君にとっての幸せ
それから二週間、各地を見て回ったがその気持ちだけは消えなかった。
もう一度日向に会えばわかるかもしれない。
でも、逆にわからなくなるかもしれない。
そんな風に思い悩んでいた時だった。
僕の耳にオカリナの音が聞こえてきた。
澄んだとても綺麗な音。
あれは確かに僕が日向にあげたオカリナの音だ。
どこか懐かしさを感じる曲を奏でるその音に、僕は導かれてあの橋の上空へやってきた。
日向と二週間前に出会った、あの橋の上空に。
見ればそこには日向が立っていた。
まだ僕には気づいてないようで優しい音色を奏で続けている。
僕はもう少しだけそれを聞いていた。
「晴!」
メロディーが途切れたと思ったら、僕の姿に気づいたようだ。
「残念。もっと聴いていたかったな」
いいながら僕は日向の前に降り立った。
「来てくれたなら早く教えてよ。気付かなかったらずっと吹いてたわ」
恥ずかしそうに日向はそっぽを向く。
「ごめん、すごくきれいな音色だったから。……もっと聴いていたいな、日向のオカリナ」
橋の上、二人並んで夕陽を見た。
学校帰りの日向は背負っていた赤いランドセルを地面に置いた。
「晴はどうしてこの世界にきたの?」
「人間にとっての幸せを知るため。けど、この世界の違う場所では人間同士の殺し合いをしていた」
この二週間、僕は人間の住むこの地球のあちこちを見て回った。
「せっかくの青空がそこにあるのに、真っ黒な煙で見えなかった。どうして人はそんなことをするのか、僕にはわからないんだ。日向はどう思う?」
僕が見た世界。
まるで色のない世界。
「私にもどうして戦争とかするのかわからない。みんなで仲良くできないのかなって思うの。……けどね、私思うんだ。人にとっての幸せって……」
日向は言いかけてやめた。
僕は続きを待つように日向の横顔を見つめる。
すると、日向は僕に笑顔を向けた。
「晴だったらきっとわかるわ。だってね、私は晴と出会えたことで幸せを見つけたから。これがヒントかな?」
日向はいたずらに笑った。
日向の言うとおり僕にもいつかわかるだろうか。
僕がこの世界にいる一年のうちに知らなくてはいけない。
「晴?どうしたの?」
「え?」
「なんだか深く考え込んで」
黙りこくっていた僕を心配してか。顔を覗き込んでそういった。
「いや『幸せ』について考えてたんだ。日向の見つけた幸せってなんだろう…って」
「さぁ、何でしょう?あははっ!」
日向は僕を見て笑いだした。
「な、何?急に!」
「なんでもない!でもね、ありがとう、晴」
「え…?」
「ありがとう」
僕には理解できない。
いきなり笑い出したかと思えば、「ありがとう」だなんて。
僕は何か日向にしてあげられたかな。
会えばわかると思っていた不思議な気持ちが余計にわからなくなってしまった。
まだ優しく笑っている日向の横顔とその視線の先にある夕陽とを僕は交互に見る。
もうすぐ日が沈み、闇がこの世界を包む。
明日は雨になる。
雲が少しずつ多くなり赤く染まる空を覆っていた。