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幸せな結婚  作者: 吉江 美緒
5/9

手羽元の黒酢さっぱり煮

下味をつけた鶏の手羽元に焼き色をつける為に少しごま油をひいたフライパンで焼く


鶏皮から出る油がパチパチといい音をたてる

全面に焼き色を綺麗につけるために菜箸で鶏肉を時々裏返したりしながら片手間にスマホを操作して質問箱をチェックする


この時間になると大体いつも3件くらいは質問が届いている


『どんな人がタイプですか?』


なかなかベタな質問が来たな


『優しくて誠実で話し合いがきちんとできる人が好きです。ご参考にして頂けましたら幸いです。』と、返事を書く


鶏手羽に焼き色がついたので、まな板の上に並べておく

黒酢、醤油、水、蜂蜜、美味しい粉末だし、生姜の輪切りに包丁で潰したニンニクを鍋に入れて煮立たせる


『急に泣きたくなることってありませんか?』


子供の頃からあまり泣かない質だったが、兄が亡くなってからはいつの間にか涙が溢れてくることもあって、自分で思っていたより自分の弱さに驚いたり身勝手さに腹が立ったりもする


『はい。時々、家族のことでいつの間にか泣いてしまっていることがあります。ご質問者様も泣いてしまう事があるのでしょうか。お心穏やかに過ごせますように。ご参考にして頂けましたら幸いです。』


煮立った鍋の中に鶏肉と朝作っておいたゆで卵を入れて、オーブンペーパーを適当に折って真ん中に穴を開けた簡易的な落し蓋で蓋をして20分ほど煮込む


『後悔していることはありますか?』


私は兄が亡くなる前、兄のことを大変疎ましく憎んですらいた時期があった。

一般男性が社会進出して会社組織の中でたくさんの経験を積まなければならない時に兄は刑務所で過ごしていた。


前科者であることと、経験不足にも関わらず元来のプライドの高さが邪魔をして父のコネで入った会社ではどこも上手くいかず、勝手に辞めては、訪ねてきて母に金をせびる生活を続けていた。


時には母に暴力を振るうこともあって、その事で私は兄と全く口をきかなくなってしまっていた。

2~3か月前に来ていた質問を急に思い出した。


『消えて欲しい人はいますか?』


『兄です。ご参考にして頂けましたら幸いです。』


あんなこと書かなければ良かった。あの日も、兄が来ていたみたいで私が帰宅すると家の中がめちゃくちゃになっていた。割れたコップや食器が散乱していたので一通り片して、寝室に居る母の様子をそっと伺ってから、腹立ち紛れに回答したような気がする。


『後悔していることは沢山あります。どうか、ご質問者様は誰かの死を願ったりする愚かな人間にはならないで下さい。ご参考にして頂けましたら幸いです。』


ピピピッピピピッピピピッ

キッチンタイマーの音で我に返る


お手製の落し蓋を菜箸でつまみあげてそのままゴミ箱に捨てる

濃い茶色に染まった手羽元と卵がつやつやと輝いている


お皿にこんもりと肉と卵を盛って煮汁もかける

食欲を誘うとてもいい香りが顔を撫でるように押し寄せてきた


ダイニングテーブルに取り皿やご飯を盛った茶碗とお箸もセットして


夕飯できたよ。と伝えた

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