もつ煮込みラーメン
帰宅しても部屋に電気がついていないことや、部屋が寒い事にまだ慣れない。
一人暮らしというのはこんなにも寂しさに直面する瞬間が多いものだとは知らなかった。
スーパーで半額セールになっていたもつ煮込みラーメンを袋から取り出して電子レンジに入れる
母からのLINEでは相変わらず父への呪詛が列挙していた。
見ているだけでも消耗して疲れる
日課の質問を確認する。
『最近いいことありましたか?』
『思いがけず人の優しさに触れることがありとても助かりました。ご参考にして頂けましたら幸いです。』
引っ越して来たばかりの町で色々足りない物を買い揃えていて、あれもこれもと夢中になっていたら自分で持てる量をはるかに超えた荷物を何とか必死に抱えながら帰る羽目になってしまった。
マンションのオートロックドアでポケットの鍵を取るために一旦荷物を床に置いてから鍵を開けてドアーがしまらないうちに、床に置いた荷物をなんとか中に入れなければとあたふたしていたらたまたま外から戻ってきた人が「手伝いますよ。」と、声をかけてくれた。
それがナオキだった。
断るまもなく彼は床に置いてあるいくつもの紙袋をサッと持つと、エレベーターのボタンを押して私を待ってくれていた。部屋まで持って行くと言われ、流石にそれは悪いからと辞退したものの、エレベーターでまた荷物の受け渡しにまごつくのも結局迷惑だなと思い、気持ちよく彼の申し出に甘えることにした。
私の住む2つ上の階に彼も越してきたばかりだという。
部屋まで荷物を運んでもらった上に難航していたベッドの組み立てや、棚作りも手伝ってくれた。
彼が屈強な男性だったなら、私も申し出はお断りしていたと思うが、女性のように華奢な体躯と大学生の様な彼の雰囲気になんの警戒心も抱かずに家に招き入れていた。
後々考えてみたら、とても危険な事だったかもしれない。
初めての一人暮らしでの不安が大き過ぎて見知らぬ男性の親切心に対して警戒心も抱かずにすっかり甘えてしまった。
『今日の夕飯はなんですか?』
『スーパーで買ってきたもつ煮込みラーメンです。ご参考にして頂けましたら幸いです。』
今までは父や母の為に料理をしてきたけど、なれない一人暮らしが始まってからというもの全然料理をしなくなっていた。
実家の時はいつも料理の写真を撮ってはSNSに投稿していたので、それを楽しみにしてくれていた人からの質問かもしれない。
『どんな人がタイプですか?』
『私の作った料理を美味しいって食べてくれるような人がいたら好きになっちゃうかもしれません。ご参考にして頂けましたら幸いです。』
ベッド作りや棚作りのお礼に来週末は我が家でナオキに手料理を振る舞う約束をしている。
予め好き嫌いは聞いたが生牡蠣以外は何でも食べれるとの事だったので、何を作ろうか色々悩むけど、その日の気分で何を作るか決めることにした。
ピピピッピピピッ
リズミカルに調理完了を知らせてくれるレンジに「ありがとう」と声をかけて熱くなった容器を落とさないようにテーブルに運ぶ
カトラリーケースから箸を取って、我が家には1人分のカトラリーしか用意がない事に気づく。明日の買い物リストに追加しておかなければ、忘れないうちにスマホのメモ機能をあけて買い物リストに追記しておく。
いただきます。ひとりぼっちの部屋でつぶやく