皇族教育1
おひさしぶりです!
今日から皇族としての教育が始まります。まずはじめに、所作や言葉遣いに関しての授業がありました。
リナを連れて向かうのは皇太子宮にある、百合の間です。机と椅子が用意され、講義を行う場所になっていました。その隣にはお茶会で使うようなテーブルセットが準備されています。
「本日より、担当させていただきます。陛下の筆頭側仕えで、皇族方の教育係を仰せつかっております、ヴィクトリア・ベル・キャンベルでございます」
教えてくださるのは皇族方の教育係を長く務められ、今は陛下の側仕えとなられている、先々代皇帝陛下の異母妹の末娘で、皇位継承権を放棄された元皇族であるヴィクトリア・ベル・キャンベル様です。身分としてはわたくしの方が高いのですが、高貴な血を引かれていると考えると、少し接しづらい方です。
「わたくしは、クリスティア・ベル・オースティンでございますわ。よろしくおねがいいたします」
「この度は、婚約の内定おめでとうございます。陛下の側近を代表して、お祝い申し上げます」
「ありがとうございます。こちらこそ、これからたくさんご教示くださいませ」
挨拶を済ませると、互いにどう呼び合うのかを決め、講義が始まりました。
「言葉遣いにおいては、敬語を使用することは控え、自らより身分の低いものには丁寧語もしくは命令口調で接するようにいたします。令嬢はまだ、婚約内定という立場でいらっしゃいますが、使用人に対しての態度から試してみてくださいませ」
「わかりました。あの、わたくしは家でもこのような話し方をしていたのですけれど、おかしいことなのかしら?」
「宰相様のご息女ですから、身分としてはあまり変わらないでしょう。社交界にいらしたら、中級、下級貴族に囲まれるのでしょうから。そして、貴女の性格上、命じるということは出来ずに、そのような言葉遣いになったのだと思います」
「そうなのですか…わたくし、社交経験に乏しいのです。一般的な知識はありますけれど、いかんせん実践したことがないので咄嗟のときに臨機応変に対応できるかどうか…」
「そちらについてもきちんとお教えいたしますから、ご心配なさらず」
「それでは初めに、そちらの侍女の助けを借りましょう。わたくしは、身分の低い令嬢を悪質にいじめる役を演じますから、リナは身分の低い令嬢を演じなさい。クリスティア様はどう対応するのか、考えて動いてみてくださいませ」
「わかりました」
ヴィクトリア様の演技がとてもお上手で、本当にとても理不尽で些細なことに文句をつけるので、思わず叱りたくなってしまいますが、ここで声を荒げるのは淑女として失格になります。わたくしはヴィクトリア様に近づき、まずは挨拶をしました。
「ごきげんよう、ヴィクトリア様」
「まぁ、クリスティア様、ごきげんよう」
「なにか楽しそうなことをなさっていたのね。わたくしも混ぜてくださいませ」
「もちろんですわ。何をなさいますか?」
「わたくしのことなど気にせず先程までのように歓談して良いのよ?それとも、わたくしには見せられないようなことをしていたの?」
「いえ、そんなことは…」
「あら、よかったわ。わたくしの友だちがそのようなことするわけがないものね」
「そうですわ。クリスティア様の友人であるわたくしが、そのような下等なこといたしませんもの」
「えぇ。そうよね。わたくしが身分をかさにして下の者を虐めることを厭うのは皆が知っているもの。貴女がしていたらわたくし、驚いてしまうわ」
驚いて、気を失ってしまうかもしれないわ。なんて言ってにっこりと微笑むと、ヴィクトリア様は少し目を逸らします。リナは助かったとでもいうふうに、笑みを浮かべていました。
「ここまでにいたしましょうか。お上手ですよ、クリスティア様。そうですね、気を失うという表現はおやめくださいませ。と申しますのも、理由があるのですが、それは皇太子妃としての教育のときに、お教えすることになるでしょう」
「まぁ。皇族になることが確定しないといけないのですね?」
「左様でございます。それでは、次は貴女が皇太子妃となることに暗に不満をぶつけてくる貴族への対応にいたしましょうか。それとも、クリスティア様のお体の弱さを心配しつつ、嫌味を言ってくる貴族への対応にいたします?」
この日は所作に関する講義と実践を受け、その時々に挟まれる皇族特有の表現に翻弄される日になりました。
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