再び君の世界へ
自分の世界に戻ってくるなり、僕はこっぴどく叱られた。
それから一族中で随分話し合いが続いた。
“神の名において…”
僕が掟を破ったことは重大なことだ。
なりたいかなりたくないかはとりあえずおいておくとしても、仮にも僕は父様の後継ぎだ。
許されるはずがない。
僕のことで色々ともめている頃、僕は自室に閉じ込められていた。
外に出てもやることはないから、構わないけど…。
それに晴太が遊びに来てくれたし。
「お兄ちゃん、どうして外に出られないの?」
「…ん?どうしてかな。僕はただ…たった一人の女の子を好きになっただけなのにね」
「人間の女の子?」
「うん」
晴太は少しの間考えて、僕に問いかけた。
「人を好きになっちゃいけないの?」
「え…?」
晴太の素直な疑問に僕は戸惑った。
まるで考えなかった事をサラリといわれる。
「人を好きになることは、いけないことなの?」
「…それは…。…僕は、思わない。いけないなんて思わない。…でも僕らは…」
「お兄ちゃん、神は人を幸せにするんでしょ?じゃあ、それなら神は?僕らは幸せを感じていけないの?」
晴太の考え方は、あまりにも真っ直ぐで純粋で、僕はそんな晴太にただただ憧れた。
自分の気持ちを素直に口にできる。
僕には難しいことだったから。
“神の後継者”としてしかみない周囲に、自分の気持ちを隠すことで僕自身を守ってきたから。
僕と晴太はまるで正反対で、それでも僕にとって唯一の理解者だった。
たった一人、反対の環境であっても、いつだって僕を支えてくれた。
だからこそ、僕は晴太を守りたいんだ。
「お兄ちゃん?」
「あ、いや。いつもありがとう、晴太」
「…お兄ちゃん、また、そうやって一人で解決しようとしてるでしよ。お兄ちゃんには、僕だけじゃなくて大切な人がいるんだから」
「…え?」
「だーかーらー!お兄ちゃんが好きになった人は、お兄ちゃんのことちゃんと考えていたでしょ?」
「……日向…。…でも晴太、僕達は…」
すると生意気に溜め息をついて、晴太はいった。
「違うでしょ、お兄ちゃん。誰かを好きになって、大切に想うこと。僕はすごく大事だと思うんだ。それが神だとか、人間だとか、そんなのどうでもいいんだよ。自分を理解してくれる人、支えてくれる人、それから…好きになってくれる人。ただでさえ、お兄ちゃんは他人優先で自分を犠牲にするんだ。だから忘れてるんだよ、自分の幸せを…」
幼いはずの晴太がそういうと、僕の中で何かが崩れていくようだった。
僕は幸せになっちゃいけないと、僕の中で決めつけていたんだ。
それがまるで僕の運命と…。
「ねぇ、お兄ちゃん!その日向さんはどんな人?いっぱい話してよ!」
晴太は無邪気に笑ってくれた。
でも、晴太。
僕は晴太のためなら、命を捨ててもいいんだ。
それだけは、何をいわれても変えられない唯一の信念だから。
それから晴太も一緒になって父様を説得してくれた。
そして、十七歳になった僕は、日向のいる世界へ再び舞い降りることができる。
あの約束を果たすために…。
そう、僕は日向、君に会ってあの日いえなかったことを伝えたいんだ。
けれども、僕が思い描いた日向との再会は、思いもよらない再会となってしまうことを、今の僕には知るよしもなかった。