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幸せな結婚  作者: 吉江 美緒
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味噌ラーメン

最近購入したばかりのダイニングテーブルの上に夕飯が運ばれていた


うちには、ラーメン丼がないので、小さめの丼にこんもり肉野菜炒めが乗ったラーメンかパスタ皿にオシャレに盛り付けられたラーメンのどちらかを食べることになる


自分にどちらかを選ぶ権利などなく、いつも座る所に置かれたものを食べるだけだ


「いただきます」


黙々とテレビと丼にだけ視線を向けて肉野菜炒めから食べる


自分たちがどうして今こうなってしまったのか全く理解が出来ない

ユウカはいつも笑顔で他愛もない話をしてきたり、時には小難しい話を2人で論議したりする端から見て自分達はとてもいい夫婦だったはずなのに、3ヶ月前から「おはよう」「ご飯できたよ」これ以外の会話はほぼなくなってしまった。


原因は子作りだとは思うが、ここまでの状況になるとは思ってもみなかったし、それ以外にも何かあるのかもしれないが分からない


入籍した日にユウカが嬉しそうに「これで子供作れるね!」と笑顔で言ってきた時には怖気が走った

死ぬまで1人で生きて行く予定だった自分に妻という家族が出来た事だけで手一杯なのに、子供なんてとてもじゃないが考えられなかった。


自分の年齢が32歳ユウカは4つしたの28歳

確かに子供を作っても世間的にはおかしくない年齢だが、そもそもそんな事を人生設計していないのに、急に言われても困るし


独身時代の収入だって散々趣味に費やしてきて貯金もないのに、婚約指輪も分割で購入したばかりで子供なんて金ばかりかかってメリットが何もない


「子供は欲しくない」と彼女に伝えるだけで精一杯だった

その時のユウカがどんな顔だったかは10年経った今では全く思い出せない

そもそも自分の気持ちを吐露するのがやっとで彼女の顔なんて見てもいなかったかもしれない


この、『子供を作る作らない』という話し合いは2年おき位のペースで行われていて結婚4年目頃に「子供を作ろう」と言ったことはなんとなく覚えている


濃厚な味噌スープと相まって野菜炒めのキャベツの食感がいい

中太麺にもスープが絡んでとても美味しい


テレビではユウカが撮り溜めていた、MCのお笑い芸人が大御所から若手と様々なお笑い芸人を毎週ゲストに呼んでは、ゲストのネタを見て分析するというような内容のものが流ていた

ネタ作りの仕方なんかは聞いていて自分の仕事にも通じるものがあり面白い番組だと思う


今までならユウカと一緒に談笑する楽しい時間だった食事も今はただ栄養を取るだけの時間になった


ユウカとの子供が欲しくない訳じゃない

ただ仕事に追われていたり、長く一緒に居た事で女性というよりも母親に抱くような安心感をユウカに感じていて、それ以外の家族が必要性を考えられなかった。


1年前初めてユウカから「死にたい」と言われるまで、正直子作りの事などまともには考えてこなかった。


ずっと先延ばしにしてきた夏休みの宿題をいよいよ取り組まなければならないような気持ちで自分なりに真剣に考えた結果「養子を貰おう」と絞り出すのが精一杯だった。

「私との子供欲しくないの?」という意外なユウカの答えに「そんな事ないよ、子供を作るのもいいと思う」と伝えた。


機能不全になってから9年以上経っている。

この状態で子供が作れるのか、もし子供が作れない原因が自分の機能不全と病院で明確化されてしまってもユウカは一緒に居てくれるのだろうか。

真夏の入道雲のように膨れ上がる不安に押しつぶされそうになる、視野がどんどん狭くなって雲に飲見込まれそうだ

「ちょっと、、大丈夫?座ろう」とユウカ言われて初めて自分が過呼吸になっていたことに気がついた


スープを全部飲むと塩分が多いのでスープだけ残して食事を終えた


ユウカはもう食べ終えて寝室に行ってしまったのだろう

撮りためた本人が見ていないお笑い番組が流れている


「ごちそうさまでした」誰もいないダイニングで小さく呟く

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