ゲゲ!」
「ゲーッ!」
「ギャゲ!」
俺たちに気づいたゴブリンたちが、ここは通させまいと襲いかかってくる。
が、ルカは鮮やかにゴブリンたちの間を駆け抜ける。
俺は剣を振るう。
ルカの速度が剣に乗る分、いつもより簡単にゴブリンを斬ることができた。
「移動はルカに任せて俺は攻撃に専念する。かなりいい感じだな、これ」
「きゅう!」
ミラが「サポートは私に任せて!」とでもいうようにスキルを発動する。
刹那、俺たちの分身が五体も現れた。
「ゲギャッ!?」
「ゲー!?」
「ギャン!?」
ゴブリンたちが驚愕する。
その隙に斬り飛ばす。
「今のがミラのスキル【デコイ】か」
分身を生み出して敵をかく乱する。
シンプルな効果ながらに、使いようによってはとても強力なスキルだ。
「ゲッ!」
ゴブリンが分身に斬りかかる。
分身は斬られた瞬間、霧のように霧散した。
「本体はこっちだ!」
「ギャッ!?」
その隙にゴブリンを斬り飛ばす。
「きゅう!」
ミラはもう一度【デコイ】を発動する。
さっきと同じように五体の分身が現れる。
「ゲギャァッ!」
先ほどは驚いていたゴブリンたちだが、同じ手が二度も通用するはずがない。
上位種が素早く命令を出す。
弓使いや魔法使いゴブリンの放った攻撃が、すべての分身に直撃した。
本体がどれか分からないのなら、全部まとめて攻撃してしまえばいい。
そう考えていたのであろうゴブリンたちは、再び驚愕した。
分身だけが消えて傷を負った本体が残るはずだったのに、すべて霧散したから。
「これがミラのもう一つのスキル【ミラージュ】だ!」
【ミラージュ】は、蜃気楼で姿を隠すという効果のスキル。
気配や音なんかは消せないとはいえ、透明になれるのは非常に強力だ。
今回のように【デコイ】と組み合わせれば、分身を囮にして本体はこっそり敵に近づくというようなこともできる。
「ゲッ!?」
俺たちは指揮を執っていた上位種の前で【ミラージュ】を解除する。
上位種のほうからは、突然俺たちが目の間に現れたように見えたことだろう。
「ゲェッ!」
さすがは上位種。
すぐに我に返って攻撃してくる。
だが、それよりも先に俺の攻撃が命中する。
「ハイ・ゴブリンを一撃で倒せた……!」
少し前までの俺じゃ、考えられないことだ。
強くなったという実感を、おれはしみじみと噛みしめる。
「……っと。感傷に浸ってる場合じゃないな。ルカ、ミラ、引き続き頼む!」
「ウォン!」
「きゅー!」
今のところ、作戦は驚くほど順調に進んでいる。
このまま何も起こらなければいいのだが……。
今回の事件は前例がない以上、油断はできない。





