第15話 思わぬ障害
ゴブリンの数は八匹。
リーダーと思われる個体は……他のゴブリンよりも上質な装備を身につけている。
群れの数が多いと思ったら、やっぱり上位種か。
種族はおそらくホブ・ゴブリン。ランクはD。
「注意すべきはリーダーだ。他のゴブリンは、数が多いとはいえ一匹一匹は大したことない。今の俺でも一対一なら問題なく勝てるくらいの強さだからな」
「なら、リーダーはルカに任せて!」
「頼む!」
ルカは一つ頷いて、地を蹴る。
腕に炎をまといながら懐に飛び込み、ホブ・ゴブリンが反応するよりも前に殴り飛ばす。
「ゲゴッ!?」
ホブ・ゴブリンが吹き飛んでいく。
ルカは続けて、近くにいた二匹のゴブリンを切り裂く。
「ゲゲェ!?」
「ギャァァ!」
「ギャエ!?」
一瞬でリーダーと仲間が倒されたゴブリンたちはパニックに陥る。
ルカが統率を乱してくれたんだ。
このチャンスを無駄にはしない!
俺も近くのゴブリンに剣を振るう。
あっさりとゴブリンの首が飛ぶ。
毛むくじゃらの魔物や魔法陣から出てきた蛇の魔物を倒したことで、俺は強くなった。
それを実感することができた。
追放される前の俺じゃ、一撃でゴブリンを倒すことなんてできなかったから。
「ファイアネイル!」
「これで終わりだ!」
一閃。最後のゴブリンがどさりと倒れる。
「数では不利だったけど、統率さえ崩してしまえば意外といけるもんだな」
「ルカのこと褒めてもいいんだよ?」
「それもこれも全部ルカのおかげだ。ありがとな」
「えっへん!」
ルカは誇らしげに胸を張る。
頭の上でケモミミがぴょこぴょこ動いているのが可愛らしい。
「……そういえば、ホブ・ゴブリンは? さすがに一撃じゃ死にそうにないが」
「顎を攻撃したから脳震盪でも起こしてるんじゃない?」
統率を失わせるために、気絶させるのを優先したのか。
どうやっても一撃で倒すことはできないから、ルカの判断は正解だ。
「とどめを刺してナイトメアノワールの依頼に戻ろう」
「そうだね」
ホブ・ゴブリンが吹き飛んでいったほうに移動する。
ホブ・ゴブリンはすぐに見つかった。
木にもたれかかるようにして気絶している。
「これで──」
俺は剣を振り上げる。
そのまま振り下ろそうとして──。
「危ない! クロムお兄ちゃん!」
ルカに襟首をつかまれて、無理やり後ろに引っ張られた。
「うえ!? 苦し……」
刹那、俺の眼前を何かが通過した。
「は? え? 剣?」
「もう少しで斬られてるところだったよ!」
ルカに言われてハッとする。
「助かった、ありがとう!」
「ん、どういたしまして」
俺は新たに出現した魔物を見据える。
緑色の肌。
銀色に輝くロングソード。
ホブ・ゴブリンのさらに上位種であるハイ・ゴブリンだ。
「気をつけろ。ランクはC-だ」
「ルカと一緒か……。倒すの苦労しそうだね」
「俺一人では勝てないから、力を貸してほしい」
「言われなくても!」
ハイ・ゴブリンは俺たちを一瞥した後、ホブ・ゴブリンに声をかける。
「ゲギャ」
「……ゲ?」
ホブ・ゴブリンは意識を取り戻す。
ハイ・ゴブリンを見るなり、泣きついた。
「ゲゲゲ! ゲギャ! ゲー!」
「ゲゲ」
ハイ・ゴブリンは小さく頷いてから、剣を振り上げる。
流れるようにホブ・ゴブリンの首を斬り飛ばした。
「は……?」
何をしているのか理解できなかった。
仮にも、仲間だったのに斬るなんて……。
ホブ・ゴブリンの頭が地面を転がる。
泣き別れた胴体がどさりと倒れた。
「ゲギャ」
ハイ・ゴブリンが俺たちに剣を向ける。
「ルカ、あのゴブリンとは仲良くできそうにないよ」
「俺もだ」
俺たちは同時に動き出す。
作戦は今まで通りだ。
ルカが森の中に姿を隠し、俺が正面から攻める。
どちらかが隙を作ってもう片方が叩く。
ヒット&アウェイの繰り返しだ。
「ゲゲッ!」
ゴブリンが横なぎに剣を振ってくる。
俺はとっさに受け止める。
「うぐ……!?」
さすがC-ランク……!
攻撃の重さが今までの魔物と違う……!
「……おらッ!」
なんとか受け流す。
それでも隙にはならなかった。
俺の剣が届くよりも先に、ハイ・ゴブリンの剣が迫る。
俺は攻撃を捨て、守りに全意識を割かざるを得ない。
攻撃の速さが段違いだ……!
だけど──。
「後ろが隙だらけだよ!」
ハイ・ゴブリンの背後にルカが現れる。
炎の爪がハイ・ゴブリンに迫る。
「ゲッ!」
「うわっ!?」
ハイ・ゴブリンは無理やり俺を弾き飛ばし、そのまま回転!
強引にルカを狙う。
ルカは身を捩って躱す。
着地と同時に素早く回し蹴り!
ハイ・ゴブリンの足を払う。
「今だよ、クロムお兄ちゃん!」
ルカがこれ以上ないチャンスを作ってくれた。
絶対に無駄にはしない!
俺の剣がハイ・ゴブリンを捉える。
この距離ならいける! 斬れる!
俺は剣を振った。





