第21話 緊急依頼
「クロム。お前には緊急依頼を受けて欲しい」
ギルマスからそう告げられた。
緊急依頼。
それはボードに貼り出されているような通常の依頼とは違って、早急に解決しなければならない問題が起こった時などに出される依頼だ。
緊急依頼が出されることなど滅多にないから、俺の体に緊張が走る。
「詳しい話を聞かせてください」
「大事な話だから俺の部屋で話す。ついてこい」
というわけで、ギルマスの部屋の前に移動した俺たち。
扉を開けると、冒険者登録の時に試験官だった人がいた。
「よっ、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ライナーさん」
「久しぶり!」
「きゅー!」
「嬢ちゃんも久しぶり。そっちのドラゴンは初めましてだな」
ライナーさんへの挨拶が終わったところで、執務机に向かったギルマスが口を開いた。
「単刀直入に言おう。ここから北西に向かった場所でゴブリンの集落が発見された。お前にはその殲滅作戦に協力してほしい」
「……ゴブリンの集落、ですか」
「ああ。たった一週間で規模の大きな集落が作られていた」
「一週間前の定期巡回の時には何もなかった場所に集落ができたんだとよ」
ライナーさんが補足を入れてくれる。
その内容に、俺は愕然とした。
「たった一週間で集落が作られていた。……そんなことってあり得るんですか?」
「はっきり言って前代未聞だ。前例がない。だからこそ俺は、この一件には何者かが裏で手を引いているんじゃないかと思っている」
……確かに、きな臭い何かを感じる。
この辺の地域には、ゴブリンがほとんどいない。
たった一週間で繁殖して集落まで作り上げるなんて、物理的に不可能だからだ。
「少なくとも、フラメアの近くで暗躍している存在がいることは明らかだ。お前が報告してくれた魔法陣についてだが、他にも何個か見つかった。その魔法陣から見たことのない魔物が発生することも確認した」
あの魔法陣、やっぱり他にもあったのか。
「何もかもが謎な以上、ゴブリン集落に攻め込むメンバーは信頼できる人間のみにしたい」
「それを俺に言うってことは、ギルマスは俺のことを信用してるんですか?」
「お前のことは信用できる人間だと判断した」
「どうやって……」
「俺はそういうスキルを持っている」
「分かりました」
それ以上は聞かない。
相手のスキルなどを聞き出すのは、冒険者同士ではご法度だ。
手の内は安易に明かすべきではない。
「ライナーから聞いたが、そちらの獣人は戦力としても期待できる。それに、クロム。お前は回復魔法が使えるのだろう?」
「ええ、それなりに」
「今回の作戦には医療班も連れていくが、回復魔法を使えるやつは一人もいない。だから、ぜひとも協力してほしい」
ギルマスが頭を下げた。
それだけ真剣なのだろうが、そのことに俺は目を見開く。
「もちろん協力します! ゴブリン集落を放っておけば、街の人たちに被害が出る。見逃すことはできません。ですから、頭を上げてください」
「感謝する」
と、そこで。
静かに話を聞いていたライナーさんが口を開いた。
「クロム、お前たちなら活躍できると俺は思う」
「ありがとうございます!」
「だが、今回の危険度は未知数だ。ケガをするかもしれないし、死んでしまうかもしれない。それでもやるのか?」
試験の時のライナーさんの言葉がよみがえる。
──覚悟が足りていないから弱い。
……確かに、俺は覚悟が足りていない。
ナイトメアノワールが悪あがきした時、恐怖で動けなかった。
ルカを助けられなかった。
でも、だからこそ──。
「やります!」
俺の課題はそれだから。
夢を成し遂げるには避けて通れないから。
だから、俺は参加する。
「決まりだな。作戦決行は明日。早朝にギルド集合だ」
ギルマスの一言で、解散となった。
俺たちはギルドを後にする。
「ゴブリン集落の殲滅か……。絶対に激しい戦いになるだろうな」
危険度はナイトメアノワールの比じゃないくらいに高い。
だけど……。
「三人で力を合わせれば問題なし!」
「きゅう!」
俺には心強い仲間がいる。
「みんなで勝とう、絶対に!」
「もちろん! 進化して強くなったところを見せてあげるよ、クロムお兄ちゃん」
「きゅぅ!」





