事件発生
「クリスティア様、大変です!!」
「どうしたの、リナ?」
血相を変えたリナが、部屋に飛び込んできたのは、衣装の最終調整を行った数日後のことでした。
「う、噂が…」
「噂?わたくしが皇太子妃にふさわしくないというものなら、昔から流れているわよ?」
「違うのです!最終的に持っていきたいところはそれですけど、でも…!」
「リリー、お茶を。リナ、とりあえず座りなさい。ゆっくり話してちょうだいな」
焦るあまり上手く言葉が出てこないリナを、ソファーに座らせ、リリーが入れてくれたお茶を飲んで一息つかせます。リナがコクリと一口、お茶を口に含んで嚥下したのを見て、わたくしは話を促しました。
「それで、何があったの?」
「噂が出回っているのです。クリスティア様というか、私達に関する噂が」
「リナとリリーに?」
「はい。クリスティア様はわがままで、私達はそれに振り回されているとか、休みももらえないらしいとか…」
「なんですか、それ!」
「…休みをあげられていないのは事実ね」
「そういう問題じゃありません!」
「リリー、落ち着いて。大丈夫よ。詳しく教えてくれる?」
「私も詳細を知っているわけではないのですが、数週間前からどうやら噂は流れ始めたようで、私達がいつでもクリスティア様に付き従っていることを確認した誰かが、今日、大々的に騒いだようです。幸い、騒ぎに気がついた陛下が諌めてくださったので、大事にはなっておりませんが、不審の目は確実にこちらを向いています」
「そう。教えてくれてありがとう。数日前から流れ始めた噂というのが怪しいわね」
リリーはハラハラとしているようで落ち着きがありませんし、リナも焦りの滲んだ瞳で見上げてきます。わたくしは一度落ち着こうと深呼吸をし、今までの出来事と、出会ったひとを声に出して羅列していきます。
「まず、どこから遡るべきかしら」
「お部屋づくりを始めたあたりでいいのではありませんか?」
「となると、まず部屋を作り始めた日は…殿下の側近のみなさまかしら」
「言葉をかわしたのはそうですね、彼らだけであっていると思います」
「となると、殿下に確認が必要かしら」
「そうですね。また後ほど確認してまいります」
「お願い。それから、教育の日はヴィクトリア様…くらいよね」
「えぇ。お茶会の日が一番接した人数が多いのではありませんか?」
エルゼたちが貴族間に噂を流すことは考えにくいです。なので、彼女たちを除外して、貴族たちにだけ絞っていきます。
「皇后様のお部屋で行ったお茶会は怪しいわね。ラングの花が飾られていたし…」
「そう考えると、皇后様のお茶会でしょうか。けれど、花は蕾でしたから、今日花開く可能性は低いのではありませんか?」
「となると、わたくしが開いたお茶会ね。外部の者が皇太子宮に入れたのはあの日だわ」
「けれど、連れてくる侍女は一人と決めていましたし…」
「お茶会の席に同席した侍女は一人でも、家から連れてきたのが一人とは限らないわ」
「それは…」
「騎士に確認が必要ね」
「…もしかして、クリスティア様にはあたりが付いているのではありませんか?」
「…証拠はないわ。なんとなく、なら」
「教えて…はくださらないですよね。失礼いたしました」
「根拠のない推測は妄想と同じだからね」
きっと、この方だろうという予想はついています。けれど、証拠は一つもありません。わたくしに個人的な恨みがあるという風でもないのですから、証拠を抑えるのは難しいでしょうね。
リナの瞳が思考に沈んだところで、ドアがノックされました。慌てて応対に出たリリーはすぐに相手を室内に通します。
「どうぞ、お入りください」
「まぁ、皇太子殿下!」
「大変なことになったから、様子を見に来たのだ。大丈夫か?」
「えぇ。ですが、ちょうどよかったですわ。殿下にお聞きしたいことがあったのです」
「何でも聞いてくれ」
「まずは座ってくださいませ。リナ、リリー、お茶を入れ替えてきてくれる?」
殿下が座ったのを確認して、わたくしも対面に座ります。すぐにお茶のセットを持って戻ってきたリナたちに支度を任せ、世間話をふっとばして、本題に入りました。
「まず、噂の件についてですけれど、リナとリリーの労働環境についての噂以外に現在表立って流れているものはありますか?」
「いや…ないはずだ。ただ、これが他の皇族の噂やら、貴族やらの噂そっちのけで白熱している」
「やはり…」
「なにか心当たりがあるのか?」
「いえ。具体的なものは何も。ラングの花かなとも思ったのですけれど…」
「…可能性としては低いな。元手になるほどの情報はあっても、ここまで煽るのは難しいはずだ」
「そうですよね。噂が流れ始めたのが、数週間前と、リナから聞いたのです。外部のものを皇太子宮に入れたのも数週間前でした」
「外部の者…?」
「わたくしのお茶会です。養母様やお母様を抜きにしてわたくしが主催したので、皇太子宮で行っています。侍女は一人と限定しましたが、怪しいのはその日でしょう」
「わかった。騎士たちに聞いておこう」
「お願いいたします」
わたくしが丁寧に頭を下げると、殿下はすべて了承しているかのようにうなずいてくださいます。そして遠慮がちに口を開きました。
「…侍女を増やすか?」
「そうですね…増やしたほうがいいとは思います。けれど、それがリナたちに不満をいだいているからだと思われないように増やすのは難しいのではありませんか?」
「そうだな」
「たとえば、皇太子妃になるとき…婚姻を終えた後ということになりますけれど。その時に陛下から賜るとか、そういうことなら…」
「だが、クリスティアはひとをそう扱うのは好きではないのだろう?」
「…はい」
「ならば、なりたいという人を探すしかないが…」
「なり手がいないのですよね」
「あぁ。人手不足だな」
「人手不足の原因はわかっているのですか?」
「…今は王宮の人手不足よりも、噂をどう収束させるかだと思うが」
殿下にそう言われて、よくかんがえなおしてみました。多分殿下は直近の問題の方を解決したいのでしょう。ですが、一度収束させたところで再燃する事はわかっています。それならば根本から叩くしか無いのではないでしょうか。
「殿下には今回の犯人に心当たりはございますか?」
「…一応は」
「あら。慎重ですのね」
「私の個人的な考えだからな」
「そうですか。わたくしはお茶会に来ていた3人が怪しいと思います」
「クリスティア!」
「なんでしょうか?」
「むやみやたらに口にしていいことと悪いことがあるだろう」
馬鹿なふりをするのも、ドアの前に誰かいるのですから、仕方ないでしょう。ふいっと横を向いてリリーに合図を出します。これで、気配を感じさせることもなく、ドアを開いてくれるでしょう。
「っわぁっ!?」
「なぜ、お前がそこに?」
悲鳴を上げた人物に対して厳しい声をあげたのは、他の誰でもなく、キース様でした。
なんだか伸びなくなっちゃったのですが、いつも読んで下さる方々、ありがとうございます。
そうそう、別のシリーズや短編がいくつか予約投稿されてるので、連続投稿終了後もたまに見に来てくださると嬉しいです。




