神の後継者
「晴、一年だけの掟だ。いくらお前でも掟に背くことは許されない。一年、その間でけりをつけろ。いいな」
「はい」
僕は一年という期限付きで再びこの地に足をつけた。
僕は人間じゃない。
『晴れを司る神』の息子。
父様の次に神になる“予定”だった。
人間でいうとちょうど高校生にあたる僕だけど、本当ならとっくに父様の跡を継いでいてもおかしくはない。
だが、以前僕は『神の掟』を破ってしまったことがある。
そのために、父様の跡継ぎに僕の弟、晴太にも白羽の矢が立ったのだ。
神の住む世界では十五歳でそれぞれ大人の扱いを受ける。
日本でいう元服がいい例だ。
僕の弟の晴太はもう少しで十五歳。
晴太がいわゆる十五歳の誕生日を迎えてから最終的に後継者を決定する。
つまり今の段階では、まだ僕が継ぐか晴太が継ぐか決まっていないわけだ。
僕にとってはどちらが継ぐことになっても別にかまわない。
けれど、晴太にも一つ問題があった。
晴太は体がとても弱い。
それというのも、僕たち神には生まれつき神力というものがあって、神術いわゆる神が使う秘術をかけるのにその神力を必要とする。
その神力が晴太にはないに等しかった。
神はその神力がないと生きられない。
その最低限度の力すら晴太の中にはなかった。
それと引き換えに僕の中に巨大な神力が存在している。
その実際の大きさは僕にも父様にもわからない。
未知の力はいずれこの身をも滅ぼしてしまうかもしれない。
父様からそう聞かされた時、僕自身も怖かったけど、それ以上に周りの方が恐怖を抱いていたと思う。
父様は晴太と僕のことを考え、僕の神力の一部を晴太に供給することで、どうにかできると思ったんだ。
その判断は間違ってなかった。
晴太の命をつなぐことができたのだから。
とはいっても、僕の神力はそれでも計り知れないほど残ってしまっている。
ただ救いだったのは、僕が自分の神力をうまく扱えることだろう。
神力もあって、それを操ることができるなら、父様の後継者は僕でいいという者もいるけれど、僕は掟破りという、許されないことをしてしまっている。
そして晴太は生きていくために供給している最低限度の神力でさえ扱うことができない。
下手に扱おうとすればその力が暴走しかねない。
はた迷惑な僕たち兄弟をよく思わない者だってもちろんいるだろう。
だからといって、他の後継者がいるわけではない。
どんな形にせよ、僕たちのどちらか必ず選ばれてしまうんだ。
だけど、僕の願いはただ一つだよ。
ただ晴太が生きていてくれることが僕の何にも変えられない望みなんだ。
なんて偉そうなこといっておいて、結局は僕が全ての元凶なんだけど。
掟に背くことは許されない。
そもそも掟なんて昔のお偉い人が作ったもので、そんなのすべて覚えている者なんていない。
ぶっちゃけあってもなくてもあまりわからない。
…なんて父様の前では口が裂けてもいえないけど。
掟は神が自分勝手に行動して世界がめちゃくちゃにならないようにするための、戒めといった方があってるだろう。
僕はそんな掟に背き、自分の意志に従って行動してしまった。
『神はその名において、一個人のためだけに神力を使ってはならない』
背いた罪は重い。
もう七年前になる。
僕が十歳の時の話だ。
神になるための修行の一つとして、一年の間、人間の世界で暮らす。
その時のことだ。