豚骨カップ麺
古くなったヤカンに水を注いで火にかける
大晦日だというのに仕事のプロジェクトが大詰めで全く休める気配がない
床に置いてあるスーパーのレジ袋の中からカップ麺を取り出す
ビニールを剥いて、キッチンにスタンバイさせる
お湯が沸くまでにユウカの質問箱を読み返してみる
『照れくさくって言えない事ってある?』
『たくさんあります。大切な人へいつもありがとう。とか、親に産んでくれてありがとう。とか、思っててもあんまり言えてない事が沢山あります。』
ユウカの恥ずかしがり屋な面がよく分かるいい質問だと思う。
『今の恋人とはどんな風に出会ったの?』
『家が近所で引っ越した時に色々手伝って貰ったことがきっかけで仲良くなってお付き合いしました。』
ユウカは私と初めてあった日のことを覚えていなかった。
12年前、よく行くテイクアウトのコーヒー店にある日ユウカも通ってくるようになった。
彼女は決まっていつもエチオピアの深煎りブラックを頼んでいた。
特別に美人ではなかったが、品のある服装や店員とのやり取りを毎日見ているうちにどんどん惹かれていった。
店に並んでいる間やコーヒーを待っている間、ユウカはいつも熱心にスマホを操作していた。
ある日たまたまユウカの真後ろで並ぶ機会があったので、彼女の丸み帯びた後頭部や小さな肩越しに垣間見えるスマホ画面から、私はこの質問箱に辿りついた。
ユウカが初めて会ったと思っているのは、本当に初めて会った日から1年後の冬の話だ。
ピィーーーーーーーーーーーーーーー
けたたましく鳴って沸騰を知らせるヤカンが現実に引き戻す
カップ麺のフタをあけて、中の線までお湯を注いで5分待つ
部屋が広々とした感じがあるが恐らく気のせいだろうと思う
昨日した質問にまだ返事はない
『今どんな景色がみえますか?』
年明けからは少し料理をしてみようかと思う
冷凍庫の中には沢山の肉が綺麗に整頓されて入っている。
「いただきます」