初めての晩餐
皇帝皇后両陛下との謁見を終え、皇太子殿下のエスコートで向かった先は、皇太子宮のいわゆるダイニングルーム、ヘスティアの間でした。
長机の端と端に二人分の席が用意されており、殿下が席まで案内してくださったあと、給仕が椅子を引いてくれ、殿下が座るのを待って席につきます。
「はじめてくれ」
「かしこまりました」
給仕たちが動き出すのを横目にわたくしはナプキンを膝にかけ、そっと給仕に向けて手を上げました。
「どうかされましたか?」
「少なめによそっていただけるかしら?」
「かしこまりました」
小声で頼むと、わたくしの体のことはもう知っているのか、すぐに了承し厨房に伝えに行ってくれます。
直後にオードブルが、量が減らされているのが見た目ではわからないように工夫されて運ばれてきました。
「季節の野菜とタラバ蟹、帆立のテリーヌでございます」
給仕が料理の説明をして下がると、一口、料理を召し上がった殿下から、質問をされました。
「陛下はどうだった?」
「お優しい方でした。威厳のある方でしたが、とても親しみやすく、父が唯一の主と敬う理由がよくわかりました」
「そうか。皇室に馴染めそうか?」
「わたくしは部屋にこもっていた分、社交能力があまりありませんので、そういった面に励んでいかなければ馴染むことは難しいように思いますが、早く馴染めるように努力いたします」
「そうだな。社交は皇族に必須の義務だ。だが、無理はするな」
「ご心配ありがとうございます」
わたくしたちが少しぎこちない会話をしている間にも料理は次々に運ばれてきます。
「ヴィアンドは牛サーロインのロースト 温野菜添えでございます」
メイン料理まで来ました。この空気を読みあう時間ももう少しで終わりです。ですが、この時間のうちにわたくしには聞いておきたいことがありました。
「殿下、質問があるのですがよろしいですか?」
「あぁ、どうした?」
「両陛下はなにか特別な御力をお持ちですか?」
「どういうことだ?」
「オーラ…というのでしょうか、何か靄のようなものが一瞬見えたのです」
「そうか…」
殿下の瞳が思考の波に沈みます。深く悩ませてしまうようなことを口にしてしまったのでしょうか。
「申し訳ございません。世迷言とお忘れくださいませ」
「いや。私は宮殿の内部しか知らないから、他者からの印象はたとえ世迷言であろうと興味深い」
殿下が少しだけ思考の波から戻ってきました。そのタイミングで給仕がデセールを運んできます。美しい飴細工で飾られたマカロンなど小さく可愛らしいお菓子が盛り付けられていました。
思わず顔をほころばせていると殿下の視線を感じ、慌てて表情を引き締めます。耳が赤くなっているのを感じていると殿下が口を開きました。
「こういうものが好きなのか?」
「え?…その、お恥ずかしながら、可愛らしいものが好きで…」
「恥ずかしがるところまで妹と同じだな」
「皇女殿下とですか?」
「あぁ。今度会うのだろう?可愛らしいものを持っていくと喜ぶぞ」
「素敵なアドバイスをありがとうございます。参考にさせていただきますね」
「いや…」
少し恥ずかしそうに殿下が視線をそらします。その姿がなんだか可愛らしくてまた笑みが零れそうになるのを必死に抑え、デセールを口に運びました。
晩餐を終えて退席の挨拶をするとわたくしはすぐに湯浴みを済ませ、皇宮での最初の日に幕を下ろしました。
お久しぶりです。
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